思い出のマーク・クルーン

 ダボダボのズボン。ちょっと斜めに傾けた野球帽。異世界の住人のような出で立ち。異常なほどの豪速球。マーク・クルーンの記憶は、今でも野球ファンの心に鮮明に焼き付いている。最速162キロという異次元の球速に誰もが惹きつけられ、時折見せるその不安定さは数々のドラマを生み出した。大谷翔平が165キロで最速記録を更新はしたが「心に残っているクルーンの球の方が早く感じてしまう。」という方も多いのではないだろうか。私が出会ったプロ野球OBの方からも「クルーンの球が一番速かった。」という話をよく聞く。当時の岩瀬・藤川・イムなどの名だたる抑えの中でも、色々な意味で一際目立つ存在であった。

出世するクルーン

 クルーンが来日したのは2005年。アメリカで160キロを記録するも、その制球力のなさから日本へとやって来たクルーン。しかし佐々木主浩氏のアドバイスもあり徐々に制球力を身につけ、セットアッパーとして活躍。シーズン途中に佐々木主浩が離脱すると抑えとして抜擢される。翌年からは守護神として定着するも、2008年には年棒などで揉め巨人へ移籍。年棒も3億円(推定)へとアップし、巨人のリーグ3連覇の立役者となるのであった。

クルーン劇場

 ところがこの最速男クルーン、皆さんもご存知の通り試合を壊してしまうことも多々あった。ズバズバ三振をとったと思えば突如四球を連発、さらには暴投。いつしかそれは「クルーン劇場」と呼ばれるようになった。甲子園での押し出しサヨナラ四球は、クルーン劇場の最たるものと言っていいだろう。最後のフォアボールの判定に、「審判を食べるのでは」というほどの勢いで詰め寄るクルーンが忘れられない。

 気性の荒さも群を抜いていたクルーン。名古屋ドームで唾をかけられた!と老人と大げんかをしたこともあった。(その男性は「入れ歯が外れただけだ」という言い訳をしていたが、もはやカオスである)元中日のタイロン・ウッズと練習中に口論になったというニュースもあった。とにかくすぐ荒れ狂うイメージもあったクルーンだが、その反面とてもお茶目な一面もあった。ダチョウ倶楽部のくるりんぱをしたかと思えば、ジャパニーズネーム「タカユキ」をチームメイトから名付けられタカユキを名乗っていた。サインにクルーンをもじって「狂雲(くるーん)」と記したり、右肩に「信」の文字を入れるほどの親日家でもあったクルーン。あの、どことなく「アバター感」があったクルーンは今何をしているのだろうか。懸命に捜索した結果、なんとInstagramにてひっそりと現在の状況を更新するクルーンを見つけた。

クルーンのInstagram

 現在地元で家族と幸せに暮らすクルーン。そんなクルーンのInstagramはフォロワー1000人ほどと、ひっそりと公開されていた。現在のクルーンがこちらだ。

 現在は44歳とまだまだ若いクルーン。しかし写真のクルーンはやはりそれ相応に年を重ねている。お母様と写るクルーンの優しい笑顔に、現役時代の「審判を食う」表情は全くない。全体的に家族との写真が多いInstagramだが、驚きはクルーンの息子さん。現在大学で野球をやっているようなのだが、こちらがその息子さんの写真である。

 なんと、もはやクルーンより大きい!約190センチだったクルーンより身長も体重も大きいように見える。これは逸材である。ここでふと息子さんが大学に入る時に、クルーンがとった写真を見つけた。

18 years ago I carried this boy out the hospital like this. Now I am dropping him off the same way at college. Where has the time gone? It's been an emotional few days for me. Knowing he will not be walking through my door anytime soon is so hard. I could not be more proud of him and his hard work and dedication. I feel safe leaving him because I know he will make good decisions. So the time has come to say goodbye!! Thank you for choosing me as your dad. I love you Matthew Kroon. I will always be here for you and will never abandon you. I PROMISE. @mkroon22 #uofo #ducks #iwillbebacksoon #dontcallformoney #collegelife #onyourown #macandcheese #doyourhomework #girlsarebadfornow #baseballlife #timetogrowup #iwillmissyou. #loveall3ofmykids

Marc Kroonさん(@marckroon42)がシェアした投稿 -

 赤ん坊のころように、今の巨大な息子を抱くクルーン。この投稿から息子さんが大きくなった喜びが存分に伝わってきて、私は少し泣いてしまいそうになる。現在大学で野球に励む息子の活躍が生きがいだと述べるクルーンはとてもいいパパなのだ。そしてクルーンにはもう一つの宝物がある。それがこちらだ。

 腕の「信」の文字もまだしっかりと残っているクルーンの横に可愛らしい女の子が。そう、クルーンにはこんな小さな娘さんがいるのだ。こちらの娘さんへの深い深い愛情も、このInstagramから痛いくらい伝わってくる。そしてなんとクルーンに瓜二つなのだろう。間違いなくクルーンのお子様だとわかるお嬢さんだ。これからもクルーンのように、すくすくと育っていくことだろう。

 今回このInstagramを発見し現在の幸せそうなクルーンを見て、心が安らかな気持ちになった。

 今後もクルーン一家が穏やかに幸せに暮らせるよう、そして娘さんはクルーンの身長を追い越すことが無いよう、切に願うばかりである。


ザ・ギース尾関高文