オープニングセレモニーに出席した中田氏は「日本酒が日本食にしか合わないというのは思い込み」などと今回のテーマとなる「日本酒と世界各国料理とのペアリング」の狙いを紹介。日本全国を旅して、日本酒や伝統工芸など日本の文化を国内、世界に発信している自身の取り組みについて「今、情報はインターネットで簡単に調べられますが、だからこそ地方の知られていない情報こそ、ラグジュアリーなものになる。地方が価値を持つ時代。蔵元などが地方から発信できる仕組みをつくることが大事」と地方創生、地域経済活性化にもつながる思いを披露した。会場にはネスレ日本との協力で「ご当地キットカット ペアリング BAR」をオープン。日本酒と「キットカット」のペアリングをAIが提案するコーナーを設置し、ここにも長い行列ができた。

今や日本酒業界、日本酒ファンのみならず国内外で注目される日本最大の「SAKEイベント」となっている、この「CRAFT SAKE WEEK」だが、実は主催しているのは、中田氏が代表取締役兼CEO(最高経営責任者)を務める「株式会社 JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」という会社。自ら先頭に立ち“社長”として日本酒業界を盛り上げている。
中田氏は2006年のサッカーワールドカップドイツ大会限りで現役を引退。当時まだ29歳。あまりに早い“引き際”に日本のみならず、世界が衝撃を受けた。その後は、選手の引退後として定番といえる指導者や評論家などの道に進まず、自身の公式サイトで「旅人宣言」をして世界を巡る異色のセカンドキャリアを選んだ。世界100以上の国・地域を巡り、現在は改めて日本全国を渡り歩いて伝統工芸や日本酒など知見を広げ、日本文化の魅力を世界に発信する役割を担っている。

野球のイチロー元選手は、3月に東京ドームで行なわれたマリナーズのアスレチックスとの米大リーグ日本開幕カードを戦い終えた直後に現役引退を表明。「50歳まで現役」の公約は果たせず、45歳にしてついにプレーヤーとしての終止符を打った。サッカーではJ2横浜FCの元日本代表FW三浦知良が52歳を迎えた今季も現役を続け、FC岐阜との開幕戦に先発出場。自身が持つJリーグ最年長出場記録を「52歳0カ月25日」に更新した。他にもスキー・ジャンプの葛西紀明(46)、競馬の的場文男騎手(62)ら各競技で、いわゆる「レジェンド」と言われる存在がいる。確かに生涯現役、体力の衰えを技術でカバーして戦う姿は一つの生き方の美学であり、大きな感動や共感を呼ぶきっかけにもなる。一方で、選手としての限界が見える中で、次の道が見つからず、苦しんでいるアスリートの方が多いのも確かな事実だ。
プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長を務めたスポーツ改革実践家の池田純氏は「日本のアスリートの中から、もっと多彩なキャリアを描く人が出てきてもいいのではないでしょうか。例えばプロ野球選手が現役を引退した後、どんなキャリアを描けるか。監督までやったスターが評論家になる。それも一つのキャリア形成ですが、人に憧れられる、ブランド価値を高めるような生き方を・・・という思いはあります」と現状を分析する。
世界ではバスケットボールのマイケル・ジョーダン氏がNBAチームのシャーロット・ホーネットのオーナーになったり、サッカー元リベリア代表FWジョージ・ウェア氏が政治家に転身してリベリアの大統領に就任したり、元ポルトガル代表MFルイス・フィーゴ氏がスポーツのSNS「Network90」を設立したり、フランス代表MFマテュー・フラミニが「GFバイオケミカル」という会社を立ち上げてエネルギービジネスで成功していたりと、多方面で活躍しているアスリートが数多くいる。米大リーグ、カブスのダルビッシュ有投手が池田氏との対談で将来的な球団経営に興味を示したのは、中田氏の例とともに日本では希有なセカンドキャリアの捉え方といえるかもしれない。

中田氏はサッカー選手として世界で「NAKATA」というブランドを構築し、それを日本文化の世界への発信役という社会的意義のある仕事へと昇華させた。その根本にあるのが「僕は人生で、ただ好きなことをずっとやってきているだけで、ビジネスをしようとか、お金を稼ごうとしてやっていることは一つもない。明確なのは自分が好きでないことは一つもやっていないということです」という哲学。さらにサッカーの指導者にならない理由について以前に「自分はサッカーをするのが好きであって、教えるのが好きなわけではないので」と説明したこともある。
自動車で全国47都道府県を巡り、日本酒や日本文化など「好きなこと」を再発見した中田氏は、その素晴らしさを一次情報として日本、世界に伝えたい、発信したい、さらにそれを可能にする「仕組み」をつくりたいという純粋な思いで動いている。それが“安易”に指導者、評論家といった道に進まず、独自の道を切り開くことに繋がり、新たなサッカーと異なる世界での「NAKATA」ブランド構築にも繋がっているわけだ。

中田氏は「CRAFT SAKE WEEK」の会場づくりにも徹底的にこだわっている。2016年は「冬の祭り」、17年は「桜の花畑」、昨年は「竹の回廊」、そして今年は2020年ドバイ国際博覧会で日本館の設計を手掛ける女性建築家、永山裕子さんに依頼し「縄」をコンセプトとした非日常空間を実現。そのこだわりは関係者が「採算を度外視した、やり過ぎというレベル」と苦笑いするほどで、それも「好きなこと」に対する純粋な思いの表れといえるだろう。
「足を運ばないと分からないもの、知ることができないものを見つけるのが好きなんです」と中田氏。その笑顔を見ていると、アスリートのキャリア形成は、もっと幅広く、自由でいいということを改めて感じさせる。

《「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS 2019」開催概要》
日時:2019年4月19日(金)〜29日(月・祝)の11日間 各日12:00~21:00(ラストオーダー20:30)
場所:六本木ヒルズアリーナ(東京・港区六本木)

CRAFT SAKE WEEK 2019 公式サイトGetty Images
VictorySportsNews編集部

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