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取材・文=Baseball Crix編集部

「出てくるやつは自分で出てくる。そのためのサポートを」(立浪)

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――立浪さんはルーキーイヤーからチャンスをつかみ、さらには新人王を獲るなどされましたが、首脳陣にどう見られていたかといった記憶はありますか?

立浪 やっているときはそんな余裕ないですよ。自分が入ったのはずいぶん前ですから、いまのプロ野球とは環境がずいぶん違いました。当時の監督は星野(仙一)さんで、いろいろな面で厳しかったですし、いまとは比べようがないです。

――キャリアを積んでからは、多くの若手選手を迎え撃ってきたかと思いますが、そうした面々といまの若手選手を比べることはできますか。

立浪 「少しのんびりしているなあ」と思うこともありますが、本人たちは真剣にやっていると思います。ただ、余裕がなかなかないし、結果がほしい。それだけでなく、練習がしんどすぎてへばってしまうんだろうし……なかなかうまくいっていないですよね。

――そのあたりをフォローするような育成の仕組みというところで、改善の余地があるということなのでしょうか?

立浪 そういう環境はつくっていかないといけないとは思うのですが、出てくるやつは自分で出てくるとも思います。レギュラーとして成績を保って143試合出場し続けるのって大変なんですよ。おだてながらやって一時期良い成績が出たとしても、なかなか長続きしない。いまは、「褒めて伸ばせ」って時代なのかもしれませんが、それだけじゃ無理なんですよね、プロ野球って。

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――自分で状況を切り拓いていく力が必要。

立浪 ひとつ心配しているのは、「ドラゴンズはよく練習する」と言われていますが、やらされている練習では力は伸びないということ。現に、しばらく若い選手が出てきていないわけですから、そこはなにか考えないといけません。

和田 そうですね。僕はライオンズとドラゴンズ、2チームの練習を経験しましたが、確かにドラゴンズのほうが練習時間は長く、「その時間内はしっかりやらないとダメだ」という、そういう雰囲気はありました。それは利点もあると思います。ライオンズの場合は、短い時間のなかにタイトにメニューが組まれていて、そのうえできるだけ短い時間でメニューをこなそうともしていたので、練習の合間がない感じでした。ライオンズではレギュラー獲りに挑んでいた期間も長かったから、その印象もあるのかもしれませんが、練習の厳しさ、緊張感という意味ではライオンズのほうがあったんですよね。

立浪 時間が長いと、どうしても抜いてしまうよな?

和田 はい。練習の仕方っていろいろあると思うのですが、立浪さんが言われたように、長いだけで、やらされているだけじゃ自分の身にならない。だから、なんのためにやるのかをもっと理解して、練習の質を向上させていかないといけない。シーズンに入って結果が出たとき、「あの練習の成果だ」という裏付けがあると、さらに上達していくことができると思うんです。ただひたすら長い時間やった、という自信だけではそうはいかない。

立浪 ある時期には、長い時間練習することも必要だと思います。ただ、レギュラーを長く張っていこうと思うなら、「これをやっておけば大丈夫」という効果を生む練習を見つけていかないといけない。

「軌道修正しながら、そのとき意味のある練習を」(和田)

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――状況に応じて、自分に必要な練習を見出す力。

立浪 調子が悪くなったとき、どうやって戻すかというようなものですよね。レギュラーで長くやっている人の多くは、そういう練習がわかっていて、しっかり取り組んでいる。レギュラーを目指す段階の人にそれを求めるのは厳しいかもしれませんが、常に「自分になにが足りないか」を明確にして、その課題に取り組んでいくことは大事です。今年のドラゴンズの練習を見ていても、みんなサボってはいるわけではないにせよ、なにもしない時間が目についたんですよ。時間ばかりが経っていくというか……。あれだけ遅くまで練習をやっても、良くなっていない人もいっぱいいる。もちろん良くなっている選手もいるけれど……。

和田 良くない練習を長々としてしまって、結果的に反対方向にいく選手もいますよね。常に軌道修正をしながらいかないと練習の意味がなくなってしまう。意味のあることをやらないとダメですよね。

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立浪 例えばだけど、日本ハムの大谷(翔平)のバッティング、凄いことになっているでしょ? あれは、日本のプロ野球界のバッターでナンバーワンになったと思うんだけどね。

和田 札幌ドームの左中間に、ガンガン放り込んでいますからねえ。

立浪 もともとトップでバットが背中側に入っていたせいで、内角の球が少し窮屈そうだったんだけど、スイングが速いし力もあるから打てていた。それが改善されて、今年は懐ができている。だからパチーンって。彼、今年は凄いですよ。

和田 あの身体の大きさプラス、ヘッドスピードがあるから間に合うんですよね。普通のバッターなら、差し込まれて詰まるようなボールにも対応できるので、ピッチャーは打ち取ったと思ったのにホームランに、みたいなことも起きていました。

立浪 でも、そんなにバットを振り込んでいるわけじゃないと思うんだよね。おそらくウエイトトレーニングでスイングを速くしていると思うんだけど、それって凄いこと。頭がいい。見ていてもよく考えて練習している。ティーバッティングをやっているのを見て、良くなっているなと思って、その流れでフリーバッティングを見たら別格やもんな。あんなの、朝から晩までバットを振っているやつらは、やってられないよな(笑)。

和田 そうですね。量は振っていないと思います。

立浪 バットを一番振っている選手に比べたら、おそらく大谷は10分の1くらししか振っていないと思うんだよ。それで、しっかり改善していくんだから。

和田 いかによく考えて、意味のある練習をするかなんですよね。

[vol.3] 立浪・和田の語る、不調時の調整方法と「伸びない」選手の特徴

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[vol.1]「目先の勝利に拘泥しすぎない」立浪・和田から不振にあえぐ中日への提言

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(プロフィール)
立浪和義
1969年、大阪府生まれ。PL学園3年時に甲子園で春夏連覇を達成。主将としてチームを牽引。その秋のドラフト会議で中日ドラゴンズから1位指名を受け入団。22年間、中日一筋でプレーし、「ミスタードラゴンズ」の名を受け継ぐ選手として愛された。通算487二塁打のプロ野球記録も持つ。2009年をもって引退し、現在は野球解説者を務める。2013年の第3回WBCでは、打撃コーチを務めた。

和田一浩
1972年、岐阜県生まれ。県岐阜商から東北福祉大、神戸製鋼に進み1996年のドラフト会議で西武ライオンズから4位指名を受け入団。打力を評価され捕手から外野手にコンバートし才能が開花する。2005年には打率.322で首位打者を獲得。2007年にFA宣言し、翌年中日へ移籍。2015年には、史上最年長で2000本安打を達成。引退してからは野球解説者として活動。国際大会には2004年のアテネ五輪、2006年の第1回WBCへの出場経験がある。


BBCrix編集部