球界トップクラスのスピン数を生み出すフォーム
上原浩治選手のストレートの平均球速は140km/hそこそこ。使う球種もほぼストレートとスプリットの2種類のみ。それでも強打者を抑えられる理由として、制球力や出どころが見えづらいフォーム、ストレートとスプリットがほぼ同じ軌道で投げられるなどたくさん挙げられます。
そしてそれらに加えて特筆されるのがスピン数。MLB平均が約2200回転なのに対して上原浩治は2400を超えます。以前紹介した則本選手もスピン数がずば抜けていますが、40歳を超える上原選手がなぜそれほどまでのスピン数を稼ぎ出すことができているのでしょうか。
そこには上原選手特有のフォームに秘密が隠されています。
筋力の衰えを特有のフォームでカバーしている
上原選手の投球フォームを見てみると、非常に特徴的なのが小さくて速いテイクバック、そして同じ身長の投手と比べて明らかに小さいステップ幅。これらは主に制球力や「ボールの出どころの見えづらさ」に役立っています。例えばステップ幅を小さくすることで、ダルビッシュ選手よりも20cmも高い位置からリリースしています。
さらにここではもっとマニアックな部分にフォーカスしてみます。とてもマニアックな視点ですが、彼のすごさを象徴する重要なポイントです。それは投げ終わった後に思いっきり右半身が前に飛び出していることです。
一般的にはピッチャーはフィニッシュでは前足に完全に乗って安定することが良しとされています。しかし上原選手は軸足である右足が大きくキャッチャー方向に踏み出すほど飛び出しています。これは他のピッチャーにはなかなか見られない動きで、かなり高度な投げ方です。
この動きが、筋力が衰えてくる40代の肉体にもかかわらず質の高いボールを投げられるキーポイントです。特に近年は”飛び出し具合”がどんどん大きくなっています。若い頃のフォームと現在のフォームを見比べるとその変化がわかりやすいですね。
1999年の上原選手
2018年の上原選手
上原は意図的に前に飛び出している
この動きがなぜメリットになるかというと、右半身が前に進む、つまりボールを投げる方向に進むということは、ボールに長い時間、大きな力を加えられるということを意味しています。
スピン数を高めるには、腕を速く振ることに加えて、長い時間にわたってボールに力を加えることが必要ですので、この動きは長くボールに力を加えられるために役立っています。
また、指先でボールに力を加えるという視点から見ても、腕だけでなく右半身全体が前方への加速運動に加わっているのでかなり大きな力がボールに伝わっていると言えます。
この動きは、筋力が大きくなくても体重移動や前足の使い方を覚えることで筋力を補えることを意味しています。よく小学生が言われる、「全身を使って投げなさい」という指導を最も効果的に体現しているのが上原選手と言えるかもしれません。
もし上原選手が筋力の大きさに頼った投げ方をしていたら、今のような活躍はできていなかったかもしれません。実際、上原選手が出演したテレビ番組のコメントで、自分のフォームについて「前足で踏ん張ると怪我や負担が大きいから、意図的に前に飛び出している。前に飛び出すようにすると楽に力が伝わるんです」と話しています。
飛び出しの力源は“前足のモモ裏”
「じゃあ、コーチから習ったように”軸足でプレートを蹴って”飛び出せばいいのか」と考えるのはちょっと注意が必要です。
上原選手の投げ方をよく見てみると、軸足では全然蹴っていません。軸足で蹴ろうとすると、腰が早く開いてしまうという弊害を生みます。
ではどうやってあんなにも飛び出しているのかというと、以下の2つのポイントが挙げられます。
1)踏み出す動作のスピードが速い
上原選手が前足を踏み出すスピード(専門的には並進運動と言います)は、他の投手よりかなり速く、これはいわゆる助走のスピードが速いことと同じ意味です。なぜ速くできるのかと言うと、軸足を力まずに安定させて重心を前に落とすのが非常にうまいからです。
また、テイクバックが速くて小さいのもこの動きを可能にしている要因です。
2)前足のモモ裏を使って飛び出している
1でつけた勢いに加えて、踏み出した足のモモ裏の筋肉を使って一気に全身、特に右半身を加速させています。その結果、右半身が前に飛び出すような動きを生み出しているのです。もちろん、ここで言うモモ裏の筋肉を使うという動きは、筋力というよりも足の使い方。
今回は、上原選手のそんな足の使い方を身につけるためのコツとなる運動を紹介します。『レッグショット』と言います。
写真のように片足で立ち、ヘソあたりまで持ち上げた太ももの裏側を両手で支えます。この時、軸足はくるぶしライン辺りに体重がかかるようにします。
その状態で、持ち上げた足を思いっきり下に叩きつけるように下向きに力を出します。両手で、その力に抵抗して止めます。
「足を思いっきり下に叩きつけたいのに手が邪魔している状態」を作ります。この時、持ち上げた側のモモ裏とお尻に力が入るのを確認です。
2秒ほどその状態をキープしたら、急に手を離しましょう。力をチャージしていた足をものすごい勢いで下に叩きつけます。
©︎中野崇着地はカカトで。厳密に言うとくるぶしあたりで強く着地します。
©︎中野崇 着地する位置がものすごく重要です。軸足よりも少し後ろを狙います。軸足よりも前に着地すると効果は激減しますので要注意。
左右それぞれ10回ほど行います。1セットにたくさん行うよりも、頻繁に行う方が有効です。タイミングとしては、ウォーミングアップ、キャッチボール前、ピッチング練習前に行うと効果的です。
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