趣味が仕事の参考に

 野球カードというと、スナック菓子に付いていて子供が集めるもの、または“おまけ”、というイメージがあるかもしれませんが、最近では“わざわざ買うもの”として定着しつつもあります。球団がファンサービスの一環で無料配布したりするものもあり、野球とファンを繫ぐ大きなコミュニケーションツールとして、文化に定着しているもののひとつです。持っていない選手のカード同士を知人・友人と交換する、いわゆる“トレーディングカード(通称トレカ)”と呼ばれているものもありますよね。私も、この類のものをもう30年近く集めており、行きつけのカードショップからは「○○シリーズの新しいのが入荷しましたよ」と定期的に連絡がくるほどです。
 ずっと趣味で集めていただけなのですが、最近は球団が発行するそれらのトレカをデザインさせていただくことも多く、今ではこれまでのコレクションが資料となり、蓄えてきたカードが大いに役立っています。

©︎大岩Larry正志

※私物カードの一部。もっともっともーっとあります。

 最初にカードのお仕事をいただいたのは、2008年の西武ライオンズ(当時)です。交流戦ユニフォームデザインとともに、ポスターなどと一緒に依頼いただきました。ファンクラブ会員が球場に来場した時の配布用に、在籍選手全てをカード化するというものでした。連載第4回目にも書きましたが、この時制作したものは全て“黒”をテーマにデザインしたので、カードにも黒を使用しています。チームカラーの赤や緑、水色でバリエーションを作りましたが、実際にデザインしてみるとけっこう難しいなと感じたのを覚えています。
 元々、日本のカードを集めつつも、アメリカのカードデザインにもずっと注目していて、デザインが気に入った物は購入したりもしていたので、カード表面は悩みつつもなんとかデザインをこなせたのですが、裏面などは実際にやってみないと気づかない事ばかりでした。

“裏面”の苦労

 例えば、プロフィール欄。トレカは、裏面にその選手のプロフィールや数年分の成績が載っていたりするのが通例ですが、プロフィールのテキストの長さがみんなバラバラなんです。高校からプロに入った選手と、大学からさらに社会人まで経由してから入った選手ではその経歴の情報量・文字数が大きく違いますが、どんな分量がきても、それらを綺麗にバランスよく掲載できるちょうどいいスペースを探さなければいけません。

©︎大岩Larry正志

※今ではだいぶ分かってきました。

 「最近5年の成績」などのスペースも同じように、5年以上在籍してる選手の成績は奇麗に埋まりますが、それ以下の年数の選手はもちろん書く事がないので、その場合でもうまくレイアウトできるようにしないといけないのです。けっこう試行錯誤しているんですよ。

©︎大岩Larry正志

※左から、西武ライオンズ、楽天イーグルス、東京ヤクルトスワローズのカード。

 表面は表面で、いろんなポーズの写真が入る(例えば、打つ瞬間のものやガッツポーズのものなど)可能性があることを意識しておかないといけないのですが、フレームのデザインなどを考えるのは大変ながらも楽しいです。英語と数字だけで構成できるという部分も、私にとってはかっこよくデザインする腕の見せどころでもあります。
 無料配布のものでも販売しているものでも、トレカというものは何選手分かの種類があり、基本的には袋に入っていて中身が見えないのが基本です。「誰が出るかな?」とドキドキしながら空ける瞬間が楽しいのですが、そのドキドキ感を裏切らないような、出てきた選手がよりキラキラ輝いてかっこよく見えるようなデザイン、思わず集めたくなるようなデザインを心掛けています。
 野球好きの子供にとってこういったカードと言えば宝物も同然、大人になってもその記憶が残っている方もいらっしゃるでしょう。その大切な一枚になるかもしれないこの仕事もなかなか責任重大です。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志