想定以上の来場者に人気の国旗アート
10月下旬の土曜日。パロマ瑞穂スタジアムの隣にある「南ひろば」には親子連れなど午前中から大勢の人たちが詰めかけ、笑顔に包まれた。南ひろばが全面改装され、リニューアル記念イベントとして「アジアを遊びつくせ!!~Asia Playing In MIZUHO~」が開催された。日本や中国、韓国、フィリピン、ベトナム、ネパールの6カ国の伝統的な遊びを紹介し、実際に子どもたちに体験してもらうのがメインだった。キッチンカーの料理などを含めて全体的にアジアの雰囲気が漂い、来場者数は想定の倍以上の約1200人でにぎわった。リサイクル素材を用いたオリジナルのランタン作りも好評で、夕方から夜にかけて点灯して公園を彩った。
企画や運営に参画したのが地元愛知県にある中京大の学生たちだった。瑞穂公園一帯の指定管理者、瑞穂LOOP―PFIと連携し、昨年12月にイベントのプロジェクトが本格始動。5グループによる学内コンペを経て「アジアを遊びつくせ!!」が採用された。中心メンバーの一人で経営学部4年の渡邉晃平さんはこう明かした。「アジア大会が迫っているので親和性が高いと感じました。遊びでは各国の講師の方に来ていただくとか、アジアっぽさを出すことをかなり意識しました。多くの人たちにイベントに興味を持ってもらい、かつ足を運んでいただき感激しました」と率直に話した。
人気企画の一つに、フォトモザイクアートがあった。事前に撮影した写真に加え、当日来場した人たちをその場で撮影。すぐに加工して印刷した後、写真を貼り付けていった。テーマは国旗で、遊びを披露した6カ国の旗に仕上げていった。撮影に応じた来場者は帰りがけなどに三角柱のアートに近づき、自分たちの写真を探索し、見つけては喜ぶ姿が散見された。発案段階から担当した総合政策学部3年の伊東莉琴さんはこう説明した。「ぱっと見て、イベントのことが分かるデザインがいいなと考えました。実際に自分たちで写真を貼ってもらう体験も入れたかったですし、後で写真を探している人たちを見て、本当に楽しんでくれていたんだと実感しました」と充実の表情。そして、この鮮やかな巨大アートはしっかり形を残すことになった。
フォトモザイクアート、ランタン=10月25日(土)に瑞穂公園南ひろばで撮影公園の特徴とシビックプライド
完成したものが今後、パロマ瑞穂スタジアムで展示される見通しとなったのだ。伊東さんは元々違うグループだったが、コンペ後もプロジェクトに残り、渡邉さんたちと一緒になって取り組んだ。本番までに、色味の出し方や写真の撮り方など何度も試行錯誤した労作のアート。熱意が結実し「思い出をその日だけで終わらせたくないという思いでした。未来に残るものをつくるという判断をして良かったです。イベントに来た方々で、将来競技場に足を運んだ人たちが『このとき公園が新しくなって写真を撮ったよね』とか言っていただけるといいですね」と願いを語った。
アジア大会はカバディやセパタクローといった特有のものを含め、五輪よりも多い競技数を実施。40以上の国・地域から約1万5千人の選手らの参加が見込まれている。開閉会式や陸上競技の会場となるのがパロマ瑞穂スタジアム。世界中の人たちを受け入れる瑞穂公園側も「アジアを遊びつくせ!!」の成功を喜んでいる。瑞穂公園の特徴の一つは、住宅街に存在しているという点。来年3月末に約3万席を備えた屋根付き競技場として完成予定のパロマ瑞穂スタジアムなど、15のスポーツ施設群を有する。国際競技会の会場になり得るのはもちろん、桜の名所としても知られる山崎川沿いを含め、ジョギングや散歩など地元住民から日常的に幅広く利用されている。
南ひろばもその一角を占め、広大な芝生広場が整備されたり、インクルーシブな遊具が設置されたり、公衆トイレがきれいになったりした。今では土日を中心に多くの人たちが集まり、思い思いに過ごしている。公園側は積極的に地域住民とコミュニケーションを図っており、協力して花壇に花を植えるワークショップも開催した。瑞穂LOOP-PFIの高橋誠統括責任者は次のように語る。「スポーツ施設と普段使いの公園というバランスが大事で、シビックプライド(地元への誇りや愛着)を大切にしています。そしてなるべくバリアを除くような公園を目指しています。その意味で学生さんにアイデアを出してもらい、国籍や文化の垣根を超えるような、アジア大会に絡んだイベントができたことは意義が大きかったです」と感慨深げだった。
つながりから生まれるレガシー
2026年は国際的なスポーツイベントが目白押しだ。2月のミラノ・コルティナ冬季五輪に始まり、日本の2連覇が懸かる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、サッカーのワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会と続く。日本にとって9月開幕のアジア大会は一連の流れの締めくくり。TBSテレビで生中継されることが発表されたものの、他の三つに比べると知名度の低さは否めない。むしろ、大幅に膨らむ大会経費に関連し、アジアパラ大会と合わせて国から136億円の補助を受けることが特例的に決まったり、12月中旬に行う予定だったアジア大会調整委員会が中止になったりと、準備状況の不安を連想させるような事象でざわついている。
機運向上はまだこれからという現状で、地元とアジア大会が絡むような市民レベルの活動は貴重といえる。南ひろばリニューアルイベントに携わり続けたコアなメンバーは15人。学生を導いた中京大社会連携部の野田真人部長は、こう評価した。「学年や学部も違うし、キャンパスも違う子もいて、すごく大変だったと思います。学業やアルバイトとか他の活動もある中で一番価値があると思うのは、大学の単位にならないのにやってきたというところです。単位という点では別にやらなくてもいいのに、約1年やり切った経験は非常にすごい」と自発的な姿勢に賛辞を贈った。
アジア大会の聖火リレーのコンセプトは「想いをつなぐ、ひとつに。」となった。今回、若者の力や感性で地域社会にも寄与した形の渡邉さん。リニューアルイベントに触れながら、アジア大会について希望を口にした。「自分たちが準備してきたことは点だったかもしれませんが、当日はいろいろと線でつながれたと思います。仲間と仲間、仲間と来場者の方々、または過去と未来。来年のアジア大会ではいろいろな国の人々が来られると思うので、選手同士や来場される方々、それぞれの文化とか、スポーツの結果以上に〝つながる〟という部分を見たいと思います」。日本で32年ぶりに開かれるアジアの総合大会。さまざまなレガシー創出のチャンスを逃す手はない。