アーリーカップから読み解く西地区、示されたのは『本命』琉球ゴールデンキングスの強さ&ライバルチームの「止める」気迫
西地区に対する『地域格差』の懸念を打ち消す大会に 今シーズンのB1を見ると、昨シーズンの『8強』のうち5チームが東地区に集中している。また今シーズンは秋田ノーザンハピネッツと仙台89ERSがB2に降格し、西宮ストークスと島根スサノオマジックが昇格したことで、B1の地区割に『西→東』の移動が起こった。シーホース三河と名古屋ダイヤモンドドルフィンズが中地区に移ったこともあり、『地域格差』『東高西低』を指摘する意見を少なからず目にした。 ただ、西の各クラブが見せた今オフの補強は、その懸念を打ち消すものだった。特に琉球ゴールデンキングスはB1の外国出身選手でもトップクラスの2名(アイラ・ブラウン、ヒルトン・アームストロング)を獲得。日本人選手も優勝した栃木ブレックスから古川孝敏、須田侑太郎を引き抜いた。また京都ハンナリーズは日本代表の永吉佑也、大阪エヴェッサは栃木の優勝に貢献した熊谷尚也を獲得した。 大河正明チェアマンは巻き返しを図る西地区への期待をこう語る。「今年は選手がずいぶん動きましたね。自分たちものし上がる、チャンピオンシップに出るという気持ちを社長さんから感じます」 開幕前のプレシーズントーナメントであるアーリーカップ関西は9月1日に開幕し、3日に3位決定戦と決勝が行われた。西の『心意気』を感じ取る絶好の機会だった。 決勝戦で滋賀レイクスターズを74-68で下したのは琉球。結果としては大方の予想通りだろう。一方で準決勝の西宮ストークス戦、決勝の滋賀戦と大詰めまで行方が分からない接戦だった。 滋賀はオマー・サムハンを脳震盪で欠くなど3選手が不在だった。加えてディオー・フィッシャーが開始早々にファウルトラブルに見舞われるなど、悪い条件が琉球より多かった。ただ、そういった中でゾーンディフェンスが機能し、前半は30-33という微差で食い下がった。 佐々ヘッドコーチが求めるのは「苦しくても勝つ」強さ 琉球の佐々宜央ヘッドコーチはハーフタイムの前後をこう振り返る。「ゾーンを引かれて(琉球の)少しリズムが狂いました。しかしオフェンスの立て直しが効いた」。琉球は後半開始から2分半ほどの間に、岸本隆一が3ポイントシュートを3本連続で成功。これが勝利への大きなブーストになった。 岸本はこう胸を張る。「ゾーンが効いているような、嫌なムードで前半を終えてしまった。自分のところで外から、連続で入ったというのも良かったと思うけれど、相手をマンツーマンに戻させて、そこから自分たちがイニシアチブを取れた」 ただ佐々ヘッドコーチは反省点も強調する。「1本目が入った後にまた単発で打ち始めたのはこのチームの課題だと思いました。どうやって点を取っているのかと言えば、その前のところでヒルトンがパスしたんです。インサイドを経由してアウトサイドに出すというのが基本中の基本。それをやっていこうというところで、入っている時はそのパターンだった」 もちろんプレシーズンなのだから課題はあって当然。むしろ課題を見つける時期でもある。また日本代表の主力でもある古川は、8月23日に右足首の手術を行い全治2カ月。アーリーカップを欠場しただけでなく、開幕には間に合わない。 佐々ヘッドコーチはこのような言い方で、結果を喜んでいた。「勝たなければいけないのかなという雰囲気が出ている中で、むしろプレッシャーを選手に押しつけて、その中でどう勝つのか。僕らはとりあえず今欲しいのは、苦しくても勝てるかというところ。『今日の試合はダメだな』と言っても勝っちゃうのが強いチームだと思います」 岸本も優勝の収穫についてこう語る。「勝って何かを成し遂げたみたいな感覚が久しぶりだったので、個人的にはすごく気分が良い。いろんなところから『今年の琉球は違う』と言われたりする。でも僕はまだ何も成し遂げていないチームだと思っていた。しっかり成功体験を積んで、それを踏まえて次に進めるのはすごくいい」 琉球が本当に強いチームとしてB1で台頭していくために、「悪い内容で勝つ」という成功体験はおそらく重要なものだった。 西地区の活気はBリーグ全体にとっても良い刺激に 滋賀は昨シーズンの西地区最下位チームだが、今大会では準優勝を成し遂げた。インサイドの軸であるサムハンを欠く中で、琉球に迫る戦いを見せた。また結果と別にオールコートの激しい守備、速攻というスタイルは表現できていた。 ショーン・デニス新ヘッドコーチは満足顔だった。「あと1本で同点というところまで戦えたことをコーチとして誇りに思っている。どんな状況下であっても戦い続けるチームであるということを、他チームや、ファンの方々にも印象付けられた試合だったと思う」 昇格組の西宮は琉球と65-74という好勝負を演じ、3位決定戦では大阪を85-77と下した。天日謙作コーチが口にするチームの目標は勝ち越しでシーズンを終えること。「全然歯が立たないと思っている人がいるみたいだけど、そうじゃない」というコメントも、この大会の戦いを見れば納得できた。 大阪も根来新之助が準決勝で右目の上部を陥没骨折するなど、複数の主力が負傷欠場し、4位にとどまった。ただポテンシャル的には琉球とともに西地区の優勝候補だろう。 桶谷大ヘッドコーチはこう話す。「今はみんな『琉球だ』と思っているんですけど、そこよりも上に自分たちが突き抜けたい。だからこそ個人に頼るのでなくチームで常に攻め続けるとか、チームでディフェンスすることをやらなければいけない。この大会で体はほとんどできていなかったけれど、時間をかけてやれるようになる」 『琉球強し』という前評判を裏付ける結果になったが、内容を見ればそこまで圧倒的なものではなかった。一方で「悪い内容で勝つ」「プレッシャーを受け止めて勝つ」ということは、彼らが開幕を迎えるにあたって価値のあるプロセスだったはずだ。 この大会の結果だけで西地区と他地区の力関係を計ることはもちろんできない。ただ企業クラブのいない、今までは東側の引き立て役だった西地区から反攻の機運を感じることは間違いのない事実。琉球、西地区の活気はBリーグ全体にとっても良い刺激になるはずだ。
文=大島和人 写真=B.LEAGUE