とっておいてよかったもの

 私は各球団とのお仕事で、ユニフォーム以外にも、各種ポスターグラフィックやロゴなどいろいろな物をデザインさせていただいています。今回は、その中でもチケットデザインのおはなしです。

 もともと私は収集癖があり、中学の時にプロ野球にハマって以来、観戦した試合のチケットの半券を全て取ってあるんです。なぜそんな事を始めたのか、なぜ保存していたかは自分でも謎ですが、今となっては捨てずに取っておいて良かったものNO.1かもしれません。
 日付と対戦カードを見ただけで試合内容が言えるようなものもありますし、1994年の日本シリーズの長嶋監督初の日本一決定試合のものなど、野球史的に有名な試合のものもあり、見返すとなかなか楽しめます。

©︎大岩Larry正志

※その取ってある半券の一部。これはこれでいい雰囲気出してます。

ふとしたことに疑問

 実は野球のデザインというものに興味を持ち始めたころから、チケットにある疑問が湧いていたんです。それは、メジャーリーグのチケットは縦型になっていて、座席など情報掲載部分以外のスペースに、ロゴや選手写真などグラフィックが施されているのに対して、日本のチケットは横型で、券面いっぱいに情報が載っているという部分についてでした。

 背景にうっすら選手画像があったり、端っこにロゴがちょこっとあったりするものもあるのですが、あってもそれぐらいです。メジャーが全ていい!というわけではありませんが、デザイン性を高めて、もっと“手に取った時に試合まで待ちきれなくなる高揚感”があったり、“捨てずに取っておきたくなる”ようなものにできないものかと、ずっと思っていました。なんかもったいない気がして。

©︎大岩Larry正志

※過去の実際のチケットをコラージュしたデザインがカバーになっているフォトアルバム。グッズになるほどメジャーのチケットのデザイン性は高い。

 年に1回かもしれない、一生にそんなにないかもしれない野球観戦——。そのチケットは特に子どもにとっては宝物だと思いますし、僕のように保存している人もいるかもしれません。
 しかも僕の場合は、自分でチケットを手配するときは、チケット業者のものではなく、ちゃんと球団が発行しているもので購入すると決めていているんです。チケット業者のものだと、音楽コンサートチケットのも、他のスポーツの試合のも、全て同じになってしまうので、保存するものとしてのメモリアル度が薄いかなと思っているんです。


 そんな思いが、2008年に西武ライオンズ(当時)のお仕事をさせていただいた時に実現しました。それまで横型だったチケットを縦型にし、デザインを施す事ができたのです。
 そして、2015年には楽天イーグルスのチケットを、同じく縦型に変更し選手画像をデザインすることができました。
この選手画像は、球団の年間通して使用するメイングラフィックに合わせたものを使用しているので、全体のブランディングの一環としても役割を果たしていますし、選手違いで複数種類あるので、コレクションアイテムとしても楽しんでもらえると思います。

©︎大岩Larry正志

※過去3年分。観戦するたびにどのチケットで発行されるかわからないので、それも楽しんでもらえれば。

 毎年デザインを変えているので保存しておいてもらうと、“この選手がいたということは○○年のかな?”“この時の試合は○○選手がすごいホームランを打った”など、将来懐かしく感じてもらったりしてもらえるのかなという思いを込めています。しっかりデザインをするだけで、一枚のチケットが多くの人の人生の一部に関われるものになる、というのは大げさですかね。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。
http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志