文=斉藤健仁

アジア5カ国対抗時代を含め9連覇も……

 ARCは15年に日本、韓国、香港の間で始まった大会で、08年から行われていたアジア5カ国対抗を改変して創設されたものだ。アジア5カ国対抗時代には、JK(ジョン・カーワン)ジャパンも、エディー(ジョーンズ)ジャパンも、スーパーラグビー組を除く本気のメンバーで参戦し、日本は7連覇を達成している。

 W杯イヤーである15年に行われたARCは、エディージャパンにとって貴重な試合経験の場となったが、16年大会では、この年からサンウルブズがスーパーラグビーに参戦したため、若手中心のいわば2軍の日本代表を編成。直後の6月にU20世代の国際大会「ワールドラグビーU20チャンピオンシップ2016」が控えていたこともあり、U20日本代表スコッドの多くがメンバー入りし、U20日本代表のヘッドコーチ(HC)も兼ねていた中竹竜二氏がHC代行を務めた。

 若手中心のメンバーで16年大会に臨んだ日本代表だったが、ホームで迎えた韓国との初戦に85-0と圧勝して勢いに乗り、そのまま4連勝。得点242点、失点23点でアジア5カ国対抗時代を含め9連覇を成し遂げた。

 5月にARCを戦い終えた日本代表はその後、6月にカナダ、スコットランドとテストマッチを行った。しかし、必ずしも一貫した強化体制が取れていたとは言いがたい。

 昨年6月の日本代表は、サンウルブズのマーク・ハメットHC(当時)が指揮を執ったこともあり、サンウルブズのメンバーと15年W杯に出場した経験者が融合したチームだった。スコットランド戦2試合の先発メンバーでARCに出場したのはLO小瀧尚弘(東芝)、FL金正奎(NTTコミュニケーションズ)の2人だけ。ARCのメンバーでもなく、サンウルブズのメンバーでもない選手が7人もいたのだ。

 もちろん、サンウルブズ以外のチームでスーパーラグビーに出場していた選手の国際経験を買ったという見方もできる。だが、個人的にはCTBティム・ベネット(キヤノン)やFB松田力也(帝京大4年/当時)の2人はARCから戦ってほしかった。また、19年W杯に向けた強化の方向性に若干の不安を感じざるを得なかった。

 しかし、その不安はすぐに払拭される。昨年9月にジェイミー・ジョセフが日本代表のHCに就任し、さらに「チームジャパン2019総監督」として15人制日本代表を総括する立場に就いたからだ。

 昨年とは異なり、今年のサンウルブズは、FBリアン・フィルヨーンを除く55人の選手が日本代表経験者および将来、日本代表になり得る選手で構成されており、指揮官こそフィロ・ティアティアが務めているが、コーチ陣は日本代表のスタッフで占められ、日本代表=サンウルブズの構図がより一層強調される形となった。

ジョセフHCが打ち出した次の一手

©Getty Images

 さらにジョセフHCは次の一手を打ち出す。自らの指導のもと、NDS(ナショナルディベロップメントスコッド)キャンプを行ったのだ。

 NDSキャンプとは「将来日本代表に選出される可能性のある高いポテンシャルを持った人材に加え、サンウルブズのメンバーのうち遠征に参加しない選手たちも招集し、ジョセフHCらのもと育成し、日本代表のマインドセットを共有することで、将来日本代表に選出された際にスムーズな合流を目指す取り組み」と銘打たれたものだ。今年3月から4月にかけて5日×4回行われ、ARCに向けた「プレシーズン合宿」という位置付けでもあった。

「日本代表の強化にとって大事」と、ジョセフHC自らが戦術の落とし込みやセットプレー、フィジカルトレーニングやフィットネストレーニングを指導。選手たちは「緊張感がある」「呼ばれてよかった」と声を揃えた。日本代表と戦術を共有するサンウルブズの選手にとってはいつ合流してもいいように、若手選手にとっては代表チームにいつでも合流できるように戦術やマインドを共有する場となり、ジェイミー・ジャパンの登竜門的な合宿となった。

 そして4月10日、ジョセフHC自らが選手一人ひとりの名を読み上げて、今年のARCを戦う37名のスコッドが発表された。

 メンバー構成は、サンウルブズの選手で、現在活動中のニュージーランド・アルゼンチン遠征に参加していない選手が15人(PR浅堀航平、LO谷田部洸太郞、SH流大の3人はバックアップメンバーという位置付けとなった)、さらに、ジュニア・ジャパンでのプレーが評価されたFB野口竜司(東海大4年)ら4人を含め、NDS合宿に参加していたメンバーが22人となっている。

「ARCのファーストチャンスは、NDSキャンプで長くやってきたメンバーに与えるべきだと思います。すべてシンプルにやっていきたい。この4試合の中、全員チャンス与えることを考えています」(ジョセフHC)

 韓国や香港とのレベルの差を考えれば、ARCに勝つのは当たり前であり、ジョセフHCも「何点差といったことではなく、自分たちの戦いができるかを見たい」と、内容を重視する考えを示唆している。

 日本代表は6月にホームでルーマニア代表と1試合、アイルランド代表と2試合、計3試合戦う。ジョセフHCはこのテストマッチにFLリーチ・マイケル(チーフス)、FLツイ・ヘンドリック(レッズ)、No.8アマナキ・レレィ・マフィ(レベルズ)の3人を招集する可能性を明言。「ルーマニア戦までセレクションマッチ」とも語っているため、アイルランド戦2試合でベストメンバーを組むことは間違いない。

 今年のARCは昨年とは違い、日本代表のHCが直接指揮を執るため、6月のテストマッチや19年W杯に向けたセレクションマッチの一つになることは明白だ。若手選手たちが自身のポテンシャルをアピールするだけでなく、勝利に貢献するためのプレーを見せられるか――。W杯に向けて、選手たちの競争が始まったと言えよう。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k