明治大学の“スポーツアドミニストレーター”に

 4月3日、明治大学にて前横浜DeNAベイスターズ球団社長・池田純氏の明治大学学長特任補佐就任会見が行われた。担当は大学スポーツであり、明治大学の体育会運動部を横断的に管理・運営する上での“ブレイン”として、土屋恵一郎学長を補佐することになる。

 会見で挨拶に立った土屋学長は池田氏招聘の背景について次のとおり説明した。

「池田さんの役割は大学スポーツ担当の特任補佐となっていますが、私の気持ちとしては明治大学のスポーツアドミニストレーターになっていただきたい。日本の大学は東京六大学を始めとして、それぞれ様々なスポーツを大事にしています。スポーツは大学のアイデンティティを表す、とても大事なアイテムとして今日まで維持してきましたが、実はこれからの課題が山積しています。

 一番大きな課題は、社会的には大学スポーツが話題になり、大きな関心も向けられる中で、学生自身の中では関心が薄まりつつあるという現状です。かつては早稲田と明治が国立競技場でラグビーの試合をすれば6万人が集まる時代がありましたが、今はそこまで集めることはできません。もうひとつの課題は、地域連携です。大学スポーツを地域との連携の中でいかに開放していくか。明治大学は、各運動部の合宿場などを集約してスポーツパークを作る計画を持っています。恐らく日本のカレッジスポーツの中でも最大規模の計画です。この施設で地域との連携をどうやって図っていくか。

 まさしく池田さんは横浜ベイスターズにおいて、横浜という町の中で球団をクローズアップして黒字化していくという大変大事な仕事をなさいました。その経験を生かして、カレッジスポーツを地域に根づいた、地域とのつがなりのある活気のある場所へと転換していきたいと思っています。課題はたくさんありますが、私たちだけでは解決できない。外部から池田さんのような才能を持った人に来ていただいてこの問題の解決の糸口を与えていただき、一緒に大学スポーツを前進させていきたいと思っています」

 スポーツアドミニストレーターとは、大学でのスポーツ活動を横断的に統括する役職を意味する。本場アメリカではアスレティック・ディレクターと呼ばれ、学生アスリートの管理からスポーツによる大学ブランドの向上までを幅広く司る要職だ。スポーツ庁の「大学スポーツの新興に関数検討会」においても設置が推進されており、政府が旗振り役を務める大学スポーツ改革に、明治大学がいち早く呼応した形だ。

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学生スポーツを振興すると同時に大学ブランドを向上させる

 次いで挨拶に立った池田氏は次のように語り、就任の経緯と自身の役割、取り組む上での目標を明かしている。

「ベイスターズ退任以前から大学のスポーツに関してアドバイスないし補佐をしてほしいとの話をいただき、この度の就任となりました。役割としては学長を補佐する立場として、明治大学のスポーツ領域を戦略的かつ一体的に統括し、明治大学の学生スポーツを振興するととともに大学ブランドを向上させ、明治大学のスポーツ領域を管理運営するための体制を構築する補佐を行います。同時に、大学全体の目線と視野に立って、明治大学のスポーツ領域について対外的および体内的に学長を補佐し、明治大学としての方向性策定の補佐を行います」

 日本のスポーツが文化として根付き、産業として力強く発展していく上で、プロスポーツとともに大学スポーツが果たす役割は大きいと池田氏は指摘する。「まだ黎明期」と語る国内の大学スポーツ振興において、目指すものとして次の5つの項目を挙げた。

①スポーツに関する部署設置のサポート
・学生アスリートとファシリティの管理に始まり、マーチャンダイジング、マーケティング・コミュニケーション、インターネット戦略、資金・財務・人事・リクルーティングまで、スポーツ領域の全機能統括と運用
・大学アイデンティティとしてのスポーツ振興統括
・スポーツによる大学のブランディング及びブランド管理
・スポーツ領域の大学内外折衝連携、企業折衝連携と統括
・学生アスリートのためのデュアルキャリアコーディネート統括組織など

②アメリカを始めとしたNCAA等の組織、大学のアスレティックデパートメント等の組織、学生アスリートの現状やデュアルキャリアの研究・分析

③明治大学スポーツ施設の今後の方針及び施策の検討や地域、行政、他大学との連携

④必要な大学内連携

⑤日本版NCAAの検討及び推進に対する課題の抽出と検討

 これらの機能はいずれも従来の体育会の枠組みを越え、アメリカの大学におけるアスレティック・デパートメントをモデルとしている。ベイスターズ球団社長時代から、“スポーツ産業先進国”アメリカのノウハウや構造を学んできた池田氏による、大学改革施策とも言えるだろう。

鈴木大地・スポーツ庁長官も期待を表明

 池田氏就任を受けて、鈴木大地・スポーツ庁長官も次のようにコメントを寄せている。

「1.文部科学省では、先日決定した「スポーツ基本計画」において、我が国の大学持つスポーツ資源 を人材輩出,経済活性化,地域貢献等等 に十分活用することを政策目標として掲げている。

2.同計画では、大学横断的、競技横断的な日本版のNCAAを創設と同時に、各大学におけるスポーツ分野を戦略的かつ一体的に管理・統括する部局の設置や人材の配置が必要であるとして、100大学にこの役割を担う「大学スポーツアドミニストレーター」を配置することを目標としている。

3.スポーツアドミニストレーター業務等を行う学長特任補佐を置くこととした明治大学の取組みはこの目標に沿ったものであり歓迎する。今後、スポーツマネジメントに長けた外部の人材が、学業とスポーツ双方に優れた人材の輩出と母校や地域の一体感を醸成し、地域・経済の活性化に活躍することを期待したい」

 スポーツ庁が検討する「日本版NCAA」との連動も注目される今回の発表。大学スポーツの発展は、今後の国内スポーツ産業にとってカギだと位置付ける池田氏が、実施的な“スポーツアドミニストレーター”としてどのような手腕を発揮するのか。いよいよ動き始めた大学スポーツ改革の第一歩に注目が集まる。


VictorySportsNews編集部