「ONE TEAM」。19年W杯で史上初の8強入りを果たした日本代表のスローガンは、同年の新語流行語大賞に輝いた。空前のラグビーブームが巻き起こった一方で、まだまだ発展途上の段階。JRFUは地道に活動を続けている。

安井さん:これまで普及という言葉は若い年代の子たちにラグビーをやってもらうことがターゲットになっていたと思う。ただ、19年のW杯以降の私たちの計画の中では、未来のためにラグビーを子どもたちに広めていかなければと考える一方で、子どもから大人まで、今プレーしている人たちにラグビーを継続してもらうことも大事だと思っている。これまでは小中学生がメインだったが、今は高校生、大学生、社会人の方にもラグビーを広めていかないといけない。求められる範囲はどんどん広がっていると感じている。

 幅広い層へのアプローチが必要となる中で、JRFUは「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト」次世代リーダー育成事業を実施。高等学校に在籍しており、ラグビーの発展に関心を持つ生徒へラグビーの価値を伝えている。

安井さん:当プロジェクトはラグビーをやっている子だけではなく、ラグビーをやっていない子も対象になっている。参加者からはW杯を通じてラグビーの価値が高まったことを再認識させられたし、特に言われたのは多様性の部分。僕らは当たり前だと思っていたけれど、客席の隣同士で違う国の方々が座るなど、いろんな人と出会って交流できるといった点にラグビーの価値を感じていた。今後もJRFUが継続的に次世代育成に取り組むことで、ラグビーを知らない人たちにもラグビーの価値を知ってもらえるようになったらと思っている。

 さらに今夏には初めて「特別な配慮が必要なお子様との関わり方」に関するワークショップをオンライン上で開催。参加者は講師の花渕あゆみさん(株式会社LITALICO)から「発達障害と困難さ」や「関わり方のコツやヒント」などを学び、グループディスカッションなどで意見交換を重ねたという。

安井さん:私たちはいろんな人たちにラグビーを楽しんでほしい。それは必ずしも15人制のフルコンタクトである必要はない。例えばデフラグビー(聴覚障害者が行うラグビー)の方々とはいろいろ連携させていただいていており、指導者の方もコミュニケーションの取り方やボディーランゲージなどたくさん学ぶことがあるので、多くの人が興味を示してくださった。

 男子だけでなく、女子へのアプローチも積極的に行っている。フルコンタクトの15人制だけでなく、コンタクトなしのタグラグビーやタッチラグビーも近年は話題になっており、JRFUも注目を寄せている。

安井さん:未就学時の体験会には女子も多く参加してくれるが、いかに継続してやってもらうかがポイントだと思っている。今はいろんな選択肢があり部活動に入っていない子も増えている。来年はイングランドで女子W杯があるので、そういった機会をうまく活用しながら、まずは女子ラグビーを知ってもらいたい。コンタクトスポーツに対してはハードルが高いと感じる人もいるので、入り口としてノーコンタクトのラグビーも活用していきたい。

 ラグビー=男子の競技というイメージが強いかもしれないが、今以上に女子にもラグビーの面白さを知ってもらうことは、ラグビーの未来にとって大きなプラスになる。裾野を広げる上で欠かせない要素の1つだ。

安井さん:何らかの形でラグビーに関わってくれた女子がどこかでラグビーの魅力を、誰かに伝えてくれたらそれはうれしいこと。ラグビーをプレーはしないけど、見るのが楽しいから日本代表の試合やリーグワンを応援したいと思ってもらえることもすごくありがたい。ラグビーへのつながり方は無数にあると思うので、我々は多くのキッカケを作れるよう、これからも試行錯誤をしながら取り組んでいかないといけない。

 現在は日本代表の試合だけでなく、リーグワンにも多くのファンが来場している。23~24年シーズンは総観客動員数が過去最高となる114万2294人を記録したが、ここがゴールではない。

安井さん:日本代表が活躍するのはもちろん大事だが、例えばラグビーを見たことはないけど、笑わない男の稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は知っていますというようなこともすごく大事。稲垣選手がやっているスポーツを見てみようとなって、面白いと感じてもらえることもあるだろうし、今週はラグビーをやるけど来週は野球をやるなど一人が複数のスポーツをやるような環境も作れたらと思っている。気軽にいろんなスポーツをプレーしてもらって、常にラグビーがその選択肢に入ることが大事。まずはラグビーを広めて足固めをしていく必要があり、自治体などとも協力しながら様々なスポーツを1つの会場でできるようなイベントも計画できたらと思う。

 JRFUの土田雅人会長は2035年のW杯招致に意欲的。再び日本中がラグビー熱に包まれる可能性は十分にある。さらなる人気アップへ、長期的な視点を持ちながら歩みを進めていく。


VictorySportsNews編集部