構成・文=キビタ キビオ
セ・リーグはこちらソフトバンクは同じ轍は踏まない
©共同通信──今回はパ・リーグの順位予想をお願いします。ちなみに、昨年の中畑さんの予想は、1位からソフトバンク、日本ハム、ロッテ、西武、楽天、オリックスでした。なんと、3位以下はドンピシャリで的中です。
中畑 予想はあくまで予想だけど、オレの読みはなかなかいいだろう? 優勝は逃してしまったけど、これは仕方がないよ。日本ハムの優勝は、プロの解説者でもほとんどの人が想像していなかったよ。
──という結果を踏まえたうえで、2017年についてはいかがでしょうか?
中畑 やっぱりさあ、パ・リーグの優勝は文句なくソフトバンクだよ。シーズン途中から日本ハムに大逆転されるというのは、相当な屈辱だっただろう。もう、同じ轍は踏まないよ。
──多くの解説者も同じようにコメントしていますね。
中畑 工藤(公康)監督は、結果を振り返って「なにが良くてなにが悪かったのか?」を見極められる監督だよ。だから、今年はしっかり修正してくるだろう。そして、「昨年と同じことを繰り返すかどうか」という意味では、日本ハムのほうが逆の意味でつらいよな。つまり、昨年と同じようにソフトバンクについていけるか? シーズンのどこかで驚異的な連勝ができるか? その再現はなかなか難しい。だから、優勝予想としてはどうしてもソフトバンクになる。
──なるほど。では、昨年日本一の日本ハムは、対抗馬として2位の予想でいいですか?
中畑 うん。今年は厳しいと思うけど、まあ2位だろうな……と。そして、3位はロッテになるかな。
──すると、上位3チームは昨年の予想とまったく同じということですね。
中畑 そうか。それじゃ面白くないな。……よし、3位は楽天にしよう! 今年の楽天は確かにいいんだよ。
──FAで西武から岸(孝之)が入団しました。則本(昂大)とのダブルエースとして期待が大きいですよね。また、外国人選手も重量級が複数いて、下馬評はいいです。中畑さんと同級生の梨田(昌孝)監督とは、シーズン前に話をしましたか?
中畑 もちろんしたよ。仙ちゃんと交えながらね。
──シニアディレクターの星野仙一さんもご一緒ですか!
中畑 ふたりとも言っていたのは、今年は昨年以上にチームのムードが明るくなったということ。それは、オレもキャンプを視察したときに感じた。それに、コーチ陣をはじめとして、スタッフも悪くないのでね。ナシも楽天2年目でだいぶ状況がつかめたようだし、手応えを感じている様子だったからな。期待していいと思うよ。
──では、3位が楽天、ロッテが4位ということになりますね。
オープン戦の成績はシーズンと関係ない
©Baseball Crix──ここでひとつ気になることがあります。実は、オープン戦で楽天はパ・リーグ最下位だったんです。逆に、ロッテはセ・リーグも含む12球団でトップでした。オープン戦の結果は、どの程度踏まえるべきですか?
中畑 オープン戦の成績なんて関係ないよ。
──そんなものなんですね。確かに試しであったり、調整である期間ですが、そう言い切って大丈夫ですか?
中畑 大丈夫! もう一度言うよ。オープン戦なんか全然関係ない。だって、オレが監督だったときだって、セ・リーグトップだったことがあるんだから(笑)。
──DeNA監督4年目の2015年がそうでしたね。実際、オープン戦で勝っている状況は、監督としてはどういう心境ですか?
中畑 内容がともなった勝ち試合が多い場合は、チームの状態はいいぞ! と実感できる。ただ、相手も手の内をおおっぴらには見せていないわけだから。
──それはそれで気持ちが悪いですか? うまくいきすぎているのではないか……と。
中畑 そう、そう。いい状態を作ってシーズンに備えたいという気持ちが強いけど、良すぎても怖いよな。結局、シーズン前というのは、みんな不安なんだよ。監督にしても選手にしても。
──それと、あまり開幕にピークを置きすぎると、序盤以降は調子が下降線になってしまう恐れもありますよね?
中畑 監督としては、本来そういうことも考えなくてはいけないだろうな。ただ、オレがDeNAの監督だったときは弱いチームだったから。シーズンがスタートして、いきなり出鼻をくじかれたら、あとから追い上げるというのは正直言うと難しい。だから、それは頭になかった。むしろ、いいスタートダッシュを切って、「今年は行けるぞ!」という雰囲気を作らなくてはいけないと思っていたね。勝つことで勢いがつけば、実力以上の結果を呼び込むことができるし、結果が持続すれば自信もついて、それがいつの間にか本当の実力として根付くから。まさに相乗効果というやつだな。昨年の広島がそうだったじゃない?
──なるほど。
中畑 ただ、一方で「オープン戦はあくまでオープン戦」という部分も当然あるんだよ。実際には、開幕してからじゃないとわからないというのが本音だな。オープン戦の結果だけで判断するのは難しい。だから、オレたちだって「難しいなあ」と、毎年頭をかきながら予想しているわけよ。
Aクラス争いは大混戦になる
©共同通信──結果的に4位予想となったロッテについてですが、3位楽天との比較で下位に押し出されただけですので、今年もAクラス争いに加わる評価としていいですか?
中畑 うん。いいと思うよ。
──ただ、昨年もそうでしたが、打線に大物打ちがいないので破壊力には欠けますよね。そのぶん、つながりの良さとか、投手力、継投などで勝ちを拾っていくスタイルです。それゆえ、戦力だけでいうと「なぜあんなに勝てるのだろう?」というところもあります。
中畑 そこは、伊東きん(勤)ちゃんの采配によるものでしょう。終わってみて上位にいるというのは、つまりそういうことなんだよ。やはり、現役時代に西武という群を抜いた常勝チームで長年扇の要であり続けた経験が、その後の監督としての手腕に生きているのだろう。
──それで言うと、西武の辻発彦新監督にも期待が持てますよね。同じく常勝西武を象徴するセカンドとして長きに渡って活躍しました。
中畑 そうだな。辻が監督になったことで、チームの雰囲気がいくらか変わるだろうと思う。実際、一生懸命変えようとしている。ただ、チームバランスを考えると、まだ一気に優勝争いに上昇していくような感じではないな。
──昨年の西武を見る限り、守備の乱れが多くて投打が噛み合わない試合が多かった印象でした。
中畑 ただ、順位予想としては、5位が西武。オリックスが最下位になってしまうな。オリックスは戦力自体ある程度揃っているんだが、西武のほうが菊池雄星や秋山(翔吾)、浅村(栄斗)といった以前は若手だった選手がリーグのトップクラスに成長して柱になりつつある。きっかけひとつで伸びる要素は西武のほうがあるのでね。
──では、すべての予想が出たところでおさらいをすると、上から順にソフトバンク、日本ハム、楽天、ロッテ、西武、オリックスという並びになりました。
中畑 ただ、3位の楽天からオリックスまでは大きな差はないよ。ソフトバンクがダントツ。日本ハムがそれについていけるかどうか。それ次第では、日本ハムも含めた5球団で激しくクライマックスシリーズの出場権を争うことになるだろう。そして、そこから脱落したチームから、今度は最下位をどう逃れるかという争いになっていく。ただ、ソフトバンクで決まりと思いつつ、昨年のようなこともあるからね。蓋を開けてみなければわからない。どの球団も必死にやっているし。まずは、開幕直後の戦いぶりがどのような展開になるか。セ・リーグだけでなく、パ・リーグも楽しみにしているよ。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。