文=和田悟志

壮大なスケールのトレイルランニング大会

 山野を駆け巡るトレイルランニングは、近年人気を集めているスポーツだ。2012年からは富士山の周囲を1周するウルトラトレイル・マウントフジという100マイル(約160㎞)レースが始まり、愛好者だけでなく、一般の人にもトレイルランニングが知られ始めている。

 そしてまた1つ、日本のトレイルランニング界に話題を集めそうな新たな大会が誕生しようとしている。それが、今年5月13日、14日に第1回大会が開催される『Aso Round Trail(阿蘇ラウンドトレイル)』だ。

 大会名のとおり、熊本県の阿蘇地域(阿蘇市、高森町、南阿蘇村、西原村)を舞台とし、阿蘇の地域資源である世界最大級のカルデラや草原の景観を生かしたコース設定となる。全長約105㎞、累積標高差は約6000m。九州で100㎞超のロングトレイルレースが開催されるのは初めてのこと。現在、コースは最終調整中だが、北外輪山をスタートし、カルデラをぐるっと1周して、南外輪山にフィニッシュする予定だ。外輪山を1周すると、九州6県(熊本県、長崎県、佐賀県、福岡県、大分県、宮崎県)を望むことができ、壮大なスケールの大会となる。

©共同通信

(写真=第1回「ウルトラトレイル・マウントフジ」で一斉に走りだすランナー)

プレイベント後に被災し開催は暗礁に乗り上げた

 熊本県、それも阿蘇地域といえば、2016年は度重なる災害に見舞われた年だった。4月14日に発生した熊本地震では大きな被害を受けた。大規模な土砂崩れも発生し、今なお、熊本市と阿蘇地域とを結ぶ国道57号は寸断されたままだ。また、10月8日には、1980年以来36年ぶりに阿蘇山の中岳第1火口で爆発的噴火が発生し、街には火山灰が降り注いだ。

 九州でも指折りの観光地にもかかわらず、観光客の足が遠のき、阿蘇の観光産業は冷え込んだ。震災直後に比べればだいぶ回復してきてはいるものの、阿蘇市で従来の70%程度、南阿蘇村、高森町にいたっては50%程度のままだという。

 当然『Aso Round Trail』の開催に向けても、大きな影響があった。もともと今年5月の開催を目指していて、昨年4月2日、3日には、プレイベントとして100㎞レースを開催し、着々と準備は進んでいた。

 しかし、そのプレイベントの約10日後に地震が発生。現地の状況を把握することがままならず、道路は寸断され、阿蘇地域に大会主催者が入ることさえもできなかった。また、行政の協力は絶対に必要だが、各自治体もそれどころではなかった。そんな状況が続き、開催実現は暗礁に乗り上げた。

©共同通信

(写真=熊本地震によって土砂崩れが発生した阿蘇の外輪山)

トレイルランニングの可能性

 だが、主催者側は、そんな状況にただ指をくわえて見ているわけではなかった。大会事務局のユニバーサルフィールドは、九州トレイルランニング協会と連携し、復興支援の手ぬぐいや“やったるばい”Tシャツなどを販売し、300万円超の義援金を寄付した。

 また、開催実現に向けてもあきらめていなかった。7月には復興支援イベントとして、熊本出身の箱根ランナーらを招き、阿蘇クロスカントリー駅伝&ハーフマラソンを開催。阿蘇の魅力を県外の参加者に発信しただけでなく、地元住民に向けても、大会実現をアピールし続けた。

 とはいえ、
「昨年10月の段階では、今年(2017年)の開催はできないだろうと思っていました。厳しいだろうと。予定していたコースも15%ぐらいが使えませんでしたから」
 と、ユニバーサルフィールドの社員で熊本出身の佐藤雄一郎氏が言うように、一時期は開催延期を決断しなければならない状況だった。

 ところが、事態は変わる。昨年10月頃に阿蘇市、高森町、南阿蘇村、西原村の4市町村にヒアリングを行ったところ、先にも書いたように観光産業が大打撃を受け、集客に困っているという話を聞いた。

 阿蘇地域では、毎年6月に『阿蘇カルデラスーパーマラソン』という100㎞と50㎞のウルトラマラソンが開催されていたが、コース上にはいまだに落石、崩落・崩壊などが多く、通行禁止区間もあるため、2年連続で中止が決まった。定員1600人だが、「仮に参加者が1泊ないし2泊するとして、その他に土産や特産品を購入していたとすると、その損失は単純に見積もっても約3000万円にも上るのではないでしょうか」(佐藤氏)という。

 そこで、「トレイルレースによって集客とPRをできないか」と、むしろ各自治体も乗り気だったという。

 ロードでは走れない区間があっても、不整地を走るトレイルレースであれば、予定していたコースの迂回路を見つけられれば、開催にこぎつけられると判断。11月末になって、再び開催実現に向けて動き出した。選手の安全を確保することを第一にコースを設定し、7割超は未舗装を走ることになりそうだ。

行政に頼らずに復興支援を目指す

©藤巻 翔

 ユニバーサルフィールドが主催する大会は、行政予算に頼らないのも特徴だ。各地のトレイルランレースやロードレースは、行政予算も組み込まれている大会が多いが、「行政予算がなくても、大会を運営できる状態を作りたい。それが我々のポリシー」(同社:高木代表取締役社長)だという。それに、復興にかかる費用を考慮すれば、財政面で自治体に頼るわけにはいかないという配慮もある。さらには、収益の一部を復興支援に回す予定だ。

 また、九州を拠点とする航空会社のソラシドエアとアウトドアブランドのザ・ノース・フェイス(ゴールドウイン)、熊本を代表する杉養蜂園が大会をスポンサードしてくれることになった。地元の企業もその他数多く支援を名乗り出てくれているのだという。

 エントリーは2月21日から始まっている。100㎞超のトレイルランレースなので参加資格は厳しいが、1週間で定員600人に対し、230人ものエントリーがあったという。そのうち2割が関東からの参加で、外国人の応募もあった。十分な告知がなされていなかったにもかかわらず、だ。それほど、この大会を楽しみにしていたトレイルランナーが多かったのだろう。

 地元出身で数々の大会を制した実績のある森本幸司選手も参加が決定。将来的に100マイル(160㎞)化、国際レース化を視野に入れているだけに、トップ選手の参加は、世界へ向けての発信にもなる。

・阿蘇地域の素晴らしい魅力を発信
・地域の発展
・日本トレイルランニングの発展の貢献

これが今大会の開催趣旨だが、こと今回に関しては、「阿蘇地域の素晴らしい魅力を発信」「地域の発展」の色合いは強いだろう。

「世界でも珍しいカルデラの中に街が広がる阿蘇。阿蘇の自然を走ることが、阿蘇のPRをするのにぴったりだと思っています」(佐藤さん)

『Aso Round Trail(阿蘇ラウンドトレイル)』は3月20日にはプレイベントを開催。3月中旬まで本大会の参加者を募集している。
Aso Round Trail(阿蘇ラウンドトレイル)~熊本復興支援トレイルランニングイベント~
和田悟志

著者プロフィール 和田悟志

1980年生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。