文=斉藤健仁

左膝半月板を負傷も、復帰は間近

 12年に天理大を卒業し、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)就任と同時に桜のジャージーに袖を通した「ハル」ことCTB立川理道は、15年のラグビー・ワールドカップ(W杯)で、世界の屈強な選手たちに対してゲインを繰り返し、日本代表の3勝に大きく貢献したミッドフィルダーだ。

 コミュニケーション能力も長けており、所属するクボタだけでなく、16年秋の欧州遠征ではHO堀江翔太とともに主将を務め、スーパーラグビー参加2年目となる今年のサンウルブズでもFLエドワード・カークとともにスキッパーを務める天性のリーダーでもある。

 今年もサンウルブズの中軸として期待されていたが、2月18日のプレシーズンマッチで左膝半月板を負傷。「手術するほどではなかった」(立川)が、現在はNDS(ナショナルディベロップメントスコッド)合宿や日本代表合宿で、復帰を目指しながらトレーニングを積んでいる。

「負傷したのは時期的にアンラッキーでしたが、家族との時間や自分のコンディションを整える時間を得られたとポジティブに捉えるしかないという気持ちでやっています。自分にとっては初めての経験だったので、体調を整えながらケガする前のパフォーマンスに戻れるように、しっかりと準備していきたい」

 すでに4月の合宿では、コンタクト以外の練習に参加できるまでに回復し、4月22日に開幕し、日本、韓国、香港の3カ国によって争われるARC(アジア・ラグビー・チャンピオンシップ)に向けた沖縄合宿にも帯同した。代表50キャップを誇る27歳の立川にとって、アジアを戦う今の日本代表のほとんどが自分より若い選手たちにもかかわらず、である。

「JJ(=ジェイミー・ジョセフHC)からも『やれる練習には参加してほしい』と言われていますし、若い選手が多いので何とか手助けしたいという気持ちもあります。(今回の日本代表の)キャプテンはSH流(大)がやっているのでアドバイスをしたいですし、若手選手も話しかけてくれるので、教えられる部分があれば教えていきたい」

「試合登録されていないので、何とも言えない」と立川自身は言うが、ARCでの試合復帰を目指している。「(アイルランドなどと戦う)6月に向けて、いきなり最初がテストマッチというのは厳しいので、サンウルブズとして5月3週目、4週目あたりの試合に出たいですが、もう少し早い時期で、試合という形で復帰したい」。立川と一緒にプレーする機会を得られれば、若き日本代表にとっては大きなプラスとなるだろう。

準備期間の短いサンウルブズ

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 では、4月8日のブルズ戦でようやく今年初勝利を挙げたサンウルブズに関しては、共同キャプテンを務める立場としてどう見ているのか。

「去年と同じような形ですね。ツアーに行けばチームとして成長できるし、成熟度が高まります。ブルズ戦では良い選手たちが復帰して、チームに良い影響を与えて勝てたというのは大きな分岐点となった。急成長ということはないですが、毎週良くなっているので頼もしい。今回の遠征から戻って来たら、僕も合流すると思いますが、一緒に成長したい」

 ただ、日本のシーズンの関係で、サンウルブズは昨年と同じく今年も準備期間が他チームと比べて最も少なく、1カ月ほどしかなかった。昨年の初勝利は第8節だったが、今年も第7節と、時間がかかってしまった。

「今年は新しいチームになって、違うラグビーをしています。去年からいた選手たちはスーパーラグビーやツアーがどういうものなのか、経験が残っていますが、違うストラクチャーの中でやるのは初めてですし、メンバーも違う。準備期間がもっとあれば、開幕から何試合かに勝てたかもしれません。準備期間があるにこしたことはないですが、今ある現状でしっかり準備するしかない」と決して言い訳することはなかった。

 一方、今年と昨年との大きな違いは、ジョセフ日本代表HCが「チームジャパン2019総監督」としてサンウルブズのフィロ・ティアティアHCの上に立ち、19年のW杯に向けて15人制男子日本代表の強化、育成を監督する立場になったことだ。ジョセフHCは「世界の代表チームのベストの選手は33試合くらい」と日本代表の選手たちのコンディションを考慮し、いわゆる「ターンオーバー制」で選手に一定期間の休みを与えながらスーパーラグビーを戦っている。

「ケガをせず元気だったら、突っ走っていたかもしれない」と立川は言うものの、立川もHO堀江翔太、SH田中史朗よろしく、いずれかのタイミングで休養を与えられていたことは確かだ。

80人を超える日本代表候補選手

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 ジョセフHCは、スーパーラグビーに参戦するサンウルブズを中心に、アジアを戦う若き日本代表、そしてU20日本代表を中心としたジュニア・ジャパンと、3つのチームから選手を見極め、6月にルーマニア、アイルランドと戦う日本代表を選出する意向を示している。また、海外のスーパーラグビーに参戦している選手も6月には招集する予定で、現在、日本代表候補選手は80人を超えている。

 W杯まであと2年となった日本代表に関して、昨年11月から共同キャプテンを務める立川は「大きなスコッドの中で、(ジョセフHCが)見極めているという感覚がある」と言いつつも、「W杯までの試合数を考えると、ある程度コアメンバーを決めて合宿をしていくのも大事かと。サンウルブズはタフなシーズンを過ごしているので、そういった選手が選ばれるのが妥当だと思います」とW杯経験者ならではの見解を語った。

 もっとも、立川でも日本代表の定位置は確保されているわけではなく、現在、一緒に合宿をしている若い選手たちからも刺激を受けている。

「エディーさん時代も、良い選手は年齢に関係なく日本代表に選ばれていましたし、大きなスコッドでも、(JJの)やりたいラグビーを多くの選手が分かっていて、いつでも来られるのはいいことだと思います。(松田)力也、山沢(拓也)、そして大学生にも鹿尾(貫太)とポテンシャルのある選手がいるので、良い競争をしながらチームとして強くなっていきたい。もちろん、自分も負けられないという気持ちがありますし、プレーするときには違いを見せたい」

 5月10日には、京都でW杯の組分け抽選会が行われる。「対戦相手が決まれば実感が湧くと思いますが、それでも2年後のことなので、1試合1試合のテストマッチを大事にしていきたい」と語る立川は、19年も間違いなく日本代表の顔として、日本ラグビーを引っ張っていく存在となるだろう。その前に、まずはケガからの復帰し、ピッチの上で元気な姿を見たい。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k