[CLOSE UP]宇都直輝(富山グラウジーズ)リーグNo.1の『モテ男』が絶好調、絆を武器にステップアップを遂げる
勝利のためのゲームメークが得点とアシスト数に直結 富山グラウジーズは第25節の横浜ビー・コルセアーズ戦に連勝し、終盤にきて初の3連勝を記録。「そうか、初か。うれしいですね」と語る宇都直輝の表情は明るかった。 富山は2月26日の試合で東地区首位を走る栃木ブレックスから金星を挙げ、そこから8試合で5勝3敗と調子を上げているチームにあって、輝きを放っているのが宇都だ。 宇都はここ10試合中9試合で2桁得点を挙げているが、それは個人のエゴによって生まれた得点ではない。むしろチームプレーを選んだ結果、得点が伸びている。 「チームの状況によって自分が攻めるのかそうでないのかを判断してゲームメークしています。ジョウさん(城宝匡史)のところが厳しかったり、他に攻め手がない時は自分で行きます。それで自分にディフェンスを引き寄せて、またジョウさんにプレーの矛先を戻します。そうしたらジョウさんやインサイドが楽にプレーできるという意識の下、自分である程度は行くようにしています」 状況に応じたゲームメークがもたらしたのは得点力アップだけではない。2桁アシストを連発するなど、アシスト数も上昇している。「チームの信頼を得られたことによって、みんな僕に対して合わせて動いてくれる。だからこそ僕がパスを出せるんです。逆に言えば僕が『合わせてくれている』と思ってプレーするからアシストが生まれるとも言えます」 その結果、アシスト数でリーグトップに躍り出た。47試合を終えて宇都のアシストは203。日本バスケ界を牽引してきたベテランの桜木ジェイアール(200/シーホース三河)、代表の司令塔に定着しつつある富樫勇樹(194/千葉ジェッツ)を僅差ながら上回る数字だ。 またリバウンドでも、190cmの宇都は「他のポイントガードより勝っているところなので、絶対に取れると意識している」と高い数字を残している。リバウンド総数は187。日本人の中では並みいるビッグマンに食い込む12番目の数字だ。フットワークが重視されるオフェンスリバウンドとなると日本人選手で5番手、ポイントガードの選手に限ればトップの70を記録している。 「知名度だけ上がってプレーが付いてこないとダメ」 Bリーグ初となる『トリプル・ダブル』も、これらの要素が揃った結果だ。第24節の仙台89ERSとの第2戦で11得点10リバウンド10アシストを記録。それでも宇都は「チームとして絆のと言うか、強固な信頼関係が成り立っているからだと思います」とあくまでチームプレーの延長にある成果だと主張した。 宇都はBリーグのバレンタイン企画でぶっちぎりの1位を獲得し、『モテ男』の称号を得た。この企画により女性ファンが増えたかどうかを尋ねると「増えたかは分からないですけど、それでまた見に来てくれる人が増えていけばいいなとは思います」と言う。 どんな理由であれファンが増えることは、チームにとっても彼自身にとってもプラス材料だ。ただし宇都はあくまでもバスケットボール選手、外見で注目されるだけでなく「プレーヤーとしての自分を見せたい」と語る。「知名度だけ上がってプレーが付いてこないとダメなので、実力もあるぞというところを見せたいです」 富山は旧bjリーグ時代からの積み重ねがあり、アウェーゲームにも応援に駆けつける熱心なファンを多数抱えている。その中で宇都はブースターとのコミュニケーションを大切にしている。「絶対に勝つところを見せたいですし、勝った時はみんなで喜びたい。ウチはコーチ(ボブ・ナッシュ)がハイタッチしろと選手に言うんですが、僕は個人的にブースターには自分からハイタッチに行くようにしています」 自然にできるファンサービス、中身もイケメンだった! そう語るとおり、日曜の横浜国際プールでの宇都は、ベンチ裏に陣取る富山ブースターはもちろん、ベンチと反対側にいる富山のユニフォームを着ているファンに気付くと、自ら駆け寄りハイタッチをしていた。「赤のユニフォームを着てくれた人がいたので」と宇都はサラリと言う。「それは別に僕のファンじゃなくても、富山のファンだったら行こうという意識です」 リーグNo.1の『モテ男』は顔だけではなく中身もイケメンだった。 どんなスポーツにおいても「カッコいいから」という理由から女性ファンが増えることは多い。もちろん、宇都が言うように「知名度だけ上がってプレーが付いてこない」のでは本末転倒だが、注目度をエネルギーに変えてステップアップすることはできる。プロ野球の広島東洋カープは『カープ女子』から火がつき、万年下位から抜け出してリーグ優勝するまでに成長した。 『モテ男』がきっかけになったかどうかは分からないが、ここに来て宇都は一段階ステップアップを遂げたように見える。宇都にとっては加入1年目のチームではあるが、bjリーグファイナリストの富山を降格させるわけにはいかない。ケガ人が出て足並みが揃わない横浜ビー・コルセアーズに敵地で連勝し、ゲーム差を2と詰めた。地区最下位からの脱出、そしてB1残留に向け、宇都にとっても富山にとっても気の抜けない試合が続く。
文=丸山素行 写真=B.LEAGUE