■「正統派」の候補は不作との評もあるが…

10月26日のプロ野球ドラフト会議では、育成枠を含めて114人の選手が指名を受けた。今回のドラフトは清宮幸太郎(早稲田実業高・日本ハム1位)のような目玉選手がいる一方で、全体的に不作と言われている。確かに欠点が少ない、早くから一軍の戦力となるような「正統派」のドラフト候補は乏しいのかもしれない。

一方で完成度は低くても、凄い部分はとにかく凄いという「ロマン枠」なら例年にない大豊作。今年のドラフトで指名された中から、ロマン枠と呼ぶに相応しい、豪快で、夢のある選手たちを紹介していきたい。

まず、この話題で外せないのは鈴木博志投手(ヤマハ・中日1位)だろう。2017年のドラフトにおける文句なしの速球王だ。彼はここ数年のアマ球界でも最速級。新日鉄住金REXの補強選手として出場した今夏の都市対抗では、2回戦(vs Honda)の7回に救援登板すると、初球から155キロを記録。東京ドームの観客を大きく沸かせた。

鈴木が投げるときはついつい一球毎に、スピードガンに注目してしまう。以前の彼は球速を生かしたリリーフ登板が多かった。しかし最近は変化球の切れも増し、完投を記録するなど成長も見せている。高卒3年目と若く、大きな伸びしろも期待できるはず。鈴木はこれから先、どのような投手になっていくのか楽しみが尽きない「剛腕」だ。

■吉住の1位指名は「サプライズ」だが理由あり

2017年のドラフトにおける最大のサプライズは、吉住晴斗投手(鶴岡東高・ソフトバンク1位)の1位指名だろう。荒削りな部分もあり、この評価は予想外だった。ただ、多少の欠点があっても長所を最大限に評価する選択はソフトバンクならではの姿勢。185センチの長身から投げ込むボールには角度があり、しなりがきいた腕の振りも魅力的だ。また最速150キロを記録するストレートの威力は、現高3の中でもナンバー1と言い得る。

変化球はドロップ気味に変化する独特のスライダーが面白い。現状ではまだ安定感がなく、素晴らしいボールは数球に1球で、持ち味のスライダーも上手く使えているとは言い難い。しかしコンスタントに指にかかったボールが投げられるようになれば話は別。ポテンシャルという意味では、間違いなく今ドラフトでも屈指の好素材だ。

大学生にもスケールの大きい素材は多かった。その中でも底知れないポテンシャルを感じさせるのが、ケムナ・ブラッド・誠投手(日本文理大・広島3位)だ。アメリカ人の父を持ち、ハワイ生まれの彼は高校まで完全に無名の存在だった。それが大学入学後に身長も球速も伸びて現在は192センチで、速球も最速151キロを記録するまでになっている。しかも速いだけでなく、ホームベースの上でひとノビしてくる球質が素晴らしい。

6月の大学野球選手権では全国デビューを果たしつつ、3回途中の降板と期待に応えられず、チームも敗退した。ただ、そこから評価を上げたようで、今秋の福岡六大学野球を観戦した際には、周囲のスカウト陣が揃って「最近、ケムナが凄い」と口にしていた。(※編注:日本文理大が所属するのは福岡六大学でなく九州地区大学野球連盟)。聞くと150キロ台を連発し、これまであまり使ってこなかったカーブも抜群の威力を見せているという。投手経験が浅く、全国大会の実績も乏しいが、魅惑の素材が開花する日はそう遠くないのかもしれない。

■スラッガーは清宮や中村、岩見以外にも

野手を見ると、今ドラフトはスラッガーが近年になく充実していた。高校通算本塁打記録を塗り替えた清宮、夏の甲子園の新記録を作った中村奨成(広陵・広島1位)、さらには東京六大学野球の通算本塁打記録にあと2本と迫った岩見雅紀(慶応大・楽天2位)など、それぞれのカテゴリーで歴史に名を残した選手が何人もいる。「ロマン枠」の人材としては関西を拠点に活動する独立リーグ、BFLの本塁打王・田中耀飛(兵庫ブルーサンダース・楽天5位)に注目したい。

今シーズンの打撃成績は、はっきり言って異次元だ。わずか32試合、109打数で15本もの本塁打を放っただけでなく、巨人三軍、楽天二軍などNPBとの交流戦でも本塁打を連発。「高いレベルの投手相手なら打てないのでは?」という懸念も一掃した。その特徴は日本人選手として他に例がないのではないかと思うほどの大きなフォロースルー。岩見が慶応のエルドレッドならこの田中は兵庫のバレンティンと言っていい。

豪快さでは村上海斗(奈良学園大・巨人7位)も 負けていない。16年6月の全国大学野球選手権(準々決勝vs関西国際大)で彼が放った、体勢を崩されながらも、桁違いのパワーで逆方向にスタンドインさせてしまった一撃には言葉を失った。加えて190センチ近い長身にもかかわらず、プロでも売りにできるレベルの俊足と強肩を兼ね備えており、守備でも魅せることができる。彼が出場する試合を観戦に行くときは、シートノックからその迫力を堪能して欲しい。打撃の確実性、特に変化球の対応には課題もあるが、それを克服できれば右版の柳田悠岐になれる素材だ。

ここで紹介した5人は必ずしも「大成する確率が高い」選手ではないのかもしれない。しかし間違いなく豪快で、見ていて楽しい選手たちだ。だからこそ多少の粗があっても、温かい目で見ることができる。

実は今季のプロ野球で大ブレークを果たした薮田和樹(広島)や山川穂高(西武)も、入団時はロマン枠の位置づけだった。圧倒的な素材がプロの指導とかみ合ったとき、とてつもない選手が誕生する。紹介した中からそんな存在が出てくることに期待するとともに、彼らが入団したチームのファンに愛される選手となることを願ってやまない。

■著者プロフィール:
ファームゲームイーター
1982年生まれ。富山県出身。土日に野球観戦の予定を入れることで、平日の仕事のモチベーションを保っているサラリーマン。情報の少ないプロ野球の二軍戦や、地方の野球観戦に赴き、思わぬ隠し玉と出会う瞬間を至上の楽しみとしていた。現在は大学野球や独立リーグを中心に、気になる試合があれば南は沖縄から北は北海道まで飛び回っている。野球観戦のための年間移動距離は、国内だけで地球1周の4万キロ超。


VictorySportsNews編集部