取材・文=Baseball Crix編集部
「不調時は、自分の“間”で強く振る練習をした」(和田)
©Baseball Crix――対談中編にあった、「調子が悪くなったとき、修正するための練習」というのが興味深いのですが、おふたりにもあったのでしょうか?
立浪 ベンちゃんあったでしょ?
和田 僕の場合は、調子が悪くなってくると投手との間の距離が短く感じるようになるんです。それで球が速く感じてしまう。同じ時速140キロのボールでも、調子がいいときは遅く感じますし、調子が悪いと速く感じる。そういうときの対処法としてひとつ挙げると、調子が悪くなるほど、スローボールをしっかりタイミングをとって打つというのをやっていました。つまり、自分の“間”で強く振る練習をするんですね。長い時間、1時間とか打っていくと、無意識のうちにゆったりしたタイミングになっていくんです。
立浪 引きつけて打つというのはとても大事。スローボールを打つのは、ひとつのやり方だね。ピッチャーとの距離、間合いがずれていると、バットがよく振れていたとしても、とんでもないところ振ってしまったりする。あとは身体が開いているようだったら、トスの方向を変えてもらってティーバッティングをしたり、キレがないなと感じたら連続ティーをしたりね。ただ、毎日のように試合があるから、そう簡単にうまくわけではないのだけど。
――修正する技術はたくさんあるんですね。
立浪 レギュラーでやっているような人は、そもそもスイングにそのものに大きな欠点はない。ボールを呼び込んで打つまでの形は決まっているんですよ。ただ、トップの位置を変えたり構えの位置を変えたり、そういうことは常に行っている。だから、調子がいいときでも調整することはよくあります。まず、その段階にいくまでの基本の形をつくることが大事。
――変えない部分と変えていく部分がはっきりとある。
立浪 構えやタイミングの取り方は選手それぞれで違っているものだけど、打ちにいくときの形にはそんなに差はないと思います。若手のなかには、スイングを直している最中の選手もいると思うのですが、ボールを呼び込んで、打つまでの形というのは自分でつかまないといけない。以前、コーチを兼任させてもらったときのことを思い出すと、アドバイスをしてもその形をつくることを根気よくやれる人が少なかったですよね。もちろん自分が伝えたことが100%の正解だったとは言いませんが、形ができていないのに、少し打てないと「違う」と思ってすぐに形を変えてしまう選手はいました。そういう選手は、いろいろなことを「試しては変える」というのを繰り返すことになる。毎年、フォームが大きく変わる選手の多くは、そういう状態になっているんだと思います。だから、「これだけは直そう」とポイントを見つけて、根気よくコツコツと取り組める人がレギュラーになっていくんちゃうかな。
――期待されている選手ほど、いろいろな方からアドバイス受けるというのもありそうです。
立浪 いろいろな人がいろいろなことを言うから、余計にね。でも、バッティングでは人にはわからない自分の感覚ってありますからね。どこでタイミングをとったらちょうど合うかとかね。そういうのは、人それぞれ違います。言い方はあまり良くないのですが、迷ってしまっている選手は、なんとか一定の成績を残して、コーチからは「悪くなったときに良かったときのポイントを言ってもらうくらい」の、任せてもらえる選手にならないといけない。
「戦力がないわけじゃない。どこにもチャンスがある年」(立浪)
©Baseball Crix――さて、今シーズンのドラゴンズは、実際どのあたりの順位を目指していくことになりそうでしょうか?
和田 一昨年のスワローズは最下位から優勝しましたけど、いまのドラゴンズに「優勝を目指せ」というのは難しい注文なんですよね。いまはクライマックスシリーズ(CS)という制度があるので、まずはAクラスを目指すというところが妥当かなと。冷静に戦力を見たら、そのあたりが目標ラインかなと思ってます。戦力で抜けているように映るチームもありますが、3位までに入るチャンスは、どの球団にもあると思います。
――その目標を達成するための条件を挙げるとすれば?
和田 まずは外国人選手。いま、軸になれるレベルの日本人選手がそろっているかというと厳しい状況ですが、(アレックス・)ゲレーロと(ダヤン・)ビシエド、このふたりが元気に1年間やってくれると、まわりの日本人選手もついていきやすいのかなという感じはしています。そのような状況があって、ピッチャーでは大野(雄大)と吉見(一起)が軸になって頑張ってくれると、Aクラスも見えてくるでしょう。
立浪 昨年はカープが優勝しましたが、優勝した後はいろいろあります。疲労から思わぬ故障者が出ることもある。そう考えると、どこが優勝してもおかしくない。ドラゴンズもまずはAクラスを目指していくことになると思いますが、上位に食い込んでいくためにはピッチャーですよね。吉見もそうですし、大野も独り立ちして、貯金をつくれるような存在にならないと厳しい。それから、若い投手では鈴木翔太とかね。あのあたりからひとりでも出てきてくれると、相乗効果も起きて面白いのかなと見ています。打つほうももちろん大事なのですが、今年は走れる選手が非常に多い。京田(陽太)とか遠藤(一星)とか、大島(洋平)、平田(良介)、荒木(雅博)や亀澤(恭平)を使えば、5人くらい足を使った攻撃を仕掛けられる選手がいる。オーダーをガラッと変えてみるのも面白いのかもしれません。決して戦力がないわけではありませんから。
――平田選手、大島選手が残ったことも大きかった。
立浪 野手でいえば平田が1シーズン休まずに出場して働ければ大きいですよね。外国人選手が良さそうなだけに、日本人選手からも軸をつくれるといい。平田はもっと数字を残す選手にならないといけない。いまのままではもったいないですよ。本当の意味で節制してね、責任感を強く持って打線を引っ張っていってほしい。それだけの力はある選手です。
――あれだけ抜け出したカープですが、今年はどうなるかわからない。そう考えれば、他球団にもチャンスがあるようにも思えます。
立浪 黒田(博樹)も抜けていますから、それだけでも大きな戦力ダウン。新井(貴浩)も101打点を挙げるような昨年のような働きができるかという疑問が残る。ジャイアンツもかなり補強しましたが、戦力が極端に上がったようには感じません。その事実を見れば、どこにだってチャンスはありますよ。もちろん、ドラゴンズにだって。
――今日はありがとうございました。
[vol.1]「目先の勝利に拘泥しすぎない」立浪・和田から不振にあえぐ中日への提言
6年連続Bクラスに沈む中日ドラゴンズ。これは現在12球団最長の記録である。この30年ほどを振り返ったとき、単年での不振は何度かあったものの、翌年にはAクラスを奪い返してみせるのがドラゴンズというチームだった。久々に訪れた、「低迷」の理由はどこにあるのか。強かったドラゴンズを支えた立浪和義氏と和田一浩氏のふたりに、長いトンネルで苦しむドラゴンズにいま、なにが起きているのかを聞いた。
[vol.2]「長時間練習するだけでは意味がない」立浪・和田から不振にあえぐ中日への提言
対談前編では、チームには「我慢強い若手の起用」を、選手には「チームが使ってみたいと思うような能力の片鱗や姿勢を見せること」を望む立浪氏。和田氏も、「チームも選手も思い切って戦ってほしい。チャンスの年でもある」と前向きな言葉を送った。ただ、若手選手の育成という他球団とのレースにおいて、ドラゴンズが後塵を拝してきたのもまた事実である。練習内容や選手の意識において、改善が必要なものはないのだろうか。
(プロフィール)
立浪和義
1969年、大阪府生まれ。PL学園3年時に甲子園で春夏連覇を達成。主将としてチームを牽引。その秋のドラフト会議で中日ドラゴンズから1位指名を受け入団。22年間、中日一筋でプレーし、「ミスタードラゴンズ」の名を受け継ぐ選手として愛された。通算487二塁打のプロ野球記録も持つ。2009年をもって引退し、現在は野球解説者を務める。2013年の第3回WBCでは、打撃コーチを務めた。
和田一浩
1972年、岐阜県生まれ。県岐阜商から東北福祉大、神戸製鋼に進み1996年のドラフト会議で西武ライオンズから4位指名を受け入団。打力を評価され捕手から外野手にコンバートし才能が開花する。2005年には打率.322で首位打者を獲得。2007年にFA宣言し、翌年中日へ移籍。2015年には、史上最年長で2000本安打を達成。引退してからは野球解説者として活動。国際大会には2004年のアテネ五輪、2006年の第1回WBCへの出場経験がある。