「厳しい局面に立たされて成長する」栃木ブレックスが22点差からの大逆転劇、難敵に完全勝利を収めてセミファイナルへ
流れは千葉、それでも浮足立たない『タフ』な栃木 B1東地区覇者の栃木ブレックスとオールジャパン王者の千葉ジェッツの対決は、チャンピオンシップのクォーターファイナルで最大の注目カードだった。チケットは当然ながら完売し、ブレックスアリーナは3998名の大入り。記者やテレビカメラが殺到し、男子日本代表のルカ・パヴィチェヴィッチ暫定ヘッドコーチも大一番の視察に訪れていた。 昨日の第1戦は栃木が80-73で先勝している。外国籍選手のオン・ザ・コート数は両チームとも「1-2-1-2」だった。 第1クォーターは千葉が存分に持ち味を発揮した。残り8分58秒に小野龍猛が3ポイントシュートを沈めると、残り8分16秒にはヒルトン・アームストロングがダンク。ディフェンスリバウンドなどからトランジションを繰り返し、持ち味の速攻でイージーな得点を重ねていく。 圧巻は残り1分42秒からの9点ラン。特に富樫勇樹は残り1分17秒、残り53秒と自らのスティールからの高速ドライブで連続ポイントを挙げてチームを勢い付かせた。千葉はチームの乗る形が続き、富樫は残り19秒にも渡邉裕規との1オン1からこの日9点目。残り3秒にはタイラー・ストーンも決めて、千葉は33-13の大差で第1クォーターを終える。 栃木の須田侑太郎は最悪の10分間をこう反省する。「シュートで終わっていない場面が多かった。入るか入らないかは別にして、ちゃんとシュートまでいく、スクリーン、カットの一つひとつを遂行することが大事」 流れは完全に千葉だった。ただ、栃木の選手はあまり浮足立っていなかった。遠藤祐亮は第2クォーター前の雰囲気をこう明かす。「千葉の流れになってしまったけれど、ベンチもコート内もポジティブな言葉しかなかった。レギュラーシーズンでも点を離されてから盛り返す試合が何度もある。そういう経験を生かしながら、コミュニケーションが取れていた」 須田もこう振り返る。「逆に考え方の無駄がなくなった。『やるしかない』という状況になってチームが一つになれた。ディフェンスからアグレッシブに攻めるというのがシンプルになった」 ギブスのエナジー&インパクトが反撃のきっかけに 第2クォーター開始直後には点差が22にまで開いたが、そこから栃木の反撃が始まった。栃木はオン・ザ・コート数が「2」になったこともあり、ジェフ・ギブスがこの10分間はフル出場。「自分の役割はしっかりエナジーをコートに運ぶこと、ゲームにインパクトを与えること」と語る彼が、10分間で9得点を挙げて言葉通りの『エナジー』をチームにもたらす。 しかし、千葉も残り4分47秒にコートへ戻った小野龍猛が、そこからミドルシュートを立て続けに4本沈める大爆発。栃木は11まで縮めた点差を15まで戻され、28-43のビハインドでハーフタイムに入る。 栃木のトーマス・ウィスマンヘッドコーチはハーフタイムの修正をこう振り返る。「ゲームプランを何か変えたというのでなくて、自分たちのディフェンスの能力を信じて、しっかりやり続けることを伝えた。2ポイントはある程度やられてもいいけれど、3ポイントで勢いに乗せないという、その辺の考え方は変えずにやった」 攻撃の終わらせ方、小野のポストアップに対する守備などで手を打った部分はあるのだろうが、栃木の修正はディテールに留まった。 第3クォーターに入ると栃木が盛り返す。古川孝敏、ライアン・ロシターが得点を重ね、残り3分46秒に遠藤が3ポイントシュートを決めた段階で40-50の10点差。観客もシュート一つ、リバウンド一つに熱狂し、アリーナは栃木を後押しする空気で満ちていた。 勢い付いた栃木は残り2分28秒、1分25秒と須田が連続して3ポイントシュートを成功させ、49-50とついに1点差に迫る。千葉もそこから決め返したが、栃木は49-52と3点差まで詰め寄って第3クォーターを終えた。 「栃木が本当に素晴らしいのは、ギブアップしないこと」 栃木は第4クォーター残り9分1秒、ギブスがアームストロングの上からフックを沈めて53-52と逆転。残り8分30秒にもギブスは富樫からスティールを決めてダンクを叩きつける。千葉もストーン、アームストロングが決めて粘るが、栃木は57-60から7得点のランで一気に突き放す。 ギブスは最終クォーターだけで10得点。スティール、ダンクなどでチームを活気付けるプラスαの働きも見せていた。栃木は最終的に19点のギブスを筆頭にロシター、古川、須田、遠藤の計5名が2桁得点。77-70で千葉を下し、連勝で準決勝進出を決めた。 千葉の大野篤史ヘッドコーチは栃木をこう称える。「栃木が本当に素晴らしいのは、ギブアップしないこと。ビハインドをいくら作っても、最後までチームとして戦うことを継続したところが僕らより優れていた。認めたくないですけど、チームとしての成熟度と言いますか、チームとして何かを成し遂げたいという思いは、栃木さんの方が上だったと思う」 一方で自分たちの戦いぶりをこう悔いる。「チームとしての成長は自分の中で実感があったけれど、ズタボロにされました。良いときは誰でも良いんです。そういう時にチームがまとまることは当たり前のこと。悪いときにチームの連帯感、一体感を生み出せなかったのは自分の責任だと思っています。今日は皆さんが見ても分かるように、テクニカルファウルを取られたり、終盤に言い争ったり、チームとしての体をなしてなかった」 千葉は終盤にチーム内の空転を起こしてしまっていた。アームストロングは攻守で卓越したプレーを見せた一方で、第3クォーターに審判への発言でテクニカルファウルを受けるなど、試合以外にフォーカスが向けてしまっていた。 「苦しい道のりがあることは、自分たちにとって好ましい」 栃木は昨年、一昨年とNBLの準決勝で敗れている。Bリーグ初年度の準決勝も、千葉に続く難敵、シーホース三河が彼らの前に立ちはだかることになった。しかしウィスマンヘッドコーチはそんなチャレンジを前向きに受け止めていた。指揮官は言う。 「アルバルク東京や千葉がいる過酷な東地区を戦い抜いて、クォーターファイナルも他のどこのチームも戦いたくないと思っていた相手と戦いました。自分たちはこの先も、あえて苦しい道のりに立ち向かって進んでいきたい。こういう苦しい道のりがあることは、自分たちにとって好ましい」 困難なチャレンジをやり遂げた時ほど、そこから得るものも大きい。指揮官はこう胸を張る。「22点差を追いかけるという状況以上に厳しいチャレンジはないと思いますが、そんな中でより深く自分たちの可能性を探して、跳ね返す力を見いだすことができた。それは今週末の収穫だと思います。こういう厳しい局面に立たされた時に、さらに自分たちはさらに成長していけるというのを見つけられた」 彼が「こういう場を手に入れるために、クォーターファイナル、セミファイナルのホーム開催権を勝ち取るために必死にやった」とシーズンを振り返るように、全体2位の好成績が奏功して準決勝をブレックスアリーナで戦うことができる。大きな地の利を得て、栃木のチャレンジはなお続いていく。
文=大島和人 写真=B.LEAGUE