「僕は裏方」と語るシェーファー・アヴィ幸樹、日本代表のピンチに『主役』に変貌
「与えられた仕事ができて本当に良かったです」 U-19ワールドカップの第2戦、絶対に勝たなければならないマリとの試合で、チームが一つになった。 U-19代表の大黒柱である八村塁が第3クォーター残り5分で4つ目のファウルを犯してベンチに下がると、メインガードを務める重冨周希もファウルトラブルに陥った。さらには得点源の西田優大も前半で膝を打撲し、第3クォーターの途中まで治療に時間を費やすことに。 相手の身体能力の高さに大苦戦した上に、主力がコートに立てないピンチに見舞われた日本だったが、この苦境からチームを救ったのは、シェーファー・アヴィ幸樹と杉本天昇のハッスルプレー、唯一の高校生であるガードの中田嵩基といったベンチメンバーの奮闘、そして要所でビッグショットを連発した増田啓介だった。 ベンチを見れば、シェーファーがリバウンドを取るたびに、八村が手を叩いて盛り上げていた。まさしく、チーム全員でつかんだ待望のワールドカップ1勝だった。 そのマリ戦でトーステン・ロイブルヘッドコーチが「MVP」に挙げたのがシェーファー・アヴィ幸樹だ。17分31秒の出場で11得点10リバウンド。特に第3クォーター残り4分過ぎ、杉本が攻め込んだ後にオフェンスリバウンドをもぎ取り、タップシュートを2回連続で決めて逆転したシーンはマリ戦のハイライトと言えるだろう。しかも、そのうち一つはバスケット・カウント。これで日本は勢いづいた。 「塁がファウルトラブルになったけど、センターが2人しかいない状態では、いつかはこういう試合があると思っていたので、それを想定した準備をしていました。相手は身体能力が高くリバウンドがキツくなるのは分かっていたので、自分が出たらリバウンドを取ることに集中していました。与えられた仕事ができて本当に良かったです」 そう笑うシェーファーは、自分の役割を「裏方の仕事をやること」と言う。 このチームでインサイドを務めるのは八村とシェーファーしかいない。増田は4番ポジションを兼ねるが、世界に出ればアウトサイドからのシュートを放つことが多い。そんな中でシェーファーは「塁も増田も点を取るのがうまくてマークが集まってくるので、僕はその裏で2人と合わせたり、落ちたシュートのリバウンドを取る裏方の仕事に集中します」と語る。 自らを『裏方』と言うシェーファーだが、この日はロイブルヘッドコーチが『MVP』に挙げたように、まさに『主役』となる働きでチームを勝利に導いた。 バスケ歴3年で世界に進出した異色の経歴の持ち主 アメリカ人の父と日本人の母を持つシェーファーがバスケを始めたのは高校2年生からだ。 神戸の中学校にいた頃はサッカーをやっていたが、東京に引っ越してくると、入学したインターナショナルスクールのサッカー部が弱かったために1年で退部することに。「夏と冬にシーズン制でやる学校のバスケ部はそこそこ強かったので、身長もあるしバスケをやってみようかなあと思って始めました。遊びでやっていたバスケが面白かったんです」と、サッカーからバスケに転向した理由を語る。そこから彼の成長物語が始まった。 身長の高さを見込まれて『東京サムライ』というインターナショナルスクールの選抜チームに入ると、日本のU-16代表と練習試合をすることになり、そこでロイブルHCと電撃的な出会いを果たす。ロイブルHCはシェーファーの国籍や年齢をチェックし、日本代表の資格があると知ると、2mの身長があるシェーファーをU-18代表候補に呼び入れた。そうして昨年のU-18アジア選手権までたどりついたのだから、まさにシンデレラストーリーである。 もともと、英語が話せることからもアメリカの大学を希望していたが、「最初はディビジョン3くらいの大学でバスケを続けられればいいやと思っていた」と言う。だが昨年の春、U-18代表のドイツ遠征でシュバイツァートーナメントに出場して海外の選手と対戦したあたりから、自分の将来について真剣に考えるようになった。 「対戦したアメリカ選抜の選手にNCAAディビジョン1に行く選手がいて、その選手と対戦しても自分はやれる手応えがあったので、そこから真剣にディビジョン1の大学でやりたいと思い始めました」と進路変更。U-18アジア選手権に出場した後は、ディビジョン1の大学に行く意志を固め、1年間はプレップスクールのブリュースターアカデミーで準備のシーズンを送る。そしてこの秋からは、NCAAディビジョン1のジョージア工科大に進学することが決定した。 「スカラシップの枠がなく、ウォークオン(奨学金を受けることなく入学すること)でのリクルートだったのですが、奨学金がないだけで他の面はスカラシップの選手と待遇が同じと言われています。学業については十分ついていけて問題はないので、バスケットボールに集中することができます」と、この秋からの状況を語る。バスケ歴わずか3年でここまでトントン拍子で進んでいることに「僕自身が一番ビックリしているんですけど、今は経験がないので、とにかく経験を積むために、どんどん進んで行きたいと思います」と前だけを見つめている。 リバウンドでは誰にも負けないセンターを目指せ! シェーファーの良さは205cmの身長に加えて、身体の強さにある。この1年間はブリュースターアカデミーでトレーニングをした成果により、今年4月に帰国した時には、日本にいた頃より身体が一回り大きくなっていたのが目に見えて分かった。 確かに、彼のバスケットボールのキャリアは浅い。しかしロイブルHCは「ひたむきな姿勢と教えたことをすぐに吸収する賢さはU-19の選手で一番」と評価する。彼自身も「僕はバスケット経験がないのが弱点なので、とにかく人のプレーをよく見て特徴を覚えるようにしています」と言う。そうした研究熱心さは「アメリカで背の高い選手に対して練習してきたことで、ゴール下でディフェンスをかわして合わせるプレーでは存在感を出せるようになった」という手応えをつかんで帰国している。 これが、シェーファーが言う「いつか、こういう試合が来ると思った準備」なのだ。 シェーファーの持ち味であるリバウンドは、上にジャンプをするというより、両手を広げて空間を支配するような形でボールをもぎ取ることが特徴。ボールに届かなければチップにいって弾く。何度も何度もボールに絡むその姿勢は、リバウンドが命題の日本にとって絶対に必要な技術であり、それを持ち合わせていることに、今後の可能性を高く感じさせる。リバウンドに跳びつく姿勢にバスケット経験の長さなど関係ないのだ。 ピンチを救った205㎝のセンターは、これまでも日々前進してきたように、U-19ワールドカップを通じて無限の可能性を広げていく。
文・写真=小永吉陽子