文=田中夕子

一発勝負から2試合制へ。さらに1勝1敗で「ゴールデンセット」へ

 たった15分でガラリと空気が変わる。

 バレーボールの国内トップリーグ、Vプレミアリーグは11、12日に決勝進出チームを決めるプレーオフ「ファイナル3」が開催され、日本で初となるバレーボールの延長戦「ゴールデンセット」が導入された。

 決勝進出をかけて戦った、男子の豊田合成トレフェルサとジェイテクトスティングス。独特の緊張感と空気が漂う中でゴールデンセットに勝利し、優勝した昨年に続いて決勝へコマを進めた豊田合成の古賀幸一郎主将は言った。

「苦しい状況から這い上がった。ファイターとして、強い気持ちが証明できた。満足する、いい結果を出すことができました」

 レギュラーラウンドの上位6チームが「ファイナル6」に進み、総当たりのリーグ戦で1位のチームは決勝進出。2位、3位のチームがファイナル3を戦い、その勝者が決勝へ進む仕組みなのだが、今季からはそこに新たなシステムが導入された。それがゴールデンセット方式だ。

 昨季まで、ファイナル3と決勝は一発勝負で勝者が決まっていたのだが、今季からは2日間で2試合を行い、1勝1敗で並んだ場合は2試合目の試合終了から15分後にもう1セットを行い、制したチームが勝者となる。このシステムはヨーロッパチャンピオンズリーグなど、ヨーロッパのカップ戦では採用されてきたが、日本では初めて。

 セット率に関係なく、1勝1敗で並べばゴールデンセットへ突入するため、初日にストレート負けを喫しても翌日にフルセットで勝利し、ゴールデンセットを制すれば勝者となる。つまり、初戦を勝ったからと言ってアドバンテージがあるわけでもない。プレミアリーグの下位2チームと、下部リーグであるチャレンジリーグの上位2チームによる入れ替え戦・チャレンジマッチも2日で2試合行われるのだが、こちらは1勝1敗で並んだ場合はセット率で勝敗が決まる。たとえば初日にフルセットで勝利しても、翌日にストレート負けを喫したら敗者。わかりやすさや、受け入れやすさという点では従来のシステムである後者だろう。

バレーボールに興味を持つ人を増やせるシステム

©共同通信

 では実際に選手や監督はこのシステムをどのように受け止めているのか。

 ファイナル3に進出した女子の久光製薬スプリングス、日立リヴァーレ、男子の豊田合成とジェイテクト、どちらも共に初戦は久光製薬、そしてジェイテクトが3-0で完勝。

 昨季までならばこれで決勝進出チームが決まるが、もう一戦残されている。当然、勝敗によって受け入れ方も異なっており、勝者の久光製薬、石井優希は1戦目を勝利した後も「去年だったら今の段階で喜んで来週に備えているけど、今シーズンに関しては今日勝っても明日負けたら意味がない。本当の勝負は明日」と表情を引き締めていた。

 逆に、敗れた日立リヴァーレの佐藤美弥主将は「こんな負け方をしてしまった後でも、また明日も試合ができる。プラスにとらえてもう一度切り替えて臨みたい」とコメント。一度負けたら終わりではなく、可能性がつながることに対しては好意的に受け止めていた。

 どちらかと言えば、勝者よりも敗者にとって分があるように思われるが、元全日本の大林素子さんも「2日目に勝てばいいとはいえ、1日で大胆な変更をするのはなかなか難しい。その状況でどれだけ力を発揮できるかはチームの層の厚さや持久力がカギになる」と指摘する。

 日立はメンバーやローテーションを変更するなどいくつもの手を打ちながら、一歩及ばず久光製薬に連敗したが、豊田合成は3-0でジェイテクトに完勝し、ゴールデンセットへ突入。2戦目は完敗を喫したジェイテクトもわずか15分の間に再び士気を高め、戦略を練り、序盤はリードを得る。しかし、中盤に豊田合成がブロックで逆転。その後は両チームとも身を挺してボールをつなぎ、長いラリーが展開される白熱した展開となったが、最終的に25-22で豊田合成が制した。

 勝利した豊田合成のクリスティアンソン・アンディッシュ監督は、「バレーボールに良かれと思ってこのシステムが考えられたのだから、バレーボールに興味を持つ人を増やせるシステムだと期待している」と語った。バレーボールをよりエキサイティングに見せるためのシステムであり、実際に豊田合成とジェイテクトのファイナル3では想像を遥かに上回る盛り上がりを見せた。

 ヨーロッパチャンピオンズリーグでゴールデンセットを経験してきたジェイテクトのカジースキ・マテイや豊田合成のイゴール・オムルチェンは、試合終了後15分というインターバルについて「すぐにゴールデンセットへ入れないのは選手にとってよくない」と指摘する。改善点や修正点はあるが、見る者にとって魅力や面白さが増すシステムであることはファイナル3で一変した会場の空気が表していた。

 残念だったのは、会場の島津アリーナ京都は空席が目立ち、スタンド席もアリーナ席もガラガラだったこと。17、18日に東京体育館で開催される女子決勝、18、19日の男子決勝で再びゴールデンセットが行われるならば、今度は満員の会場で見てみたい。人気選手による観客増だけでなく、クリスティアンソン監督の言葉を借りるなら「興味を持つ人を増やせるシステム」であるはずのゴールデンセットが、Vリーグに熱を呼び込むきっかけとなるように、と願うばかりだ。


田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)『夢を泳ぐ』(徳間書店)『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当。