勝つと評価も変わる
今年、楽天イーグルスが春先から調子が良く、優勝争いを繰り広げていますが、2013年の初優勝のとき、私は夏季限定ユニフォームとして、『TOHOKU GREEN』というユニフォームをデザインさせていただきました。“東北の自然の保全と共存”をテーマに、深い緑を使用したモデルです。
前年の夏くらいから、どんな企画にするか、どんなユニフォームにするかを球団と何度も話し合い、このデザインに決まりました。開幕直後の4月中旬にこのユニフォームを発表したのですが、当初は、後に3年も続く長寿デザインになるとは全く思えないくらい、この緑とクリムゾンレッドの組み合わせに対する反応が薄かったのを覚えています。
しかし、すでにお気づきの方がいるかもしれませんが、この年は球団が初めてリーグ優勝、そして日本一へと輝くことになります。チームが強いとユニフォームもカッコよく見てもらえるのか、この頃には数ヶ月前とは比較にならないくらい、このTOHOKU GREENに対する嬉しい言葉をたくさんいただきました。

※楽天のTOHOKU GREENユニは、このモデルからスタートしました。
先述のように、僕と球団がユニフォームをどうするかを話し始めるのは毎回だいたい前年の夏場あたりから。ですが、この年の夏はチームが好調で来年のことを考えている場合ではない状況でした。2014年の夏季ユニフォームについてのスタートも少し遅れており、話し合いが始まったのは10月くらいだったと思います。『あとは日本シリーズを残すのみ』というくらいの時期に動き始めたのですが、その時にはもうすっかり緑が浸透し、バージョンを変えて継続することが決定します。
一年目は、緑をどんな緑にするか、など検証することがいろいろありましたが、2年目も同じ緑でいくことになり、課題は、どうやって2013年バージョンと変化をつけるか、ということになりますが、奇抜なことをする以外だと、ユニフォームを構成するエレメントの中では、やはり“TOHOKU”という胸ロゴを大きく変えることでした。
新しくロゴを変えて
アーチ状に配置したブロック体の書体から、全く違う見え方をする書体を考えた結果、筆記体のロゴに決定。そしてボディ部分にはいわゆるラケットラインを施し、完成に向かいます。
この年からユニフォームを提供するサプライヤーが、メジャーリーグ30球団全てを担当するマジェスティック社に変わりました。そして、日本で最初に携わったチームが楽天だったので、アメリカのデザインを意識している僕としては、一気にメジャーリーグ感を出せるチャンス、とばかりに、筆記体の胸ロゴ以外の背中のA~Zや0~9はこのマジェスティック社が持っていたメジャーリーグ球団にも使用している書体をそのまま使用しました。
ソックスにもラインを入れ、前年との明快な区別ができ、かつスタイリッシュになったのではないかと思います。

※3モデルを比較してみると。
結果的にTOHOKU GREENは、2015年も継続。同じく過去2年のものとの違いを出す事に重点を置き、デザインしました。3年目となるこの年のモデルは、袖と襟もとにリブを付け、胸ロゴは前年の柔らかいイメージのある筆記体から、少し角がある書体にし、“T”以外は小文字にした右上がりの書体をデザイン。それに合わせて、背中のA~Zや0~9も制作しました。
ここまでの話で、僕のユニフォームデザインの作業は、書体のデザインがメインなことが分かっていただけたかなと思います。というのも、ユニフォームというのは、いいロゴや書体ができれば、無地のユニフォーム、またはストライプのみのユニフォームにそれらを置くだけでいいと思っています。ポイントとして、袖や首周りなどにラインを入れる、リブを付けるくらいの施しで十分かなと。

※それぞれの文字書体のみを揃えてみました。
“着るものだから”なのか、昔はユニフォームデザインを、ファッションデザイナーに依頼する球団がけっこうありましたが、ファッションデザイナーの仕事は、服のシルエットや素材を考える仕事であり、立体や空間を作る仕事です。
しかしユニフォームの場合、素材は各メーカーが開発していますし、袖の長さや細め・大きめなどのシルエットは選手自身が各自で決めてしまうので、実際考えられる要素は、胸のロゴや数字のデザインや配色がメインになるんです。
これってファッションデザイナーの仕事ではなく、グラフィックデザイナーの仕事なんじゃないかな?とずっと思っていましたが、昨今は僕を始め、グラフィックデザイナーさんがデザインしている球団も増えてきましたね。
編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。
http://www.oneman-show.com