見た目だけではない想いを込めて

——企画ユニフォームの制作からスタートし、いまではおふたりのタッグでいろいろなクリエイティブを実現しているとお聞きしました。
渡辺太郎(以降、渡辺) そうですね。いまでは東北楽天ゴールデンイーグルスが提供するクリエイティブの多くを大岩Larry正志さんにお願いしています。企画ユニフォームというイベント自体のポスタークリエイティブをはじめ、さまざまなグッズもそうですし、いまではバックスクリーンのビジョンのレイアウトまでお願いさせていただいています。
大岩Larry正志(以降、ラリー) いろいろやらせていただいています。
——制作するものの中では、デザインが簡単に決まらないものもあると思うのですが?
渡辺 もちろん、そういうものもあります。もっと良くするためにはこうじゃないかとか、意見交換はさせてもらっていますね。
ラリー コンセプトも含め作り込んでいるので、例えば一度出したものが、イーグルスさんとしての方針に噛み合わない部分が出たりしたときは、丸々作り直すようにしているんです。例えば、ここの赤い色を青に変えてくれとかっていうときは、一箇所だけ変えるとデザインとして気持ち悪いものになるので全体を触ったり。もちろん、一部だけを変えるときもありますけど、基本的にはそういった方針で、しっかり話し合った上で作るので大きなズレはなくできているのかなと思いますね。
渡辺 しっかり会話ができているというのは、担当としてはすごくありがたいことだなと思いますね。色と色の相性とか、ロゴの位置とか、それこそ刺繍がどうとか、そういうデザインとしての作り込みはもちろん大事なんですけど、それ以上に、そのデザインに込められたストーリーというのも大切だと考えています。極端な話、細かい部分のデザインだったら、人によっては気がつかないものもあると思うんです。でもそういう人は、コンセプトに共感してくれている部分があったりする。作り手として満足してしまうだけでなく、伝えたいものをしっかり伝えられるよう、進めています。最初は時間がかかりましたけど、いまはしっかりその部分をお互い考えながら作れていると思いますね。
ラリー 渡辺太郎さんがクリエイティブディレクターで、僕はアートディレクター。そういう役割分担がしっかりできているからこそ、いまのような作り物ができている気がします。
スポーツデザインの未来

——おふたりでやってきたもので、一番印象的なものはなんですか?
ラリー やっぱり、2013年の優勝ロゴですかね。ユニフォームももちろん思い出深いですけど、デザインとストーリーという話でいくと、あの優勝ロゴがけっこう苦労した分、一番しっかり作り込められたと思います。
渡辺 僕もですかね。ラリーさんのコラムですでに触れられていますけど、もともと緑を意識して葉っぱが配置されていたものが、リーグ優勝時にはフラッグになり、最終的には日本一で大きく羽ばたく翼になる。ストーリー的にもよかったなって思います。あとは最近だと、2017年のブラックイーグルスでも活用しているワシのモチーフのロゴですね。これはある方が話されていて、自分としても考え直すきっかけになったのですが、「楽天イーグルスってなんなの?」って言われたときに、チームをわかりやすく表現できるものは、「イーグル」かな。つまりワシなんだなって。だから、ワシをモチーフに使っているこのロゴは、やりたかったことのひとつですし、実際ファンのみなさまからの反応もすごくよかったんです。これからも大事に使いたいと思っています。
ラリー デザイン的な“遊び”にもこだわっているしね。これはまだ誰にも指摘されていないんだけど、ある仕掛けがされているんです(笑)
渡辺 いつかしっかり、お伝えしたいところですよね(笑)
——気になります(笑)。今後おふたりとして実現したいなあと思っていることはありますか?
渡辺 これは私たちがなにをやりたいという話ではないのですが、スポーツ界全体として、もっとデザインというものに注目されるようになるとよいなと思っています。やっぱり、単純に子供が憧れる存在って、カッコいいものだと思いますし、もっとラリーさんのような人が増えると、スポーツ業界の発展に繋がると思うんです。
ラリー 作り手としても、考えることは多いんですよ。例えば、ロゴをひとつ作るときにも、ユニフォームのためだけじゃなくて、グッズ用のピンバッチにしたときにどうなるかとか、Tシャツにしたときとかどんな見え方になるかとか、そういうことを想定しながら作ると先に繋がるんです。そういった知識がどんどん広まってくれると良いかなとは、このコラムを通じても思いますね。そもそも、何のためにそれを作っているのか、それを作る事によってどうしたいのか、など目的があるかないかで、ずいぶんとものづくりとして変わってくると思います。例えば、僕の場合は「街着にできるユニフォーム」を目指していたりしますが、そういうのがあるとデザインがブレないのかなと。
渡辺 “スポーツクリエイティブ”というジャンルがまだまだ日本では未開拓なんです。アメリカがいい! というわけではないんですけど、スポーツ産業として、日本でアメリカの街のような盛り上がりが生まれるようになっていってほしいですね。こういう連載で、こういうことを考えながらものを作っているんだよって言えるのはすごくありがたいなと思っています。野球に限らず、オールジャンルのスポーツで発展していってほしいなと思います。
ラリー 僕自身、こういう活動を通じて、他のスポーツ業界の方から連絡をもらうことも増えました。まだまだやれるところはあると思いますし、皆さんにいいと思ってもらえるものをドンドン作っていきたいです。田中マーくんのように、大岩マーくんも連勝でいきたいなと……(笑)
——いいオチをありがとうございます(笑)
ラリー いえいえ(笑)。でも本当に、まだまだできることはあると思っています。他のスポーツの発展につながるものもいろいろとぜひ、やらせていただきたいですし、例えば野球だけでも高校野球とか、スタジアムそのものとか。
楽天で言うと、球団が新しいので、過去のイメージやテイストを変える、ではなく、「楽天イーグルスとはこういう球団だ」というのを進行形で作らせていただいている状態です。これは未来を作るようなとても大きな責任あることで、それを見て育った子ども達が「かっこいいチーム」と言ってくれることを目指したいですね。
渡辺 未来ある小さな子どもたちが憧れるように、まずはイーグルスのフィールドからではありますが、貢献していければなと思います。
——ありがとうございました。

編集協力:ベースボール・タイムズ
■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。
また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com