いよいよ今秋に始まるフランス大会では、このビールの領域でインパクトが起きる。

 大会の最高位スポンサーにあたる「ワールドワイド・パートナー(WWP)」に、日本のアサヒビールが加わったのだ。

 日本大会までオランダの大手ハイネケンが持っていた、会場でプロモーションができる権利を得たのだ。そもそも欧州系の企業が中心だったWWPに、アジアの会社が入るのは初めてだ。それがラグビーと密に繋がるビールでの参画とあり、国内外で注目された。

 同社マーケティング本部の望月省二氏は、こう繰り返す。

「スーパードライのブランドパーパスは『気持ち高まる瞬間を分かち合う』。ラグビーという競技とも親和性があると考えています」

 かねて日本ラグビーフットボール協会(日本協会)とつながりがあったためか、フランス大会でのWWP入り交渉へは積極的だった。国際統括団体であるワールドラグビー(WR)との知己を得るや、テーブルについた。

 晴れてWWPとなるとまず、WWP契約締結発表会を行い、社外への告知と、社内の機運を醸成した。その後、ウェブでのバナー広告、民放局でのラグビーの提供番組を通し、商品とラグビーのプレゼンスを高めた。

 21年夏には、2大会連続でのラグビーワールドカップ決勝トーナメント行きが期待される日本代表のオフィシャルスポンサーになったと発表した。翌年10月には、「JAPAN XV」名義でおこなった対オーストラリアA・3連戦でゲームの冠スポンサーとなった。勝利チームに「スーパードライ1000本」を贈呈し、会場内の雰囲気づくりを支えた。さらに茨城工場や吹田工場では、試合のパブリックビューイングも行った。

 ワールドカップイヤーとなる今年も、ラグビーとビールをシェアする施策を次々と打ち出すつもりだ。1月からの半年間はコア層、それ以降は自称「にわか」層と、その時々で適した人々へ訴求する。開幕後は、国内でのパブリックビューイングの実施を考える。時差の影響が少ない日本代表戦が対象となるか。

 望月氏は説く。

「どうしても(日本には)スポーツ大会は直前にならないと盛り上がらないところがありますが、我々はもう少し手前の時期からラグビーを応援する機運を盛り上げたいです。徐々にターゲットを広げてコミュニケーションをしていくのがポイントとなります」

 ワールドカップ、日本代表への協賛金額は非公開も、前者は数十億円、後者は数千万円程度との見立ては成り立ちそう。その金額に相応しいメリットがあると、同社は踏んでいる。

 特に、ラグビーワールドカップのもたらすインパクトには大きく期待する。社内データによると、日本大会時、WWPだったハイネケンの取り扱い間口は格段に広がったという。平たく言えば、それまでハイネケンが売っていなかったようなお店にハイネケンが並ぶようになった。

 望月氏は、観戦体験の持つ力も信じる。

「ラグビーに協賛すること自体に、社内での反対はあまりない。日本大会の時の露出効果を試算し、それが十分だと事前に確認もしています。日本大会で(ハイネケンが)売れた量(のスーパードライ)がフランス大会で売れるとしたら、とんでもない量になります。何より、スタジアムでプロモーションできるのは大きいです。世界中から集まってくれた方々がスーパードライを楽しんでいただくことで、それぞれの国に帰っても飲んでいただけるというメリットも期待できます」

 ラグビーを通して自社のビールを伝え広める流れで、ラグビーに関する社会貢献活動も展開する。

 同社のコマーシャルへの出演経験のある五郎丸歩氏を講師として、全国で出張ラグビー教室を実施しているのだ。その活動で望月氏は、「心が洗われた」と話す。ある地域の教室へ行ったら、五郎丸氏に出会った子どもが感極まって泣き出したのを見た。スター選手だった五郎丸氏の訴求力はもちろん、企業の力や社会的な価値が再確認された。望月氏は目を細める。

「スポーツ振興の領域で、頑張る子を応援する視点も持ちながら、(ビジネスとの)両輪で(ラグビー振興を)やりたい気持ちを個人的に持っています」

 2027年のラグビーワールドカップは、同社が販売の重点地区と定めるオーストラリアでの開催となる。フランス大会でのレビューを経て、晴れて契約延長となるか。望月氏は慎重に言葉を選ぶが、日本ラグビー界からの有形無形の期待があるのを認識している。

「個人的には、日本のラグビーを盛り上げる活動を引き続きしていきたいとは思っています。会社組織として成果を踏まえ、来年以降のことを検討していくことになります」

 日本協会は、2050年までのラグビーワールドカップ再招致と日本代表の世界一を目標に掲げる。アサヒビールもまた、日本ラグビー界と一緒に世界的なプレゼンスを高めたいと目論む。スポーツ団体と大手企業とのWin-Winの関係が成立するか、注目されている。


向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。