中途半端

 新リーグは元々、2019年W杯の前に湧き起こったプロリーグ構想が発端になった。その後、プロ化を前提としないなど紆余曲折を経て準備が進められ、ようやくスタートにこぎつけた。チームの本拠地に当たる「ホストエリア」を決め、ホームアンドアウェー制を導入。これまで日本協会に属したチケット販売や試合を運営する興行権は移譲され、ホストゲームを実施するチームが自前で行うようにするなど新機軸を打ち出した。

 メディアを通じて事前にさまざまな変更点をアピールしてきたが、実際に始まってみてインパクトは薄め。少なくともサッカーのプロ化を標榜して1993年に始まったJリーグに比べると、社会的な広がりでは大きく水をあけられた。要因の一つには、リーグワンに中途半端さが垣間見えることが挙げられる。

 例えばチーム名。地元との関係性を深めるために、地域名を名称に組み込んだ。しかし、1部リーグには旧トヨタ自動車の「トヨタヴェルブリッツ」というチームがある。他のチームの基準に合わせるのならホストエリアの一つである愛知県豊田市から「豊田」なども入れるべきところだろうが、なぜか企業名を連想させるカタカナ。社名と地域名がかぶるのであれば何とか工夫を凝らし、他チームと同様にするのがベストなのではないか。これでは従来と実態はさほど変わっていない印象を与えるのも無理はない。

 また地理的な偏りがあり、名称に「東京」が入っているチームが五つもあった。1月15日にはNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(浦安)―クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)のカードが組まれ、早速〝東京ベイ・ダービー〟が実現したほどだった。2部には岩手県や広島県などで主催試合を開催するチームもあるが北海道や四国は〝空白地帯〟で全国的なうねりを引き起こしにくい状況。長く続くようだと、リーグ側が各チームと調整して打開策を練るのが得策だ。

吹いた逆風

 出ばなをくじかれる出来事も相次いだ。まずは年明け早々、当時NECグリーンロケッツ東葛(東葛)に所属していたブレイク・ファーガソンがコカインを所持したとして、警視庁に現行犯逮捕されたことが判明。チームは2日に選手契約の解除を公表した。ラグビー界では2019年にトヨタ自動車(当時)の複数の選手が麻薬取締法違反の疑いで逮捕され、世間からの風当たりが強まった。そこからほんの数年の今回、晴れやかなリーグ開幕を目前に控えての不祥事。日本協会の森重隆会長が「日本ラグビー界を代表して深くおわび申し上げる」と謝罪する事態に追い込まれた。

 新型コロナの変異株、オミクロン株の出現に見舞われ、試合中止が立て続けに発生したことも計算外だった。特に開幕戦として1月7日に予定されていた東京ベイ―埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉)の中止は痛手だった。埼玉に複数人の新型コロナ陽性者が確認されて残りの選手も濃厚接触者に認定。規定の時間までに必要な選手がそろわないことが確定した。この試合では最も高額で5万2千円のチケットを設定し、購入者には専用ラウンジでの飲食の提供などの特典を設け、リーグワンの船出を象徴する一戦だった。チケットは約2万3千枚が販売済みだっただけに経済的な損失は大きい。

 ヤマハ発動機から独立分社化した静岡ブルーレヴズ(静岡)も新型コロナ陽性者判明により複数の試合が中止。22日に組まれていた東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)とリコーブラックラムズ東京(BR東京)のカードも新型コロナの影響で取りやめとなるなど歯止めが効かない状態だ。中止の場合、現状では感染者が出たチームの勝ち点は0、相手に同5が与えられる規定を採用しており、気の毒な面もある。競技として順位への影響はもちろん、いくらスポンサーを獲得しても、収益を上げるはずのホームゲームの機会が失われることにより、財政面への打撃は避けられない。

避けたい二の舞

 1部は12チームで争われる。5月まで各16試合を行い、上位4チームがプレーオフを戦って初代王者が決まるが、各チームの主催はレギュラーシーズンで8試合しかない。加えて2023年W杯フランス大会も刻一刻と近づいてくる。

 2019年のW杯日本大会で日本が初めてベスト8に入り、列島が沸きに沸いてからはや3年が経過した。当時のデータによると、前回大会のチケット販売率は実に99・3%に達し、約184万枚を売ったチケット収入は389億円にものぼった。大会後に実施された日本代表のパレードには推定5万人が集まった。「にわかファン」と呼ばれる新規の観客層の開拓に成功したことには、将来に向けて大きな意義があった。

 3年前に及ばないまでも、2015年W杯イングランド大会でも、日本は南アフリカから大金星を挙げて〝W杯史上最大の番狂わせ〟と称された。五郎丸歩がプレースキックを蹴る際に手を合わせる独特のポーズも社会現象になり熱狂に包まれた。それでも、その後にトップリーグなどへの関心が高まり続けた現象は見られず、人気は一過性に近かった。4年に1度のW杯のたびにスタート地点に戻り、大会中にラグビーへの注目が上昇する構図が繰り返されている。

 来年に迫ったW杯フランス大会で日本は、1次リーグで強豪のイングランドやアルゼンチンと同じ組に入った。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは「大きな挑戦になる」と語っているように、過去2大会のような旋風を起こせるかは未知数。一方、リーグワンでは収益面を考慮し、試合数の増加を訴える関係者も複数いる。参加企業の総売上は80兆円にも達するというが、魅力ある試合を維持しながら各チームの収益事業を軌道に乗せることが不可欠。リーグワンが起爆剤にならないままだと、ラグビー界には過去の二の舞が待っている。


VictorySportsNews編集部