文=高崎計三

ショーグンを、わずか34秒でKOした男

©高崎計三

世界一の格闘技イベント、UFCの日本大会がSSAで開催されるのは2012年以降、これで5回目。今大会も含めたマッチメイクの傾向として言えるのは、PRIDEやDREAMで活躍した重量級外国人選手の試合がメイン、あるいはセミで組まれるということ。過去にはマーク・ハント、ヴァンダレイ・シウバ、ジョシュ・バーネット、クイントン・ランペイジ・ジャクソンらが登場して注目を集めている。12年の大会ではジャクソンが「PRIDEのテーマ」で入場し、客席から大歓声が起きたほどだった。今回もメインにショーグンが起用されているのはまさにその流れだ。

しかし、UFCが“日本ゆかりの選手”を顔見世的に考えているわけではないのは、これまでのマッチメイクからも明らか。13年の大会で長身のステファン・ストルーブを相手にマウントを奪われたり足関節を取られるピンチも迎えながら、パンチでKOしたハント、同じ大会でブライアン・スタンとの壮絶な打ち合いを制して2RKOを決めたシウバの姿を見ても、彼らが決して楽な勝利を挙げていないことが分かる。

今年のメイン、ショーグンVSサン・プルーはもっと過酷だ。両者は3年前の14年11月に対戦し、サン・プルーがわずか34秒でKO勝ちを収めている。ショーグンにとってはリベンジマッチにあたる対戦なのである。かつてPRIDEミドル級戦線で活躍し、日本でも人気の高いショーグンが3年越しのリベンジに成功すれば場内大爆発は間違いなしだが、そう簡単に事が運ぶかどうか。

会見に登場したサン・プルーは、「日本での試合ではショーグンに声援が集まるのでは?」との質問にこう答えた。

「それは分かっている。ショーグンにとって日本はホームだろう。しかし、そのためにプレッシャーを感じるのはショーグンの方ではないか? 自分にとっては、そのことは試合には影響しない」

また、一度完勝している相手との再戦についてモチベーションを問われると、「私は前回対戦した時も彼のファンだったし、次の試合の後もファンでい続けるだろう」と、リスペクトを持って対戦することを強調。UFCライトヘビー級7位で、暫定王座決定戦に出場経験もあるサン・プルーにとってはこの先を考える上でも負けられない一戦となる。果たして試合はオールドファン歓喜の結末となるのか、それとも……。

日本人選手として期待を集める井上直樹

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ヘビー級では今回も“日本ゆかりの外国人”が登場する一方、UFC日本大会での日本人選手の起用傾向には、明らかな変化が起きている。12年の大会では、やはりPRIDE~DREAMで活躍した秋山成勲、五味隆典、山本“KID”徳郁の3人が名を連ね、メディアの話題も彼らに集中した。しかし年を経るに従って若手選手の参戦が増え、日本大会をきっかけにUFC参戦を果たす選手も増えてきている。秋山、五味、KIDらは今もUFCの契約下にあるが、この中で唯一コンスタントに試合を行っていた五味が6月のシンガポール大会で一本負けを喫し、出場可能性が消滅。このまま行けば、「かつて日本のメジャー大会で活躍した選手」が一人も出ない初の大会になる可能性も高い。

チャン副社長のプレゼンテーションでも「ローカルスターの育成」が重要なテーマとして挙がっていたが、UFCは世界各地の大会で地元の有望選手を起用。良い結果を残せば継続参戦に結びつけるというスカウト方法の一つとしている。日本大会も日本やアジアの若い選手たちにとってトライアウトの場という意味合いを濃くしている。

今回の日本大会では、今のところ前述の井上直樹と佐々木憂流迦、そしてパンクラス女子王者で女子プロレスラーとしても活躍する朱里の出場が発表されている。井上と佐々木はすでにUFCデビュー済みだが、朱里はこれが待望の初出場。他にも数名の初参戦が予想される。

この日の会見で日本人選手としては唯一登壇した井上直樹は、UFCは2戦目というものの、日本でのビッグイベント出場は初めて。囲み取材で記者団の前に立つと、緊張の色を隠せなかった。

「シンガポール大会では、極められるチャンスもあったのに極めきれなかった」と反省の弁を述べる一方、「打撃でも寝技でも圧倒できたのはよかった」と自己評価も。「相手(カールス・ジョン・デ・トーマス)もUFCデビュー戦ということもあって、本格的な闘いはこれからなのかなと。日本大会に出られること、SSAという大会場で試合できることは光栄。次の日本大会でも勝って、もっと勝ち星を挙げていずれは(現UFCフライ級王者の)デメトリアス・ジョンソン選手と闘えるようになりたい」と抱負を述べた。

「井上直樹」の名前は、コアな格闘技ファン以外にはまだまだ知られていないことだろう。7歳から格闘技を始め、子供の頃から「おまえはUFCに出るんだ」と言われ続けてきたという“格闘技の申し子”。アマチュア時代には打撃系の大会でも活躍し、一昨年2月にMMAでプロデビュー。初戦から4戦連続腕ひしぎ十字固めで1R勝利を果たしたのを皮切りに国内で10戦負けなしの快進撃を見せ、今年6月UFCでも勝利。現在11連勝中という、ホープ中のホープである。

そして彼には3歳上の姉がいる。彼女は魅津希(みづき)というリングネームで、やはりプロ格闘技の世界で活躍中。立ち技とMMAの両方を股にかけて闘ってきたが、13年からアメリカの女子大会「インビクタ」に参戦し始めたこともあり、現在はMMAが中心となっている。彼女もUFC参戦を期待されている一人だ。

井上直樹、独占インタビュー「格闘技から離れたくても離れられない」

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そんなバックボーンを持つ井上に会見後、短い時間だが単独取材に応えてもらえた。

──ここまで日本でプロ10連勝、UFCでも勝利で11連勝と順風満帆です。これは予想通り?

井上 そうですね、でもUFCでは1勝しかしてないですし、次はUFC経験者と当たることになるかもしれないので、もっと練習して頑張りたいと思います。
(※この日の夜、井上の対戦相手が発表。UFC1勝1敗のジェネル・ラウザとの対戦が決定した)

──デビューから無敗ですが、負けることへの恐怖心はありますか?

井上 1試合1試合に必死で、あまり考えたことはないですね。アマチュア時代は勝ったり負けたりで連勝とかも全然なくて、プロになってからですし。

──連勝の数も意識はしてない?

井上 あまり考えないようにしています(笑)。「次、負けてもいいや」というぐらいの気持ちで。

──お姉さんも格闘家で、格闘技に囲まれた環境にいるわけですよね。

井上 お姉ちゃんがやっているのを見て始めて、いつの間にか打撃も寝技もやるように試合にも出るようになっていった感じですね。今も格闘技が生活の全てという感じですね。

──プロ格闘家の中でも、別の仕事をしながらという選手も多い中で、いい環境ですね。

井上 そうですね、この時間になったら練習というのが日課なので、ある意味、ご飯を食べたり歯を磨いたりするのと変わらない感じです(笑)。

──起床、洗面、食事、スパー、食事……みたいな(笑)。逆に、練習等でうまくいかないときにはどうしていますか?

井上 格闘技から離れたくても離れられなくなっちゃってますね。気分転換はスイーツを食べてストレスを発散したりするしかない感じで(笑)。

──お姉さんの魅津希選手も打撃、ボクシング・テクニックには以前から定評がありますが、一緒に練習していてどういう存在ですか?

井上 技術も自分より全然上だし、先に海外デビューして勝っているので、本当に尊敬してますね。敵わないです(笑)。

──でもコッソリ、「ここだけは自分が上かな……」と思っている部分があったりしませんか。

井上 うーん……いや……スキがないですね(笑)。もちろん、越えなきゃいけないとは思ってるんですけど。寝技は自分の方が先に始めたので、自分の方が勝っていてほしいなと思いますけどね(笑)。

──お姉さんもUFC参戦が期待されています。

井上 はい、兄弟揃って出るのは夢ですね。自分のUFC参戦が決まってから、そういう話も2人でするようになりました。

──今の目標は?

井上 今はホントに、次の試合に勝つことしかないですね。その先はやっぱり、UFCでチャンピオンになりたいです。UFCが世界最高峰と言われているので、そこでチャンピオンになったら他のどの大会よりも価値があるんだろうなと。今はそれしかないです。

日本ゆかりの外国人選手、そのリベンジを受けて立つ初来日選手。若さを武器に突っ走る日本人ルーキー。様々なキャリアの末にようやく憧れの舞台に辿り着いた国内王者。いずれにも言えるのは、UFCの過酷なマッチメイクを乗り越えなければ、彼らが勝利という栄誉、それに伴う歓声と称賛を手にすることはないということだ。そして今回の会見に登場したサン・プルー、井上両選手の言葉からは、その熱意と覚悟がしっかりと感じられた。近日、次々に発表されるであろう追加カードも気になるところだが、彼らの闘いを目にするためだけでも、UFC日本大会に足を運ぶ価値は十分にある。

高崎計三

著者プロフィール 高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。