先行に先取点、理想的な展開の作新だったが

夏の栃木大会7連覇を果たし、史上7校目の甲子園連覇を目指した作新学院だったが、初戦で盛岡大附(岩手)に敗れ、甲子園を去った。

序盤は理想的な展開だった。「先攻」を取り、1回表に「先取点」を奪う、作新学院の必勝パターンだったからだ。

作新学院の戦い方には大きな特徴がある。
この7連覇中、夏の栃木大会(2011〜2017)と夏の甲子園(2011〜2016)を合わせて計62試合戦っているが、そのうち41試合で先攻を取っているのだ。春夏甲子園で見ても、2007年の小針崇宏監督就任以降、25試合中21試合で先攻。これほど先攻の確率が高いチームも珍しい。

小針監督が掲げる野球は「攻撃野球」。攻める姿勢を前面に押し出し、低迷していた名門を見事に復活させた。
「先に攻撃をして流れをつかみたいという考えから、先攻を取れるときは取るようにしている。先攻を取れれば、気持ち的にも攻めることができます」(小針監督)

昨夏の甲子園では5試合中4試合が先攻だったが、小針監督がポイントに挙げたのが初戦の尽誠学園、1回表の攻撃だった。無死一塁から、二番・山ノ井隆雅の二塁打や四番・入江大生の二塁打などで2点を先取。この2点で試合の主導権を握り、3対0で逃げ切った。
「あの2点で大会の流れにも乗っていけたように思います。もし、後攻であれば、違った展開になっていたかもしれません」

この尽誠学園戦を含めて、1回表に先取点を取った試合がじつに3度。今夏の栃木大会でも、6試合中5試合が先攻で、いずれも3回表にまで先取点を挙げている。こうして、先に主導権を握るのが小針監督の野球である。

小針監督の甲子園での勝敗を見ても、先攻14勝6敗(今夏含め)後攻3勝3敗と、勝率の差は明らかだ。

「負けたら終わり」微妙な心理に絡む先攻・後攻

念のために説明をしておくと、高校野球の「攻守」は、キャプテンによるジャンケンで決まる。「最初はグー、ジャンケン、ポン!」のリズムだ。

「『最初はグー』がポイント。人間の本能として、閉じたあとには開きやすい。だから、パーが出やすい」と何となく納得してしまう必勝法を語る監督もいれば、「練習試合のときから相手校のキャプテンが何を出したかメモしている。たいてい、公式戦でも同じものが出てきます」と話す監督もいる。

とはいえ、運の占める要素が大きい。
キャプテンがジャンケンで勝って先攻を取ることもあれば、負けたときでも、相手が後攻を取れば、先に攻めることができる。

今大会、初戦で前橋育英に敗れたが、山梨学院の吉田洸二監督も、先攻・後攻に一家言持つ監督の一人だ。
「県大会では後攻、甲子園では先攻」
吉田監督の戦略には、 高校生の心理が絡んでいる。
「県大会では『負けたらどうしよう……』と思ってしまうもの。そのときに一番怖いのがサヨナラ負け。後攻であればサヨナラ負けがない。それだけでも精神的には楽なものです」

では、甲子園で先攻を取るのはなぜか。
「甲子園はもうお祭りみたいなものですから。先攻を取って、どんどん攻めていく!」

吉田監督は前任の清峰高校(長崎)で、春夏5度の甲子園に出場した実績を持ち、2006年春には今村猛(広島)を擁して日本一に輝いている。その実績を買われて、2013年に山梨学院に招かれた。

清峰での先攻・後攻を調べてみると、春夏の甲子園17試合中じつに14試合で先攻。山梨学院では春夏4試合戦っているが、先攻が2試合。今大会の初戦は、後攻で戦ったが、先攻の前橋育英に初回に先取点を奪われ、12失点。「甲子園はお祭りみたいなもの」という吉田監督の言葉通り、先攻の前橋育英に「どんどん攻められてしまった」結果の敗退と言ったら言い過ぎだろうか。

データが物語る 先攻が甲子園の必勝法?

作新・小針監督、山梨学院・吉田監督、ともに先攻後攻にこだわりを持つ監督に率いられたチームの例を紹介した。
先攻後攻を決めるのはジャンケンだが、監督やチームが描く戦い方によって、先に攻めるか、先に守るか変わってくる。
「この高校はやたらに後攻が多いな」と思えば、そこには何らかの監督の意図があるというわけだ。こうした視点で高校野球を見ていくのも面白いだろう。

ちなみに、先攻と後攻によって勝敗はどれほど変わるのかというと、過去4年の夏の甲子園のデータでは先攻95勝、後攻97勝。ほぼ5割だ。2016年に関しては、先攻の勝利数が異常に高く、29勝19敗と勝ち越した。
「先攻を取ることによって、グラウンド整備後の6回表に攻撃から入れることができる。もう一度、ピッチャーの立ち上がりを攻める意識を持たせるようにしています」と、先攻の利点を語る監督もいる。

その観点を持ちながら、過去4年の夏の甲子園を調べてみると、1回表と6回表の両方に得点を挙げたチームは、16勝2敗と圧倒的な数字を残していた。

今大会を振り返ると、2日目までに同様のケースが4度ある。1日目は藤枝明誠がサヨナラ負け、2日目は松商学園、前橋育英、明徳義塾が勝利した。過去4年、今大会3日目までで18勝3敗。「先攻の甲子園必勝法」と書いたら、大げさだろうか?


大利実

1977年生まれ、横浜市港南区出身。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』『ホームラン』(廣済堂出版)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『高校野球 神奈川を戦う監督たち』(日刊スポーツ出版社)、『変わりゆく高校野球 新時代を勝ち抜く名将たち』(インプレス)がある。