[CLOSE UP]金城茂之(琉球ゴールデンキングス)進化し続ける琉球のバスケットを何気ないプレーで支えるベテラン
数字に表れない部分でもチームを支える屋台骨に 現在、リーグで最も熾烈な戦いとなっているのが西地区2位、そしてチャンピオンシップ最後の出場枠となるワイルドカード下位の争いだろう。その中で今、頭一つ抜け出そうとしているのが琉球ゴールデンキングスだ。 4月1日、2日に行われた名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの『サバイバル対決』に連勝。これで3月以降の成績を7勝1敗とした琉球は西地区の2位に浮上している。 この好調の要因は、昨シーズンから取り組んでいる人とボールをどんどん動かしていくチームオフェンスの完成度が高まっていることだ。そして、的確な状況判断からの正確なプレーでこのオフェンスを支えているのが金城茂之である。 今回の名古屋Dとの連戦、第1戦では3ポイントシュート5本を決めた津山尚大、第2戦では22得点を挙げた岸本隆一の活躍に目が向きがちである。しかし、彼らと同じくらい金城の勝利への貢献度も高かった。第1戦では3ポイントシュート2本を含むフィールドゴール3本中3本成功で8得点、第2戦もフィールドゴール5本中4本成功で9得点と驚異のシュート成功率をマークしている。 また、金城の場合、数字に表れない部分の貢献も見逃せない。ボールがないところでも、彼がタイミングよくカット(ゴール下へ切れ込む)をすることでスペースを生み出され、他の選手がパスを回しやすくなる。彼の何気ない一つのスクリーンで味方がパスを受けやすくなり、そこからボールを大きく動かすことにつながっていく。 そして守備において、特に第2戦では名古屋Dのオフェンスのキーマンである中東泰斗へのマークに付くと、フィールドゴール17本中わずか5本に抑えた。これも金城が1対1で完璧に中東の動きを抑え込んだわけではない。しかし、相手がプレーしやすい位置でボールをもらわせないなど地道にプレッシャーを掛け続け、楽にシュートを打たせなかった。また、例えアタックを許したとしても、それは前もってチームで決めていたヘルプディフェンスが待ち構えているコースへと進ませることで対応するなど、自身の役割を的確に遂行していた。 彼の一見すると地味な動きが、実はどれだけチームバスケの遂行に重要であるのかは、伊佐勉ヘッドコーチの言葉が端的に示している。「彼は勝っていても負けていても、1試合で5分、10分、30分の出場でも、どんな状況でもやるべきチームプレーを遂行してくれる。彼みたいな選手が増えればチームはもっと良くなっていきます」 キングスは個人能力ではなくパス回しのうまいチーム この2試合を、金城は「1人の選手がボールを持ちすぎずにパスをよく回し、崩しやすい場面を作れていたと思いました」と総括。そして自身のプレーには「空いていたらゴール下にアタックするシステムを作っていますが、ここ2週間はそれがよく出せています。今日も結構、中に行きやすかったです」と振り返る。 自身の得点については「ノーマークが多く、打ちやすい状況でした。中にも行きやすい状況をチームで作ってくれたので、簡単にプレーの選択ができていました」と高確率のシュートは、チームメートのお膳立てのおかげであることを強調している。 今は上り調子の琉球だが、逆に言うと10月下旬からの数カ月は結果が出ない苦しい時期を過ごしていた。この時の状況について金城はこう語る「9月と10月の時点でも怪しかったのですが、序盤はこちらの弱点がまだバレていなかったんです。ただ、そこから先はオフェンスでキツい1対1となる場面が多かった。この時はやっていることがおかしかったです。また、大敗が続けている時はメンタル的に厳しかったですし、立て直すのに時間がかかってしまいました。ただ、混戦になっていたのは運が良かったです」 「とりあえず自分がやれることをやろうと練習から取り組んできました。最近、各々やってきたことがつながってきて良いリズムになっています。良いイメージの共有は、2016年には全然できていなかったのが、もがき続ける中で、最近できるようになってきました。もともと、キングスは個人力の高い選手が集まったチームではなく、逆にパス回しがうまい選手が多いです。最近はノーマークを作る良いバスケットができていると思います」 「積み重ねてきたものが一気につながっている感触」 このように現在の状況について手応えを得ている金城だが、その一方で気を抜くとすぐに悪い状況に戻ってしまうことも理解している。「この2日間は、本当にいろいろなものがうまくいきました。積み重ねてきたものが一気につながっている感触です。ただ、逆に言えば崩れるのも早そうなので、これを続けていかないといけない。危うい場所にいると思います。危ういと言うのは、最近でき始めているだけで、完全に身に着いているわけではないからです。常にいつ崩れるのか分らない危機感、緊張感を持ちつつも、良いイメージもしっかり持ってプレーしていきたいです」 今後の琉球にとってカギとなるのは、進化し続けるチームバスケットボールの中で、故障欠場中であるチームNo.1の個人能力を持つレイション・テリーの特徴をいかに発揮させるか。「個人能力をチームバスケにどう生かしていくのか、そのバランスが難しいです」と金城も言う。 だが、この課題を克服できた時、琉球はもう一段上のレベルにステップアップできる。また、個性をより生かすためには、金城のような質の高い黒子の役割をこなせる選手の存在がさらに重要となってくるはずだ。
文・写真=鈴木栄一