サッカーを愛する人たちの力で誕生した映画MARCH

 2011年3月11日午後2時46分に発生した東北地方沖地震、そして、それに伴って発生した津波、その後の余震を含めた「東日本大震災」は、多くの尊い命を奪い、人々の住む街や自然を壊していった。地震は福島第一原子力発電所事故も引き起こし、さらに多くの人の日常生活が失われた。

 原発から25kmの距離に位置する南相馬市にある原町第一小学校のマーチングバンドは、全国大会の常連だった。しかし、福島第一原発の事故により、メンバーの半数が県外へ避難。活動を続けることは困難となった。

 それでも、子供たちはマーチングバンドを続けたいと保護者たちに訴え、避難所で活動を再開していく。全体練習ができるのは月に1、2度。メンバーが集まり切らず、自分たちがどんな演奏をしているかもわからない状態でも、彼女たちは練習を続けた。そして2012年1月末にはマーチングオンステージ東北大会に出場し、全国大会の推薦を受ける。そして翌月のマーチングオンステージ全国大会では、優秀賞・講評者特別賞を受賞した。

 全国大会で好成績を残した原町第一小学校のマーチングバンドだったが、生徒数が激減したことにより、このままでは活動続行は不可能だった。そこで、小学校2年生から中学校3年生までを所属メンバーとすることに変更。2013年4月からはSeeds+に名前を変えて、活動を続けた。

 そんな彼女たちと、被災地支援を行っていた「ちょんまげ隊」が出会う。ちょんまげ隊とは、ちょんまげを付けて世界各地で行われる日本代表戦で、日本代表を応援する隊長のツンさんを中心としたサッカーのサポーターグループだ。震災以降は、ちょんまげ支援隊として、被災地の支援を継続的に行っている。

 ちょんまげ隊は、Seeds+に「青い空、緑の芝生の上で、おもいっきり演奏をさせてあげたい」という想いから、全国のサッカー仲間に声を掛けた。その要望に応えたのが、当時、経営状態が苦しかった愛媛FCだった。愛媛FCは2014年、2015年と2度にわたって、Seeds+を愛媛に招待した。Seeds+は試合前のピッチ上で演奏を行い、愛媛のサポーターたちは彼女たちに声援を送った。試合が始まると、Seeds+の子供たちが、愛媛FCに声援を送る。

 そんなサッカーと音楽でつながった愛媛と福島の絆、そして震災から5年が経った福島の現在を伝えている映画が、「MARCH」である。

大切なのは行動を起こすこと

©Getty Images

 あの震災から6年が経とうとしている。毎日のように被災地の様子がニュースとして取り上げられることはなくなったが、いまも2万人を超える人々が避難所での生活を余儀なくされているという。

 その一方で、福島全土の放射線量が高いわけではないことを認識する必要もある。このイベントを主催した、ツンさんは「地震で大きな被害を受けた熊本もそうですが、大変なところもありますし、安全宣言をしようとは思いません。でも、復興している部分があることもちゃんと伝えたい」と訴える。

「僕らサポーターは、東日本大震災が起きた2011年の3月から宮城には支援に行っていたんです。でも2年間、福島には一度も行きませんでした。放射能に汚染されてしまうのではないかと、福島が怖かった。でも、そこで除染作業が進み、夢をあきらめずにマーチングバンドに取り組んでいるSeeds+を見て、サッカーの力で何かできないかと思ったんです。そこで、サポーターの有志で集まって彼女たちをスタジアムに呼んであげて、演奏をさせてあげようということになりました。1年半かかりましたが、愛媛FCが協力してくれて、2年連続で愛媛にSeeds+を呼ぶことができました。その2年目の様子を撮影したのが、この映画MARCHです」

 この場で初めて映画MARCHを見たという西芳照シェフは、「本当にサッカーができることの力の大きさを再認識しました。日本中に希望を与えることができるんだなと。この6年はサポーターの力、サッカーを愛する人たちの絆を感じた6年でした。今度、日本代表はUAEとの試合がありますが、勝利に結びつくようなパワーの出る食事を、身を粉にしてつくらないといけないと思っています」と、決意を新たにしていた。

 また、俳優の勝村政信氏は、夫人の実家が陸前高田にあったことから、震災の2週間後に被災地へ向かったエピソードを明かした。そして「僕たちが行った少し前に(鹿島アントラーズの)小笠原(満男)くんが、被災地に行っていたんです。そのことが体育館で生活されていた被災された人たちのエネルギーになっていました。この映画でもそうですが、誰かが何かアクションを起こすことが大切です。この作品はたくさんの人に見てもらい、後世に伝えることが大事かなと思いました」と、感想を口にした。

 その勝村氏に応えるように、Jリーグ副理事長の原博実氏は、「Jリーグの全クラブに、この映画を見てもらうようにします。また、Seeds+をたくさんのJリーグの試合に呼びたいですね。やれることを、スピード感を持ってやり、そこでいろいろなきっかけにしてもらう。それが第一歩かなと思います」と、具体的なプランを挙げた。

 そして、Jリーグ名誉女子マネージャーの足立梨花さんは、今シーズンから再びスタジアムに足を運ぶつもりであると言い、「2010年からJリーグ特命PR部女子マネージャーをやらせてもらって、たくさんのことを教えてもらいました。ちょっとでも恩返ししていきたいですし、サポーターの方々と何かができたらなと思っています。4月からはジェフサポーターの桐谷美玲ちゃんとドラマで共演しますし、芸能人を巻き込んで、Jリーグを盛り上げたいと思います」と、Jリーグを盛り上げていきたいと話した。

 イベントの最後に、司会を務めた(株)TSUBASA代表取締役社長の岩本義弘氏は、「今回は有料でも呼べない人たちが、ボランティアで集まってくれました。今後につなげることが、皆さんが参加した意味だと思います。口コミも大切です。皆さんもこの映画を広げていく、その一人になっていただけたらと思います」と、呼びかけた。

 現在、映画MARCHは、有料で貸し出しされており、経費を除いた収益は、Seeds+の活動支援に充てられる。上映会のお問い合わせ、詳細については、コチラまで。

東北復興支援 in 愛媛 ドキュメンタリー映画『MARCH』自主上映会について

VictorySportsNews編集部