文=斉藤健仁
エディー時代とは異なるチーム戦術
©Getty Images 2019年に日本で開催されるラグビー・ワールドカップ(W杯)での躍進を目指し、ラグビー日本代表の中軸になり得る選手たちは現在、サンウルブズとしてスーパーラグビーに参戦し、若手を中心とした次世代を担う選手たちは、日本代表としてアジア・ラグビー・チャンピオンシップ(ARC)に参加して経験を積んでいる。
この2チームはジェイミー・ジョセフ“総監督”のもと、ほぼ同じラグビーを指向している。そんなジェイミーHCの目指すラグビーで、大きな役割を担っているのが9番のSH、10番のSO、つまりゲームをコントロールするハーフ団だ。
前任者のオーストラリア出身のエディー・ジョーンズHC(現イングランドHC)時代を振り返ると、大げさに言えばフィールドの半分くらいしか使わないラグビーを展開していた。9番、10番、12番をそれぞれ起点とした、3つの「シェイプ」と呼ばれるアタックラインを重層的に配置して攻めていたため、9番ももちろん重要だが、10番、そしてインサイドCTBの12番がタクトを握ることが多かったというわけだ。
また、ジョーンズHCは12年の就任当時からSHを田中史朗と日和佐篤のふたりでほぼ固定しつつ、10番と12番はスキルに長けた「(小野)晃征、ハル(立川理道)、(田村)優の3人でいく」と明言していた。特に10番に関してはエディー・ジャパンの4年間全57試合中、小野が26試合、立川が20試合、田村が10試合で先発。ワールドカップ本番ではSO小野が勝利した3試合でスターターを務め、立川はインサイドCTBとしてブレイクし、南アフリカ戦を含む3勝の立役者となった。
しかし、ニュージーランド出身のジェイミーHCのラグビーは当然のことながら、エディー時代とは異なる。
ジェイミーHCは、FW3人のユニット2つを中盤に配置し、その両サイドにFWとBKが混ざったユニットの計4つを立たせている。つまり、エディー時代とは違い、80メートルのグラウンドの横幅をすべて使う戦術のため、9番と10番が主にゲームをコントロールし、パスだけでなくキックも多用してボールを大きく動かし、スペースを狙ってアタックするのだ。
共同キャプテンのひとりであるCTB立川は「(試合の組み立ては)ジェイミーのラグビーでは9番と10番が担当します。僕がボールを持つ回数が少し減ったことは寂しいですが」と説明している。
9番のSHでは田中史朗が別格の存在感
©Getty Images では、ハーフ団のポジション争いの現状を見ていこう。まずはSHから。このポジションでは15年W杯の中心メンバーで、ジョーンズHCが「判断は世界トップレベル」と評価するSH田中が頭ひとつ抜けている。日本人初のスーパーラグビー選手としてジョセフHCが昨年まで指揮を執ったハイランダーズで4年間プレーした田中は、ジョセフHCのラグビーを誰よりも理解している。緩急の付け方もうまく、相手の隙を突く突破力も高く、存在感が別格だ。
32歳のベテランの田中に続くSHはやはり、サンウルブズのメンバーとなろう。長いパスとランが武器のベテランの矢富勇毅、個々のスキルに長けている内田啓介、昨年6月のテストマッチで田中に替わり先発した茂野海人の3人が出場機会を得ており、小川高廣も控える。そして、その4人に挑むのが、ARCに参戦している日本代表のキャプテンを務め、サントリーを昨年度2冠に導いた流大という構図だ。
田中に続く選手として個人的に期待しているのはSH茂野だ。15年に日本人として初めてニュージーランド国内のプロリーグに「オークランド代表」として選出、決勝でもプレーした。NZ流の小さな動作から長く速いパスを武器に、突破力も武器とする。ただ、やはりゲームコントロールでは、田中にまだまだ及ばないだろう。
茂野は「良いSHがたくさんいる中で、コンスタントにプレーをして結果を出していかなければいけないが、個人的にはコミュニケーションの部分を学んでいきたい」と意気込む。昨年度のトップリーグなどで負傷した両腕も完治し、アジアと戦う日本代表、そして、サンウルブズでアピールしていきたい。
話を10番に移そう。現在、定位置争いのトップを走っているのは、SO田村優だ。エディー・ジャパンでは“3番目の男”だったが、16年の日本代表でも6月、11月の7試合で連続してスタメンを張り、サンウルブズでも現在、10番を背負う試合が多い。
パス、キックとスキルの高い天才肌の田村だが、ラグビーを始めたのは高校に入ってから。ただ、もともとサッカーをしていたため、スペース感覚に優れ、年齢を重ねるごとにプレーの波も少なくなり、タックルでも体を張る姿が目立ってきた。また、練習中も常に声を出し、周りの選手に指示を送るなど、リーダーとしての自覚も十分だ。
田村に続く存在は、サンウルブズでプレーするニュージーランド出身のSOヘイデン・クリップス、若手有望株のSO小倉順平と田村優の弟である田村煕、そして、アジアを戦う日本代表に選出された22歳のSO山沢拓也、SO/CTB/FB松田力也の5人だ。
求められる「SH田中とSO田村」を超える存在
©Getty Images 個人的に大きく伸びてほしいのは、小倉と山沢のふたりだ。小倉は社会人3年目の24歳で、昨年度はNTTコミュニケーションズを過去最高の5位に導いた。今年からサンウルブズでもプレー。3月25日のストーマーズ戦で初先発し、白星こそもたらせなかったが、10番として確実なプレーを見せた。また、ARCでも開幕から2試合連続先発出場を果たした。
ポジション争いについて小倉に聞くと「試合に出られていることは、当たり前ではないし、(自分のパフォーマンスが)悪かったら、他にも良い選手や若い選手がいるので(出られなくなってしまう)。一戦一戦、何にフォーカスするか考えてやっていないとダメ。淡々と日々を過ごしていたら、すぐに終わってしまう」と危機感を募らせていた。
一方、筑波大4年生の山沢は、もともとジョーンズHCに見込まれて高校3年時に代表合宿に呼ばれた逸材だ。昨年度は大学ではなく、トップリーグでのプレーを選んでパナソニックに所属。柔らかいパスと鋭いランが武器で、サッカー経験もあるため、左右両足で蹴ることもできる。すでにトップリーグや日本選手権でも10番を背負っていたようにアタック能力は高く、4月29日の韓国戦では日本代表初キャップを獲得した。
ただ、山沢は19年のワールドカップの話を振っても「先のことは考えられない」と語り、代表の定位置を掴むたいという気持ちも「そんなに強くない」と言う。山沢の矢印は常に自分に向いており、「みんなの方が上手いと勝手に思っているので、一つひとつ『すごいな』と思いながら、細かいところを勉強し成長していきたい」と真摯に答えている。
エディー・ジャパンで“2番手”だった立川はSOではなく、今後もCTBとしてプレーする可能性が高いが、エディー・ジャパン時代の“1本目”の司令塔で、ニュージーランド育ちの小野晃征は健在で、来年以降にサンウルブズ参戦の可能性も十分にあるだろう。
昨年6月のスコットランド戦で日本代表のFBとして先発出場し、4月に帝京大を卒業したばかりの万能BKの松田も「SOにこだわりたい」と語り、5月6日のARCの韓国戦で先発として10番を背負った。
いずれにせよ、昨年11月のテストマッチではSH田中、SO田村のハーフ団で臨んだように、このふたりが地元開催となる19年W杯への定位置争いで一歩、二歩リードしているが現状だ。W杯まであと2年あまり。このふたりに伍する、いや、超えるような選手が出てくることが本番での日本代表の躍進に大きくつながっていくはずだ。