文=松原孝臣

「もっとフィギュアスケートに関心を持ってほしい」という意図

 フィギュアスケートの中継に変化が見られる。

 昨年末の全日本選手権はフジテレビが放送した。画面に「TESカウンター」が登場したのである。TESカウンターとは、TES=テクニカル・エレメンツ・スコアを選手の演技の最中、リアルタイムにカウントするものだ。例えば何らかのジャンプを跳んだ場合、それに対する得点が表示され、次の要素を行なうたびに、それぞれに対しての得点が加算されていく。

 海外での放送では実施されていたが、日本のテレビ局が製作している放送では、画期的な試みだ。

 フジテレビの中継では、ジャンプならどんな種類のジャンプだったのかを表示し、その基礎点、さらに出来栄え点も出していた。そこには、「もっとフィギュアスケートに関心を持ってほしい」という意図があるように感じられた。

 というのも、周囲とのやりとりで、次のように感じるからだ。

 テレビ放送を観る人は、決して熱心なファンばかりではない。なんとなく興味があって観る、あるいは放送されていたから観る、といった人たちも少なくはない。

 だから時折、今でも聞かれることがある。

「フィギュアスケートって、採点する人が、演技を観て点をつけているんでしょう?」
「ジャンプに点数がつくのは知っているけど、あとは芸術点みたいなもの?」

 あるいは、点の決まり方がよく分からない、あいまいだから関心が向かないという人も実際にはいる。その根底にもやはり、現在の採点方式を把握していないところにある。どうしたって人の目が入るから、厳格に点数が定まるわけではないが、少なくとも、現行の方式は、過去のものより細分化されているのはたしかだ。それが理解されていないのである。

 そういう人々へ向けて、TESカウンターが出されるのは意味がある。ジャンプだけでなくスピンやステップそれぞれに点数がつくことがひと目で分かるからだ。その合計である技術点だけで決まるわけではないにせよ、採点方式の理解の一助になる。

 さらに、あいまいだからと距離をとっていた人を呼び込むきっかけにもなる。そういう意味で、TESカウンターの表示は、評価に値すると思う。

結果を一切知ることなく放送開始を待ち続けるのは簡単ではない

©Getty Images

 一方で、課題も残されている。同じくフジテレビによる2月の四大陸選手権で、男女シングルのフリーが録画での放送となった。

 振り返ってみて、「もったいないな」と思う。女子は三原舞依(写真)の200点超えでの優勝があり、男子は優勝したネイサン・チェン、2位の羽生結弦、3位の宇野昌磨の名勝負が繰り広げられた。だからなおさら、そう感じる。

 スポーツの魅力は、結果が分からないことにある。どんな演技をするのか、どんな得点を出すのか……フィギュアスケートに限らない。それを見守ることに、楽しみがある。だから、どう工夫してあとから放送するにしても、ライブにはかなわない。

 女子のフリーの放送開始は、午後9時からだった。放送が始まったすぐあとに、最終グループの三原の演技は始まったはずだ。その、絶妙というか微妙なタイミングもまた、もやもやした気持ちにさせる。

 いまや、結果を一切知ることなく、放送開始を待ち続けるのは簡単ではない。ネット上でもニュースとなって流れるし、SNSでもすぐに書き込まれる。遮断したつもりでも、目にしてしまうことはある。

 そして結果を知ってから放送を観るのと、どうなるのかとわくわくしながらライブで観るのとでは、楽しみがまったく異なる。

 それを知るスタッフは少なくないはずだ。いろいろな障壁があるのかもしれない。それでも、スポーツはライブこそ重要であり、だからこそ、クリアしてほしい課題である。

松原孝臣

著者プロフィール 松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。