文=池田敏明

“MSN”のパートナーだったメッシ、スアレスの反応

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ついに正式決定したネイマールのパリ・サンジェルマン(以下PSG)への移籍。まずは簡単に直近の経緯をおさらいしよう。8月2日、バルセロナは公式ウェブサイト上でネイマールが「クラブを去る決断をしたと表明した」ことを明らかにし、「(契約の)解除には2億2000万ユーロ(約288億円)以上が必要」であると記した。当初はバルサが放出を拒否していたため、PSGとネイマールがスペインプロリーグ機構に2億2000万ユーロの契約解除金を支払い、フリーエージェントとして移籍する形が想定されていたが、スペインプロリーグ機構のハビエル・テバス会長が契約解除金の受け取りを拒否。そこでネイマール側は3日、バルサに直接2億2000万ユーロを支払い、契約解消を成立させた上でPSGと5年契約を結ぶこととなった。

ネイマールに向けて、“MSN”のパートナーだったリオネル・メッシとルイス・スアレスはそれぞれのSNSでメッセージを送っている。メッシはインスタグラムで「我が友ネイマール、君と一緒に多くの時間を過ごすことができてとても楽しかった。君の人生の新たなステージに幸あれ。また会おう」とコメント。スアレスもインスタグラムで「友よ、君の未来に幸運を祈る。そして、僕に示してくれた愛情、君と一緒に多くを学べたこと、共に過ごしたかけがえのない時間に感謝している。これからも今までどおりの君でいてくれ」とつづっている。ちなみに、7月24日にネイマールとのツーショット写真をインスタグラムに掲載し「Se queda.(彼は残る)」と記したジェラール・ピケは、現時点で何の反応も示していない。

レアル・マドリーへ移籍したフィーゴ以上の裏切り行為?

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ネイマールがクラブから去る決断をした8月2日の時点で、バルサは早くも彼を“元所属選手”として扱い始めた。同日には本拠地カンプ・ノウの外壁を飾る広告看板の貼り換えを敢行。元々の看板にはネイマールが写っていたが、新しいものはメッシ、スアレス、アンドレス・イニエスタ、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケの5人構成となっている。また、8月7日にブラジルのシャペコエンセと対戦するジョアン・ガンペール杯の告知画像も、元々は“MSN”とイニエスタ、ピケが並ぶイメージのものだったが、ネイマールが外れてイヴァン・ラキティッチが入ったバージョンに変えられている。

バルセロニスタは当然ながらネイマールに対する拒絶反応を示している。カンプ・ノウの周辺には彼の顔写真や$マークと「裏切り者」などの文字が記された“指名手配書”が張られ、ファンがネイマールのユニフォームを燃やす動画が何本もYouTubeなどに投稿されている。

バルセロニスタにとって、今回のネイマールの移籍劇は2000年にレアル・マドリーへの“禁断の移籍”を敢行したルイス・フィーゴに匹敵するか、それを上回る裏切り行為だ。それゆえ、ツイッター上では「メッシの後継者になるはずだったのに、フィーゴの後継者になりやがった」、「我がチームにはメッシやイニエスタ、(カルラス)プジョル、(ハビエル)マスチェラーノ、スアレス、ブスケツがいる。フィーゴやネイマールは必要ない」、「カネを求めてPSGに行ったネイマールは裏切り者だ」といった内容のツイートがあふれている。「Money(金)」と「Neymar」を掛け合わせた「Moneymar」という造語も生まれたようだ。今シーズン以降、PSGが何らかの形でカンプ・ノウでバルサと試合をすることになり、そこにネイマールが出場するようなことがあれば、彼に向けられる敵意はフィーゴに匹敵するか、それを超えるものになるだろう。

また、すでに2億2000万ユーロの使い道に関心を向けているファンも多く、パウロ・ディバラ(ユヴェントス)やコウチーニョ(リバプール)、ウスマン・デンベレ(ドルトムント)、キリアン・ムバッペ(モナコ)、ジャン・ミシェル・セリ(ニース)らの名前が獲得希望候補として挙がっている。エースの一人を失った代わりに大金を手にしたバルサがここからどのように動くのか、こちらも注目である。

レアル・マドリーのファンにとっては痛快な移籍劇

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SNS上で反応しているのはバルサのファンだけではない。R・マドリーのファンは、ここぞとばかりにライバルチームを攻撃している。「(マルコ)ヴェラッティを獲りに行って、ネイマールを置いて帰って来た。だからいつも2番手なんだ」、「1カ月前、クレ(バルセロニスタ)のやつらはクリスティアーノ(ロナウド)が出ていくと言って笑っていた。今、やつらはネイマールに出ていかれて泣いている。最後に笑ったのは誰だ?」など、ツイッターにはバルサやバルセロニスタを揶揄するコメントが並んでいる。「Impossible is nothing.(不可能なことなどない)」というコメントもあったが、これはR・マドリーのユニフォームサプライヤーであるadidasのタグライン(企業スローガン)だ。それを承知の上でこの言葉を使ったのだとしたら、ともにNIKEがユニフォームサプライヤーとなっているバルサとPSG、そしてNIKEと契約しているネイマールに向けての強烈な皮肉と言えるだろう。

また、ピケが「彼は残る」というメッセージとともにアップした、ネイマールと肩を組んでいる写真は格好の“遊び道具”となっており、ネイマールの顔を消した画像や徐々に消えていくGIF画像、ピケの顔がPSGのナセル・アル・ケライフィ会長の顔に差し替えられた画像などが作られて瞬く間に拡散している。PSGの公式ツイッターアカウントは移籍成立の際、ピケの「Se queda.」のコメントをもじって「Se firma.(彼は契約する)」とツイートし、大反響を呼んでいる。

「クレはネイマールを“金の亡者”と呼んでいる。メッシは毎年のように契約を更新し、クラブへの愛情と引き換えに4000万ユーロ(約52億円)を受け取っている」、「メッシはネイマール、ズラタン(イブラヒモヴィッチ)、アレクシス・サンチェス、サミュエル・エトオ、ティエリ・アンリらを追い出した」といったコメントも見受けられた。契約解除金2億2000万ユーロ、年俸3000万ユーロ(約39億円)と金額面が大々的に伝えられたため、ネイマールが“金の亡者”のような扱いを受けているが、今回、移籍を決断した最大の理由は「バルサではどれだけ結果を出してもメッシに次ぐナンバー2」という自身の立場に対するジレンマにあったと考えられる。移籍の理由がカネではなく、彼自身の選手としてのプライドにあるのだとしたら――マドリディスタがバルサというクラブを客観的に見て残した上記のコメントは、意外と真意を突いているのかもしれない。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。