エディーの本気を感じた瞬間

――ご自身がワールドカップに出たいと思い始めたのはいつですか?

「2011年6~7月、日本代表の1つ下にあたる日本A代表に入ってワールドカップ開催直前のニュージーランドへ遠征に行かせてもらいました。国内のクライストチャーチで地震があったばかりという大変な中、大会成功に向けて国や地域が頑張っているのを間近に見られました。スーパーラグビー(国際リーグ)の試合も見させてもらって、自分も世界にチャレンジしたい気持ちを強く持ちました。そして、日本代表に選ばれない中、2011年大会が始まったわけですけど、それまで漠然と見ていた日本代表の試合を、この時は本当に勝ってほしいという気持ちで見ました。(予選プールで1分3敗と)いい結果を残せず終わってしまったとき、自分が日本代表に入って世界で勝ちたいと思いました」

――翌2012年。当時のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチが、天理大の主将だった立川選手を抜擢します。世界的名将とうたわれる通称「エディーさん」はこのころ、ワールドカップに指導者として2度挑んで1回しか負けていませんでした。

「エディーさんは『世界のトップ10を目指す』と強く言われた。自分自身もそうでしたが、ワールドカップを経験している人たちも『そこまでできるのだろうか』という感覚だったと思います。でも、次の日から早朝練習、4部練習の続く合宿が始まった。『あの人は本気なんだ』と思いました。単純に追い込むのではく、『しんどい状況でいいプレーをするため、まずは心拍数を上げてからラグビーの練習を……』といったように、常に試合を想定していました。選手たちも、『ラグビー人気を上げる』『子どもたちに夢を持ってもらう』と同じ方向を見ていました。初キャップ(代表戦出場)はその年のカザフスタン代表戦。日本代表として皆で君が代を歌った時は、日本代表として戦っているという覚悟が決まりました」

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あの歴史的勝利の後にあったのは

――紆余曲折がありながらもワールドカップイヤーへ突入。南アフリカ代表撃破までの道のりは?

「2015年は春から厳しい合宿がありました。その年の夏にあったパシフィック・ネーションズカップでは調整なしで試合し続けていて、勝ちにいってはいましたが結果は重要視していませんでした(1勝3敗)。エディーさんは何度もワールドカップを経験していて、そこまでの準備期間、スケジューリングを把握できていたと思います。僕自身ワールドカップを経験していなかったので、その方針を信じて一生懸命やっていくしかなかった。
 現地に入ってからも、日本にいた時のような激しい合宿が続きました。ただ開幕から約2週間前のジョージア代表戦が終わってからは、頭を使いながらの練習に移りました。ここでしんどかった身体が楽になる部分があって、南アフリカ代表との初戦に身体のピークが来るんじゃないか、という感覚がありました」

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――その向こう側に、歴史的勝利がありました。日本ではラグビーの試合がワイドショーで繰り返される、近年では珍しい状態となりました。

「ブライトンでは地域の学校を借りて練習しましたが、南アフリカ代表に勝った翌日は全校生徒が出てきてセレモニーをしてくれました。4日後の23日はスコットランド代表戦がありました(グロスター、キングスホルムスタジアム)。そこ(南アフリカ代表戦勝利)に感情をもっていかれないようにと話し合ってはいましたが……、まぁ、無理でしたよね。チームは日本のテレビを見られるようにしてくれていたのですが、本当にすごいことが起きたという感覚をぬぐえなかったです。メールもたくさん来ましたし。
 スコットランド代表戦では勝ち切れず(10―45)、次のサモア代表戦(ミルトンキーンズ、スタジアムMK)は10日先の10月3日でした。準備期間のうち最初の3日間は、僕らとしては一生懸命に練習していたんですけど、エディーさんは気持ちの部分でふわふわしていると感じ取って『このままじゃ負ける』と。ここから選手間でも気を付け、いい準備を進められた(26―5で勝利)。『ここで鼓舞すればいい練習ができていく』という感覚がエディーさんの中であったと思いますし、僕たちが緩んでいなかったらエディーさんは何も言わなかった。エディーさんはそういう観察眼に長けていたと思います」

<後編へ続く>

[PROFILE]
立川理道(たてかわ・はるみち)
ポジション:センター、スタンドオフ
1989年12月2日生まれ、奈良県出身。現所属はクボタスピアーズ(トップリーグ)。4歳でラグビーを始め、天理大学4年生時に主将として初の全国大学選手権準優勝に導く。2015年ラグビーワールドカップ出場。ジェイミー・ジョセフ体制の日本代表のほか、サンウルブズ(スーパーラグビー)でも共同キャプテンを務めるなどリーダーシップを発揮。日本代表キャップは55。


VictorySportsNews編集部