文=横井伸幸

トップ3に並ぶか。スターダムを駆け上がるフランスの星

©Getty Images

 サッカー選手のステータスを表すものに大型の広告契約がある。ウェブサイトopendorse.comの昨年秋の発表によると、2015年、レアル・マドリーの顔であるクリスティアーノ・ロナウドはナイキやハーバライフ、サムスン、コナミといった企業の顔をも務め、計2700万ドル(約30億円)を懐に収めた。またバルサに君臨するメッシはアディダスやEAスポーツ、ジレット、ペプシなどとの契約により計2200万ドル(約24億円)、そのメッシの玉座を狙うネイマールはナイキ、カストロール、コナミ、レッドブル、フォルクスワーゲンなどから計1700万ドル(19億円)もの報酬を得た。

 大金が動く多国籍企業の広告キャラクターをオファーされるのは、コンスタントに活躍してチームをタイトル戦線に導くエースだけである。数カ月後明らかになる16年分のランキングでも、この3人が上位を占めるのは間違いなかろう。

 他方、ここに割って入るほどではないにせよ、今後の広告での露出に関して注目すべき選手がいる。アトレティコ・マドリーのフランス代表FWアントワン・グリーズマンである。

 14年の夏、地方の一クラブであるレアル・ソシエダから全国区のアトレティコに移籍したことで彼の広告キャラクターとしての価値は一段アップしたが、決定的だったのは昨シーズンのパフォーマンスだ。格下相手の楽な試合だけでなく、難しい一戦の大事な場面でも何度もゴールを決め、全公式戦54試合で32得点。アトレティコにとってクラブ史上3度目(チャンピオンズカップ時代を含む)となる欧州王座決定戦進出のキーマンとなり、その後のユーロでは最多得点者となってフランスの準優勝に貢献し、16年のバロンドール賞でもFIFAが年間最優秀選手に授けるザ・ベスト賞でもC・ロナウドやメッシに次ぐ支持を得た。現在26歳でまだ伸びしろがあり、昨年10月フランスフットボール誌に、そして今年1月スイスのスポーツ研究国際センターに「(移籍)市場価格はC・ロナウド以上」と評価されたほどである。

 そんなグリーズマンが最近フランス諸都市の街角を飾っている。過去にメッシやレアル・マドリーのコロンビア代表MFハメス・ロドリゲスのみならず、スカーレット・ヨハンソンやヘンリー・カヴィル(映画『バットマンvsスーパーマン』のスーパーマン役)といったハリウッドのスターをも広告に起用してきた中国ファーウェイ社のキャンペーンキャラクターに選ばれたのだ。

 コロンビア向けだったハメスのとき同様、全世界ではなくフランスの国内市場をターゲットにしたものだが、見方を変えると、フランスにおいてグリーズマンには他の者に勝る訴求力があるということになる。14歳のとき母国を離れてレアル・ソシエダの下部組織に入団し、以来ずっとスペインで過ごしてきた選手だということを考えると、興味深いケースだ。

「自分が進む道はそれに従って決める」。行き先は憧れのマンUか。

©Getty Images

「特徴が広告キャラクター向きなのです。選手としての見事なキャリアとあの無垢な容貌は(デイヴィッド)ベッカムのパターンに当てはまる。今のところC・ロナウドや当のベッカムほど積極的には商業利用されていませんがね」

 英国サルフォード大学でスポーツ企業学を教えるサイモン・チャドウィックのグリーズマン評である。

 たしかにあどけなさを残した笑顔は魅力的だし、角が立つ発言はないし、得点後に見せるカナダのラッパー、ドレイクを真似たダンスにも厭味がない。敵対関係にあるチームのサポーターに好かれはしないけれど憎まれもしないタイプだ。

 先日、自叙伝の刊行記者会見の場で、グリーズマンは今夏の移籍をにおわせた。

「良いプレーをしてゴールを決めるだけじゃ物足りないレベルまで来た。そういうのはもうおしまい。これからはタイトルを狙っていきたい。自分が進む道はそれに従って決める」

 有力と噂されたのは、ジョゼ・モウリーニョ率いるマンチェスター・ユナイテッド。これに対し、グリーズマンに広告契約に関するアドバイスを与えるイメージコンサルタント、セバスティアン・ベランコントゥルは賛成の意を表した。

「商業的には理想的なシナリオだと思う。彼のアイドルであるベッカムが以前所属したクラブで、ベッカムのものだった背番号を付けるんだ」

 マーケティング面の効果はマンチェスター・ユナイテッド側も期待しているだろう。あのクラブにはかつてエリック・カントナというフランス人の王がいたからだ。

 ところが、移籍秒読みと見られていた6月12日、グリーズマンは一転して残留を表明した。補強禁止処分を受けたクラブに義理立てした格好だが、契約延長はわずか1年。マンチェスター・ユナイテッドにはアトレティコとグリーズマンの契約に定められている違約金100万ユーロ(約123億円)を払う用意があるとされ、“赤い悪魔”の新たな7番が誕生する可能性は依然残っている。

 21世紀のカントナか、はたまたベッカム二世か。いずれにせよ、その広告価値も格段に上昇することになるだろう。


横井伸幸

1969年愛知県生まれ。大学卒業後たまたま訪れたバルセロナに縁ができ、01年再び渡西。現地の企業で2年を過ごした後フリーランスとなった。現在は東京をベースに活動中。記事執筆の他、スポーツ番組の字幕監修や翻訳も手がける。