「横浜奪首」をスローガンに掲げて臨んだ今季のベイスターズ。「(昨季は)リーグ3位だった。目標は一つなので、そこをしっかりと受け止めて、全員で一体感を持って戦っていく」。27年ぶりのリーグVへ、そう意気込んで開幕戦に臨んだ三浦監督だが、ゴールデンウィークから復調気配を見せているとはいえ、34試合で16勝16敗2分け(5月12日時点、以下同)と、まだ何とか借金を返済したという位置にとどまっている。
最大の要因は、攻撃陣の「誤算」だ。オープン戦で1番打者の候補だった桑原将志が死球を受けて右手親指を骨折。日本シリーズで5試合連続打点を挙げるなどして最優秀選手(MVP)に輝き、日本一に大きく貢献したリードオフマンの離脱は、その明るいキャラクターによる牽引力としての役割も含めて、チームに大きな影響を与えた。
開幕後は昨季ブレークの兆しを見せた梶原昂希を代わる1番打者として開幕から20試合連続で固定したが、打率.229、1本塁打、6打点と低迷し、5月5日に出場選手登録を抹消された。開幕から34試合のチームとしての1番打者の成績は出塁率.276。主に投手が入る9番を除くと、打順別で7番(.242)、8番(.236)に次ぐチーム内ワースト3位の数字となっている。球団別で見ると首位阪神の.352、2位巨人の.309と大きな開きがあり、中日の.344、広島の.306に次ぐリーグ5位(ワーストは最下位ヤクルトの.268)。先頭打者の出塁率が低ければ、当然得点力は上がらず、チーム総得点はリーグ4位の103得点にとどまる。
さらに、相次ぐ主力選手の不振と離脱が追い打ちをかけた。開幕から4番を務めていたタイラー・オースティンは下半身のコンディション不良で4月6日に登録抹消。その後、打線の軸となる4番には宮﨑敏郎、筒香嘉智、佐野恵太が入り、最終的に牧秀悟が埋める形となるなど固定できない期間が続いた。
オースティンに代わる存在として活躍が期待された筒香は打率.115、1本塁打で5月1日に2軍へ、打率.230と苦しんでいた宮﨑も同2日から2軍での再調整となった。佐野も5月11日の広島戦(横浜)で3安打と復調気配を見せるものの、ここまでは打率.243、本塁打ゼロと苦しんでいる。
ベイスターズの武器といえば、やはり強力な打線。実際に、昨季は522得点、チーム打率.256がリーグトップ、101本塁打は同2位と、攻撃力が上位進出の大きな後押しとなった。しかし、今季はここまでチーム打率がリーグ5位、12球団中10位の.221、本塁打は比較的フィールドが狭い横浜スタジアムを本拠地としながら巨人(27)、阪神(21)の半分以下で、中日と並ぶ両リーグワーストの11本と寂しい数字が並ぶ。
その原因は、先述した通りベストメンバーがそろわないことにある。日本一に輝いた昨季の日本シリーズ第6戦のスタメンで見ると1番・桑原、2番・梶原、4番・オースティン、5番・筒香、6番・宮﨑に、攻守で精彩を欠いた8番・森敬斗と、実に6選手が4月までに離脱や2軍行きとなるまさに異常事態。現状の打撃低迷は無理もない結果といえる。
攻撃面だけでなく、投手の運用でも「誤算」が続いた。推定年俸9億円の大型契約で2年ぶりに復帰したトレバー・バウアーが、開幕から3連敗。守護神・森原康平投手は右肩の状態不良で開幕2軍スタートとなり、1軍復帰後も4月24日の阪神戦(横浜)で1回3失点と崩れて敗戦投手となり、5月10日の広島戦(横浜)で2敗目を喫すると翌11日に再び登録を外れた。ローワン・ウィックも状態が上がらず開幕2軍。実績十分の山﨑康晃も10試合に登板して防御率4.00と不安定。救援防御率は5月に入ってからの奮闘で改善されてきているとはいえ2.98とヤクルト(3.54)に次ぐリーグワースト2位(トップは阪神の1.59)。特に3、4月はゲーム終盤の安定感を欠く試合が続いた。
逆に、それでも首位の阪神に3ゲーム差、2位の巨人に1.5ゲーム差しか開いておらず、十分に優勝戦線に踏みとどまっているともいえる。そして、先述したようにゴールデンウィーク期間を境に、歯車がかみ合い始めているのも事実だ。
確かに打線は5月に入っても9試合中7試合で3得点以下と、まだまだ物足りない状況が続いている。ただ、オースティンが5月5日から復帰し、いきなり3四球を選ぶと、同11日の試合で2安打2打点をマークするなど、不動の4番として相手投手の脅威となり、牧や佐野に上昇ムードをもたらしている。同5日には桑原も復帰し、1番打者として6試合で打率.304(23打数7安打)と、課題だったリードオフマンの役割を見事に果たしている。宮﨑が不在の三塁にはソフトバンクからトレードで加入した三森大貴内野手が定着し、中日・上林、阪神・近本に並ぶリーグトップの7盗塁を記録。宮﨑とはまた異なる機動力という持ち味を発揮している。
ここにきて救援陣も安定感を取り戻しつつある。まず4月8日に1軍に昇格したウィックが、9試合登板で防御率0.90。最近7試合連続で無失点を貫いており、勝ちパターンの一角として計算が立つ状況となった。
そして、特筆すべきは入江大生投手の“覚醒”だ。14試合に登板して、ここまで1失点のみで防御率0.64。抑えに定着し、ここ7試合で1勝6セーブを記録している。しかも、その内容が圧倒的。5月6日の中日戦(バンテリンドーム)では全6球ストレートで三者凡退斬り。その前日にはプロ入り最速の159キロを計測するなど、もはや相手打者にとって手が付けられないほどの躍動を見せている。昨年5月に右肩の手術を受け、昨季の登板はゼロ。昨季戦力となれなかった右腕の復活、飛躍はチームにとって、大きな“補強”だ。
また、救援陣の苦境が続いた中で起用された新戦力も台頭。滋賀学園高から育成ドラフト1位で入団しプロ7年目を迎えた宮城滝太投手は10試合で失点ゼロと安定しており、接戦で起用される場面が増えてくるなど首脳陣の信頼を得つつある。
編成トップを務める萩原龍大チーム統括本部長の躊躇のない補強哲学が緊急時に効果を発揮している。不動のレギュラーがいるポジションでも、必要な選手と考えれば獲得を目指す。昨季もオースティンや佐野がいる中、一塁が主戦場でポジションがかぶるマイク・フォードを獲得し、日本シリーズで打率.333(6打数2安打)と存在感を示すなどチームの一助となった。濵口遥大投手とのトレードで三森を獲得した際には、ファンの間でも賛否両論あったが、宮﨑の不振をカバーする貴重な戦力となっている。レギュラーがどれだけ豪華でも、けがや不調などで計算通りにいかないのが、トップオブトップが集まるプロ野球の世界。厚みを増した選手層が、今後への期待値を押し上げる。
バウアーの復調も目覚ましい。2年前のNPB初挑戦時にも初戦で勝利した後、6回7失点、2回7失点と連続して炎上したところから急上昇を果たしたように、今回も中4日で登板した4月27日の広島戦(横浜)で8回2安打1失点と好投して復帰後初勝利を飾ると、再び中4日で登板した5月3日の巨人戦(横浜)で日本初完封。高めに浮きがちだった制球を整え、クイックを織り交ぜるなど相手のタイミングを外す投球術も板についてきており、ここからの大活躍を予感させる姿を披露している。ジャクソン、ケイは昨季の経験を経て、ともに3勝を挙げるなど、より日本野球にアジャスト。4勝のエース・東克樹を含む先発4本柱はリーグ屈指だ。
誤算続きだった序盤戦で何とか粘ったベイスターズだけに、ここから不振だった選手の復調が見られれば、チームとして大きなジャンプアップが期待できる。チーム全体の得点圏打率はリーグトップの.262。三森(.429)、佐野(.400)、牧(.385)と勝負強い打者を擁するだけに、波に乗れば一気に活気を取り戻す可能性は十分。それだけの戦力的なポテンシャルが、今季のチームにはある。
ただ、最後に気になる点を一つ。それは、極端に苦手とする先発投手が複数いることだ。巨人・山崎伊織には2試合、15イニングで1点も奪えず2勝を献上。中日・松葉貴大にも2試合で2敗し13回1/3で無得点。広島・森下暢仁とは3試合で1勝1敗ながら防御率1.17と抑えられている。共通するのは左投手ということ。相手の先発が左腕の試合は、開幕から5勝10敗1分け(対右腕は11勝6敗1分け)と大きく負け越している。持ち前のデータ分析力などを駆使し、こうした状況を打破することが、頂点へ不可欠な要素となるのは間違いない。
横浜DeNAベイスターズ、苦闘の序盤戦を徹底分析 リーグ優勝への希望と課題とは
プロ野球は開幕から1カ月半ほどが過ぎ、30試合超を消化して各チームの状況や勢力図が鮮明になってきた。その中で、下馬評通りのスタートとはいかなかったのが昨季、セ・リーグ3位から下克上を果たし、26年ぶりの日本一に輝いた横浜DeNAベイスターズだ。今季は優勝候補に挙げる評論家らも多かったが、3、4月を終えたところで10勝13敗2分け、勝率.435でセ・リーグ5位と、やや苦しい序盤戦となった。ベイスターズは、なぜ好発進できなかったのか。チームの現状をデータなどから分析し、今後を占う。

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