文=向風見也

エディーの下で世界2位! 欧州の雄・イングランド

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 2019年のラグビー・ワールドカップ、予選プールで日本代表はニュージーランド代表、オーストラリア代表、南アフリカ代表といった南半球の優勝経験国とは別組になった。とはいえ、現場は楽観視していない。世界ランク4位のアイルランド代表、5位のスコットランド代表と同組に入ったからだ。

6月14日、24日に行われたアイルランド戦でも連敗を喫したばかりだが、11位の日本代表は、お互いが正式に認めたテストマッチでこの2チームから勝ったことがない。本大会の予選プールAでは、まだ顔ぶれの決まらぬ「ヨーロッパ予選1位」という枠もある。日本代表のベスト8進出のカギを握るのは、ヨーロッパ勢ということになる。

球を縦、横とよく動かす南半球に対し、北半球は歴史的に無骨なプレースタイルであり続けてきた。肌寒く雨が多い天候の影響もあり、大きなキックや接点でのぶつかり合いに時間を割く。

 近年は一部の代表チームが、南半球強豪国出身のコーチを招聘。アンストラクチャーと呼ばれる、セットプレー(フォワードが8対8でぶつかり合うスクラムをはじめとする攻防の起点)を介さぬ攻防にも磨きかけている。それでも北半球における普遍的な見どころは、ぶつかり合いにある。

 北半球最上級の戦いは、毎年2~3月に行われる「シックスネーションズ」だ。1883年から始まったイギリス4地域(イングランド代表、スコットランド代表、アイルランド代表、ウェールズ代表)の対抗戦にフランス代表、イタリア代表が加わり、1試合平均観客動員数が世界一という巨大イベントに成長している。

 このシックスネーションズで現在2連覇中なのがイングランド代表だ。自国開催のワールドカップ第8回大会では、ホスト国として初の予選プール敗退。ところが、翌年に前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズヘッドコーチがボスになると一気に蘇生する。就任前から通算し、世界史上最多タイのテストマッチ18連勝をマークした。

 他競技の指導者からも知見を吸収しながら統率の取れた組織を形成。手足の長いマロ・イトジェらが密集戦と空中戦で目立ち、世界ランクをニュージーランド代表に次ぐ2位に押し上げている。

 そして、このイングランド代表の連勝を止めたのがアイルランド代表だ。今季のシックスネーションズ最終節における直接対決で、ミスを誘う強烈なタックルと一撃必殺のモール(自立したボール保持者の周りを複数のサポートが固め、相手を押し込むプレー)というお家芸を披露。13-6で白星を得た。ニュージーランド人のジョー・シュミットヘッドコーチが、熱く激しい「アイリッシュ魂」を最大化させる。

イングランドを止めたアイルランドと、アイルランドを倒したスコットランド

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 さらに日本代表にとって厄介なのが、こちらも予選プールで同組のスコットランド代表だ。2016年の来日時も日本代表に2連勝し、今季のシックスネーションズではアイルランド代表を破っている。世界一のスクラムハーフと謳われるグレイグ・レイドローが、接点周りでの球さばきに強弱をつけつつ正確なキックを放つ。

 大英帝国のもうひとつの雄が、世界ランク8位のウェールズ代表。ヨーロッパのなかでは比較的パスやランで防御を崩す哲学を重んじており、いまもウイングのジョージ・ノース、フルバックのリー・ハーフペニーらがシャープな位置取りとスピード感で魅了する。スタンドオフのダン・ビガーを筆頭に、チャンスメーカーのスキルも高い。

 一方で世界ランク6位のフランス代表は、国内リーグのトゥールーズを率いて4度の欧州王者に輝いたギー・ノヴェスヘッドコーチが指揮。かつての「シャンパンラグビー」という代名詞を、“外資”も活かして取り戻しつつある。ヴィリミ・ヴァカタワ、ノア・ナカイタジといったフィジー出身の巨漢両ウイングが、キック捕球後のカウンターアタックから爆発的なランを繰り出す。タックルされながらも長い手を活かしてボールを繋ぎ、アンストラクチャーからの美しいパス交換を発動させるのだ。突進力のあるフッカーのギエム・ギラドキャプテンが中心となり、スクラムにもこだわる。

 シックスネーションズ諸国は、プロリーグの盛り上がりでも知られる。

 イングランドではサッカーのプレミアリーグに相当する国内リーグ、プレミアシップが1987年に設立され、そこには南半球の代表経験者も数多く在籍。五郎丸歩のトゥーロン加入で話題となったフランスのトップ14は、創立が1892年と長い歴史を誇る。実業家と手を組む各クラブが潤沢な資金を有し、満員のスタジアムに世界各国の名手を躍動させている。2001年には、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、イタリアの計12チームが参加するプロ12も発足した。

 北半球ではほかに、格闘技の強い東欧諸国も存在感を発揮。なかでもジョージア代表とルーマニア代表は世界ランクがそれぞれ12、16位と、シックスネーションズに加盟するイタリア代表(15位)と同格かそれ以上だ。両国ともスクラムを問答無用に押し込んでいる。

 とはいえラグビーは、そもそも発祥の地である大英帝国と関係の深い国のなかでじわりと伝播してきたスポーツ。「紳士のスポーツ」といった公共イメージも手伝ってか、サッカーに比べると世界中への拡散はややスローだった。

 統括団体のワールドラグビーは、2019年のワールドカップ日本大会をさらなる市場拡大のチャンスとしている。日本に世界大会をおこなわせることで地球の人口の約6割を集めるアジアへの普及を促進。勢力図を広げようをとしているのだ。日本ラグビー界に課された役割は重い。


向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、ラグビーのリポートやコラムを『ラグビーマガジン』や各種雑誌、ウェブサイトに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。