ストーリーづくりにもとめられる全体最適

共感されるストーリーづくりのためには、商品の一部だけを重要視してはならず、全てを司る全体最適の視点が必要になってきます。

たとえば、いくら素晴らしい商品広告をつくっても、商品が勝手に売れ続けていくことはまずあり得ません。もちろん、面白い広告であれば話題になり、著名な広告賞を受賞することもあるかもしれません。しかし、広告賞を受賞すれば経営に資するほどの大きな売上がつくれるかというと、それは全く別の話になります。

かつて、私が経営コンサルタントをしていたときのことです。クライアント企業の商品広告が、広告賞を受賞したにも関わらず、売れ行きが伸びなかったことがありました。そんなときは、広告部が「商品がよくないから売れないんだ」と、商品開発部の仕事に文句を言っている場面を目にしたものです。また、あるときは違う商品をめぐって、商品開発部が広告部に対して「商品はいいんだが、広告がイマイチだから売れないんだ」と批判していることもありました。

責任のなすりつけ合いのような話は、今でも色んなところでよく耳にします。ただ、商品が売れない理由は、はっきり言ってしまえば両方の部署に原因があるものです。全体最適ではなく部分最適で、自身の仕事の領域を区切って全体をジブンゴトにしなくなっていることで、どこか一部に問題があるように見えているだけです。一方で全体最適を実現するためには、全てを司る“ブランドマネージャー”の役割や意識が、非常に重要になってきます。

私自身、博報堂に勤めていたとき、比較的小さなクライアントを、新規開拓から、引き続きの営業や商品企画業務、コミュニケーション戦略、クリエイティブディレクション、メディアバイイング、一連の商品開発からコミュニケーションまでのPDCAマーケティングに関わる全ての業務をこなしたことが良い経験となっています。ただ、当時はいくらいい広告をつくっても選ぶのは事業会社で、人事異動が頻繁にある企業であれば、担当者が広告のプロではないケースも多々ありました。加えて、部署ごとで言っていることが違う事態にも直面しました。

そのような状況下でも全体最適が実現するように、広告会社時代の私は、プレゼンは経営者相手に行うのが筋だと考えていました。広告会社としては、経営者が商品に対して抱いている考えを、広告を含め、商品と消費者との接点であるコミュニケーションで的確に表現するのが非常に重要になってきます。

もし、経営者の考えを正確にコミュニケーションで表現しながらも商品が売れなかった場合、その責任は企業側にあると言っていいでしょう。私自身、それならば、事業会社に行き、そして社長になることで全てを司れるはずだと考えました。

最も重要なことは、会社として全体最適を実現して売上が上がること。消費者からの評価を得ること。自社の商品、広告、コミュニケーションの全てを司り、営業から、Webサイト制作から、カスタマーサポートから人事採用まで、一気通貫でお客さんに届けたいメッセージに関わること。それらを、現場に権限移譲しながらも、上手く司り実行している企業は、実際に強い商品とコミュニケーションの企業となっていると思います。

そう考えれば、ブランドマネージャーは社長がやるのが一番手っ取り早いものなのです。

後編につづく。

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横浜DeNAベイスターズを5年で再生させた史上最年少球団社長が明かす、マネジメントの極意。史上最年少の35歳でベイスターズ社長に就任し、5年間で“常識を超える“数々の改革を断行した池田純が、スポーツビジネスの極意を明かす。
 
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【内容紹介】
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赤字24億“倒産状態”からの出発/【経営者のロジック】でアプローチする/【トライアンドエラー】を徹底する/成功の鍵はブレずに【常識を超える】こと/球団経営に必要な【人間力】

■第2章「売上」を倍増させる18のメソッド
【顧客心理】を読む/【飢餓感】を醸成する/【満員プロジェクト】で満員試合が11倍に!/グッズは【ストーリー】とセットで売る/トイレに行く時間を悩ませる【投資術】

■第3章理想の「スタジアム」をつくる
【ハマスタの買収】(友好的TOB)はなぜ前代未聞だったか/【一体経営】のメリット/行政は【敵か、味方か?】/【聖地】をつくる/【地域のアイコン】スタジアムになるための選択肢

■第4章その「投資」で何を得る?
1年間の球団経営に必要な【コスト】/【2億円で72万人】の子どもにプレゼントの意図/【査定】の実態―選手の年俸はどう決まる?/ハンコを押す?押さない?―【年俸交渉】のリアル/【戦力】を買うか、育てるか

■第5章意識の高い「組織」をつくる
意識の高さは組織に【遺伝】する/戦力のパフォーマンスを【最大化】するシステム/【人事】でチームを動かす/【1億円プレーヤーの数】とチーム成績の相関関係/【現場介入】は経営者としての責務

■第6章「スポーツの成長産業化」の未来図
【大学スポーツ】のポテンシャルと価値/【日本版NCAA】が正しく機能するために/東京五輪後の【聖地】を見据えた設計図/スポーツビジネスと【デザイン】【コミュニケーション】/【正しい夢】を見る力

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池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。