圧巻の三者三振

 本領を発揮したピッチャーは、8回裏のカブスの攻撃でマウンドに上がった則本昂大だった。最初の打者は背番号00をつけたマイナーリーグ選手のペナルバーだったが、136キロのフォークをしっかりと低めに決めて空振り三振を奪う。続く打者は6回に代打ホームランを放っていたボーテ。則本は2ボール2ストライクからの5球目にまたも低めのボールゾーンに落ちる136キロのフォークを投げて、ボーテから空振り三振を奪った。そして3人目は左打者のラーデマーチャー。則本は1ボール2ストライクと追い込んだ後の5球目に、真ん中低めへ152キロの伸びのあるストレートを投げ込んで空振り三振に仕留めた。これぞ則本だと言える、見事な三者三振だった。

圧巻の「KKK」だった。わずか14球。97マイル(156キロ)をマークする剛速球は健在だが、指揮官はもう一つの大きな武器を見いだした。「東京ドームの時より変化球は低めに集まった。2人目の打者(ボーテ)の(4球目の)スライダーはインスラを使ったと思う。そういうのは幅を広げる。準決勝でも投げる機会があれば有効」と、インコースへのスライダーを高評価した。
【WBC】小久保監督、6連勝でストップも救援期待できる則本を高評価 : スポーツ報知

 小久保監督もこう話しているように、則本は右打者のボーテの打席で2ボール1ストライクからの4球目にインコースのスライダーを投げた。さすがに予想していなかったのか、ボーテはこれを見送り、2ボール2ストライクへと追い込んで、続くフォークでの空振り三振に繋げたのである。

 東京ドームで行われた1次ラウンドと2次ラウンドでは、2試合に登板して3回2/3を投げ、三振は3つ奪ったものの1本塁打を含む7安打1四球で4失点と不本意な結果に終わっていた則本。リリーフ陣の柱と期待されながら、防御率は9.82もあった。このカブス戦の投球でアピールしなければ、決勝ラウンドでの登板は期待できなくなっていたかもしれない。しかし落差のあるフォークをきっちりと低めにコントロールし、ストレートは素晴らしい伸びを見せ、そこに上手く右打者の内角へスライダーを投げてカウントを稼ぐことをやって見せた。こうして投球の幅が広がれば、出番が必ずやってくることだろう。決勝ラウンドでの則本の登板に期待しよう。

動揺して制球ができない

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 その一方で、この試合の先発投手というチャンスを貰いながら、それを活かせなかったのが藤浪晋太郎である。4回を投げて三振こそ5つ奪ったものの、4安打4四球の3失点という不本意な結果しか残せなかったのだ。特に1回、1点を失った直後の打者に対してコントロールできず、真っすぐが抜ける癖が出てストレートのフォアボールを与えてしまった。乾燥した気候や滑りやすいボールといった理由はあるとは思うが、こういうシーンを見ると首脳陣は大事な場面を任せるには躊躇してしまうだろう。

 今大会で唯一藤浪が登板した1次ラウンドの中国戦でも、登板して簡単に2アウトを取った直後の打者に真っすぐが抜けて死球を与え、動揺したのかそこからは真っすぐのコントロールができなくなってしまうということがあった。この日も真っすぐは最速156キロを出しており、球威は抜群である。それだけに惜しい。この藤浪の素材の良さは、メジャーのスカウトも評価しているというのに。

それでもナ・リーグ球団のスカウトの一人は、この日の投球を見て素材の高さを絶賛。印象に残った投手として藤浪の名前を挙げ「制球さえ安定すれば、さらにいい投手になる。荒れた感じはあるが変化球のキレはいいし、力のあるボールを投げている」と話した。
侍・藤浪4回3失点もメジャースカウトが高評価/野球/デイリースポーツ online

 もちろんこの日の投球で、藤浪が決勝ラウンドのマウンドに上がらないと決まったわけではない。準決勝で30球以上投げてしまうと、球数制限があって決勝戦で投げられなくなるため、リリーフ陣は小刻みな継投が予想される。また何が起こるかわからないのが野球だけに、もしかしたらチャンスが巡ってくるかもしれない。その時には打てるものなら打ってみろといった開き直った気持ちで、マウンドから打者を見下ろして投げ込んでもらいたい。


BBCrix編集部