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パイオニアがアジア王者になり爆買いに火をつけた

 ブラジル代表のFWフッキ(30歳)、MFラミレス(29歳)、MFアレックス・ティシェイラ(27歳)、MFオスカル(26歳)、ポルトガル代表のDFリカルド・カルバーリョ(38歳)、イタリア代表FWグラッツィアーノ・ペッレ(31歳)、アルゼンチン代表FWカルロス・テベス(33歳)、FWエセキエル・ラベッシ(31歳)、ナイジェリア代表FWオバフェミン・マルティンス(32歳)、MFジョン・オビ・ミケル(29歳)、コートジボワール代表FWジェルビーニョ(29歳)………。現在、中国スーパーリーグに所属している世界的なサッカー選手の名を挙げていくと、キリがない。

 2017年に入り、チェルシー(イングランド)から上海上港に移籍したオスカルの移籍金6000万ユーロ(約86億円)で、選手自身には年俸2400万ユーロ(約30億円)が支払われるという。さらに、ボカ・ジュニオルス(アルゼンチン)から上海申花へ移籍したカルロス・テベスに至っては、年俸3800万ユーロ(約46億円)を受け取るという。両者の年俸は、世界のトップを極めているレアル・マドリードのFWクリスティアーノ・ロナウド(32歳)、バルセロナのFWリオネル・メッシ(29歳)をも上回っている。

 なぜ中国のクラブは、これほどの大金を支払っているのか。この問いかけに答えるうえで、語り落とせないクラブがある。広州恒大だ。

 2010年に八百長が発覚して2部リーグに降格した広州恒大は、不動産企業である広州恒大地産集団に買い取られる。広州恒大地産集団は莫大な資金力を活かして戦力補強を行い、広州恒大は2部リーグを制覇してスーパーリーグ(=1部リーグ)復帰を果たした。スーパーリーグに昇格してからも補強を続けたチームは、昇格1年目でリーグ初制覇を成し遂げて、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権も獲得。翌シーズン、ACLを戦っている最中にもクラブは補強を続け、ドルトムントからパラグアイ代表FWルーカス・バリオス(32歳)をチームに加え、さらにイタリア代表を率いて世界王者となったマルチェロ・リッピ監督(68歳)を招聘した。そして2011年に中国の2部リーグを戦っていた広州恒大は、13年にはACL初優勝、その2年後にも再びアジアの頂点に立ったのだ。

 広州恒大の成功を見た他クラブも、こぞって戦力補強をした結果、中国には最初に記したように、数多くのビッグネームが集結した。こうして中国スーパーリーグは、アジアのみならず、世界からも注目を集めるようになったが、その一方で問題もあった。有力外国人選手に出場機会を奪われた中国人選手の育成が進まないのだ。2月15日現在、中国代表のFIFAランクは86位で、アジアサッカー連盟内では9位となっている。

次は育成のパイオニアになれるのか

 この状況に危機感を感じた中国サッカー協会(CFA)は、2017シーズンの開幕を前に、外国人枠を減らすことを発表した。これまでは外国人枠「4」+アジア人枠「1」で行われていたが、2017シーズンは外国人枠「3」+アジア人枠「1」に。そして、各チームは23歳以下の中国人選手を2名保有し、そのうち1名をスタメン起用しなければならないという。

 今回の規約変更を受けて、即座に動いたのが広州恒大だった。現在、コロンビア代表FWジャクソン・マルティネス、ブラジル人FWリカルド・グラール、MFアラン、MFパウリーニョ、DFキム・ヨングォンと、5人の外国籍選手が在籍している広州恒大は、2020年までに所属選手を中国人選手だけで固めると発表したのだ。広州恒大の許家印オーナーは、新シーズン開幕に向けたイベントの席上で「世界最高の指揮官の下、全員を国内出身選手で固めることがクラブの理想形になる。私たちの目的は、中国サッカーの発展。すべてをそこに向けて進めるべきだ」と、発言したという。

 中国スーパーリーグ6連覇を果たしているクラブにとって、今回のCFAの動きは歓迎すべきものかもしれない。有力外国籍選手を獲得してきたチームは、同時に世界最高ともいえる育成機関をつくってきた。彼らの経営している恒大足球学校には、50面のサッカーコートをはじめとする圧倒的な設備あり、約2800人の生徒がいるという。そして業務提携を結んでいるレアル・マドリードのコーチが指導をしている。スカウト網も中国全土に広がっており、逸材が世界屈指の育成機関に集まってくるため、CFAが全クラブ同時に国内選手の強化を求めるのであれば、一歩抜き出せる公算は高いからだ。

 とはいえ、いきなり中国人選手のレベルが極端に向上するとは考えにくく、外国人枠の減少は、中国スーパーリーグの人気低下にもつながる可能性がある。そのとき、頼りになるのは中国代表の成績だ。経済成長に陰りが見える中、大きく舵を切ろうとしている中国サッカー界。彼らが、クラブシーンだけではなく、代表でも、アジアを席捲する日は来るだろうか。




【広州恒大】中華人民共和国の広東省広州市を本拠地とする1954年に創設されたプロサッカークラブ。2010年には八百長が発覚し、2010-11シーズンは2部リーグでシーズンをスタートさせる。同年、広州恒大地産集団がクラブを買収すると、巨額の資金を投じて、世界トップレベルの監督、選手を次々と獲得。2013年、2015年にAFCチャンピオンズリーグを制覇。2016年も中国スーパーカップ制覇、中国スーパーリーグ6連覇、中国FA杯制覇の国内3冠を達成している。


VictorySportsNews編集部