文=浅田真樹

連覇が注目される日本大会

 レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップの2017年シーズン全日程が発表になった。
開幕戦は2月10、11日に毎年恒例のアブダビ(UAE)で開かれ、最終戦は10月14、15日のインディアナポリス(アメリカ)。全8戦で世界チャンピオン(年間総合優勝)の座が争われる。

 やはり日本のエアレースファンにとって気になるのは、日本での開催日程だろう。今年も昨年と同じく、第3戦の日本開催が決まった。3年連続となる日本大会が開かれるのは6月3、4日。会場は千葉・幕張海浜公園である。

記念すべき10シーズン目を迎える究極の三次元モータースポーツの2017シーズンは、3年連続開催の千葉をはじめ、初開催のロシアや久々の開催となるサンディエゴを含む全8戦が開催される。
Red Bull Air Race 2017シーズンの日程が発表!

 昨年の日本戦では、日本人パイロット、室屋義秀が悲願の初優勝を成し遂げた。室屋が2位をコンマ1秒の差で振り切って優勝を決めた瞬間、東京湾に面して設けられた広大な会場に地鳴りのような大歓声がとどろいたのは記憶に新しいところだ。あの熱気が今年6月、再び日本に戻ってくる。

 当然、来る日本大会では、室屋の連覇に期待がかかる。観客のほとんどがそれを楽しみにやってくると言っても過言ではあるまい。実際、昨年のレース以来、室屋の知名度は飛躍的に高まった。日本大会の開催概要が発表された記者会見にも、例年以上に多くの報道陣がつめかけ関心の高さをうかがわせた。やはり昨年、涙の優勝を果たした効果は相当に大きいのだろう。

 例えば、リオデジャネイロ五輪で複数のメダルを獲得した卓球にしても、1月に開かれた全日本選手権では、男女のシングルス決勝が行われた最終日は前売りの段階でチケットが完売したという。やはり勝負事は勝たないと関心は集まらない。良し悪しはともかく、それが現実なのだ。
とはいえ、日本で開かれる第3戦は、あくまでも今年開かれるレースの8分の1にすぎない。室屋は「この2年、母国開催のレースでは多くの方に駆けつけていただき、大きな声援をもらった」といい、ファンによる後押しが勝因のひとつであったことに感謝を示しつつも、盛り上がる周囲をなだめるように、こう語る。
「千葉では連覇が注目されるだろうが、我々レースチームにとってはそれがすべてではない」
新シーズン開幕を目前に控え、「ズバリ、今年は総合優勝が目標になる」と言い切る室屋にとって重要なのは、いかにコンスタントに表彰台に立ち、ポイントを獲得していくか、である。第3戦だけ勝ったところで、他で負け続けたのでは意味がない。室屋が続ける。
「必ずしも1位にこだわる必要はなく、(8戦のうち)6戦くらいでコンスタントに表彰台に上がることが重要。そのなかで1、2勝できればいい。今のチームポテンシャルとしては、ファイナル4に進めるだけのものはあるので、無理に1位にこだわらず、常に能力の100%を出すことに集中していく。自分が力を出せれば、自ずと結果につながると思う」

©Getty Images

重要なのは開幕戦

 昨年、年間総合6位に終わった教訓を生かすとすれば、室屋にとって目標達成のカギとなるのは開幕戦だろう。

 昨年の開幕戦、室屋はレース直前に変更が加えられたG計測のシステムに対応し切れず、ラウンド・オブ・8でまさかの敗退となった(エアレースではパイロットの安全を守るため、最大荷重が10Gまでに制限されており、それを超えると敗退となる)。

 続く第2戦でも室屋のG対策は十分ではなく、ラウンド・オブ・16で敗退。結局、開幕2戦の出遅れが響き、室屋はシーズンを通じて勢いに乗れなかったのである。だからこそ、開幕戦で同じ轍を踏んではならない。

 さらに言えば、今年のレース日程では開幕戦から第2戦までが2カ月間空いており、しかも、第2戦の開催地はサンディエゴ(アメリカ)。室屋のチームにはテクニシャン(整備士)やレースアナリスト(分析担当)などのアメリカ人スタッフがおり、しかも彼らはサンディエゴに程近いロサンゼルス近郊を活動拠点としている。そのため開幕戦後に大きな機体改良をするべく、すでに準備が整えられているのである。

 つまり、「昨年の最終戦が終わった後は、船便での(アブダビへの)発送まで時間がなく、多少の改良はしたが、ほぼバラバラにして修理しただけ」(室屋)で臨む開幕戦さえ乗り切れば、第2戦以降はさらなる戦闘力アップも期待できるのだ。

 もちろん、2戦2勝で第3戦を迎えられれば言うことなし。だが、勝負はそれほど甘くはない。開幕戦で上々のスタートを切り、第2戦は改良が進んだ機体に手応えをつかみ、地元・日本での第3戦に臨む。それが室屋の描くベストのシナリオだろう。
「シーズンオフには大掛かりな改良をやる時間はなかったが、シーズン中にグッと改良し、加速していくことになる」
室屋もそう語り、自信をうかがわせる。

 恐らく過去2年とは比べものにならないほどの関心を集める日本大会で、再び歓喜を味わうためにも重要なのは開幕戦。10年連続で開幕戦が行われる中東の地で、室屋がどんなスタートを切るのか注目したい。


浅田真樹

1967年生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て、フリーライターとしての活動を開始。サッカーを中心にスポーツを幅広く取材する。ワールドカップ以外にも、最近10年間でU-20ワールドカップは4大会、U-17ワールドカップは3大会の取材実績がある。