構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

一番の変化はオレのときにいなかった選手が活躍したことだ(笑)

──今年のDeNAは悲願だったAクラス入りを果たしました。昨年までチームで指揮を執っていた中畑さんが、外から見ていて大きく変わった点はどこにあったのでしょう。

中畑 一番は……オレがいたときにいなかった選手が入団してきて活躍したことだ。

──そこですか!?

中畑 だってさあ、それがバッテリーであれば事は大きいよ(笑)。ピッチャーは今永(昇太)、キャッチャーは戸柱(恭孝)。このふたりがシーズン序盤から定着したことで、昨年よりもレベルアップした野球ができていた。今永は勝てない時期があったけど、戸柱とのバッテリーで、開幕してからコンスタントに6~7回を抑えるピッチングを続けていたからな。

──新人とは思えないくらい堂々たる立ち振舞いでしたよね。

中畑 いや、それどころか、もうDeNAのエースだよ。

──今永の魅力をひとことで言うとなんでしょうか?

中畑 やっぱり、真っすぐで空振りがとれるところだよな。打者が来るのがわかっていながら振っても空を切るというのは、見ていて凄く気持ちがいい。それと“眼力”な!

──“めぢから”ですか?

中畑 そう! 投げるときの目がね、鋭いよ。アイツ、シーズンオフになったら、きっと相手チームのバッターたちからイジメられるだろうな。

──ええ!? なぜですか?

中畑 「お前、ガンつけてんのか?」って突っ込まれる。もちろん、冗談でだけどさ。ただ、そのくらい闘争心を出して投げることも、相手打者には大きな武器になっているよ。

井納は貯金を作れ! 三嶋は安定感がほしい

──先発投手のなかでは、井納(翔一)もシーズンを通してほぼ投げきりました。

中畑 ダメだ。アイツは“い井納(いいのう)”ではなくて“よくな井納(良くないのう)”だ!(笑) 簡単にゲームをあきらめかけるときがあったな。だから、一度状態が悪くなると歯止めがきかなくなる。もっともっと大人にならないといけない。

──山口(俊)が離脱してからは、右のエースという位置づけのようでしたが。

中畑 いや、エースと呼ばれる投手になるには、調子の悪いときでもどうにか工夫して試合を作らないと。井納は好調であれば結果はいいが、調子が悪いと結果もとことん悪い。だから、一昨年(2014年)だけは11勝9敗だったけど、去年(2015年)は5勝8敗で今年は7勝11敗。結局のところ、現段階では10勝10敗レベルのピッチャーなんだよ。多くの貯金を作らないとチームの信頼は得られない。来年はもっと工夫する姿を見たいな。

──中畑さんが監督時代に期待をかけたピッチャーとしては、三嶋(一輝)もいます。

中畑 1年目(2013年)のあの真っすぐは良かったなあ。特に、新潟での巨人戦で先発したときなんか完璧だった。気持ち良かったよ。

──5月12日の登板ですね。8回を無失点で抑え、1対0でDeNAが勝ちました。

中畑 あのときのボールは他の投手にないものがあった。バネの固まりのようなフォームでな。でも、三嶋はボディーバランスがいまひとつ。足の着地が早かったり遅かったりしてタイミングが少しズレると、球がバラついてしまうんだ。そこをもう少し安定させて、体の芯のコントロールが身につけば、さらにいいピッチャーになると思うよ。

野手の収穫はショート倉本がレギュラーに定着したこと

──攻撃陣で成長したと思えるイチオシの選手はいますか?

中畑 そりゃなんと言っても倉本(寿彦)だろう。ただし、オレはシーズン途中に「倉本がシーズン終了まで打率3割を維持したら、坊主頭にしてもいい」と言っていたけどな。

──最終的な打率は.294でシーズンを終えました。中畑さんの坊主頭は回避されたわけですが、健闘したと思います。今季、良くなった要因はどこにあったと見ていますか。

中畑 アマチュア時代から昨年まで抱いていた一発のイメージを捨てたことが大きかった。内野の間を抜くヒット狙いに変えたんだ。そのスタイルにスパッと気持ちを切り替えられたのは、アイツ自身の勇気だよ。

──昨シーズン、中畑さんから直接アドバイスしたことはあったのですか?

中畑 入った当初は一本足打法にこだわっていて、しかし、結果がなかなか出ずに苦労していた。一生懸命やっていたけど、オレはそれでは無理だと思ったから、「お前の体力とか下半身の力を考えたら、アベレージヒッターになった方がいいんじゃないか?」と言い続けた。でも、バットマンとしては“一発”を打つことは大きな魅力だから、離れきれなかったんだよ。そのため、昨年は中途半端な気持ちで打席に入っていた。

──なるほど。

中畑 それが、今年は長打に対する憧れをすべて吹き払って、ヒット狙いのスタイルにしていた。その意志が打席に出ていたよ。ギリギリまでボールを引きつけるようになって、選球眼も良くなったし、粘れるようになったからな。8月の中旬頃からは「打率3三割」という目先の欲がちらついて集中できず、ボール球に手を出すようになってしまって数字が落ちていったけど、それは誰もが必ず通る“壁”さ。でも、いい経験になっただろう。

──最終的には157本の安打を記録しました。

中畑 シーズンを通して頑張ったから、「終わりよければすべてよし」で3割を達成してほしかったけどな。でも、.270くらいまでズルズル落ちる選手もいる。.294なら十分だよ。

──クライマックスシリーズ(以降CS)も経験できますし、今年はいい年になりますね。

中畑 選手としてのハクもつくよ。1年間フルにショートというポジションをこなしてCSに出れば、来年以降、安心して見られる選手のひとりになる。そして、来年も今年と同じく、.290くらい打てば、評価もさらに上がるだろう。

──最近は2年連続で活躍すると、年俸が1億円に到達する可能性も出てきます。

中畑 いまはあっという間に1億円だからな。オレなんて、打率.294、31本塁打、83打点という成績(1984年)で、800万円ちょっとしかアップしなかったんだぞ!

──ええ? それは非情に厳しいですね。当時、仁美夫人はどのような反応でしたか?

中畑 「あんたバカね。おほほほ」って笑われた(笑)。

──話を戻しますが、倉本の成長はチームにとっても3位躍進の原動力になりましたね。

中畑 もちろん。守りも含めて大きく貢献しているよ。ショートというポジションは簡単には育たないから難しい。打って守れるレギュラーを作れたということは大変な成果だよ。今年のDeNAは、倉本と外野の桑原(将志)が定着したことで、センターラインが固まった。このこととチームが強くなったことは、間違いなく関係しているよ。

──あとはセカンドですね。今年は外国人選手のエリアンが入ることが多かったです。

中畑 石川(雄洋)の立場が厳しくなってきたな。相当頑張らないとレギュラーから遠のく一方になる。正念場であることを自覚しているといいんだけどな。

控えに甘んじた白崎は厳しく突き放す

──中畑さんが監督の頃は、ショートにドラフト1位(2012年)の白崎浩之を起用することもありました。

中畑 しらさき? アイツはまだまだだ!

──同じ駒澤大学出身の後輩ですが、意外に手厳しいですね。

中畑 オレは身内には厳しいよ。白崎はいまのように、時々試合に出て打率2割ちょっと、ホームラン5~6本程度の成績で喜んでいるようではどうしようもない。お金のとれる選手になるには、目標レベルをもっと高いところへ持っていかなきゃ。アイツはそういうところがないから、大事なところで結果をだせなかったり故障したりするんだ。まだまだ、考え方が弱い。オレは監督のとき、あえて突っぱねるようにしていたよ。

──そして、這い上がってくるのを待つ?

中畑 そういうこと。白崎だけではなく、筒香(嘉智)にしても、1年目は同じようにした。筒香は「そこにいたんじゃダメなんだ」と本人が気づいて変わったけど、白崎はまだ努力しているようには見えない。ちょっと身体の状態がおかしくなってくると、「疲れがピークです」とか言い出す。そうなれば、コーチもトレーナーも出場を止める。それに甘んじてファームに落ちてしまうようでは、いざというときに力を発揮できないよ。嫌なことから逃れようとせず、真正面から挑んで乗り越えたときに、初めて結果につながるんだから。

──しかし、成長してくれなくては困る選手でもあります。

中畑 もちろん、そうだよ。本人も厳しいことばかり言われると思っているだろうが、それは愛情の裏返しだからな。

「我がチーム」DeNAにCSでの躍進を期待してるぜ!

──さて、DeNAはセ・リーグ3位でペナントレースを終えました。昨年までチームの指揮を執っていた中畑さんにとっても、ひとつの成果になったのではないでしょうか。

中畑 うん。オレがやってきたことは間違っていなかったということだし、チームづくりの方針としてもいい方向に導くことができたと思う。その点については、自分で自分を褒められるだけの結果だった。

──CSでは、こちらも古巣である巨人と対戦します。

中畑 でも、DeNAに優勝してほしいという気持ちが強いよ。(解説者などの)営業的には巨人なんだけど(笑)。今年は一番試合を見ているし、やはりまだ自分のチームみたいなところはまだあるよ。なんだろう……家族というかさ。

──ズバリ、勝ち上がれますか?

中畑 いやいや、まだ、本当の強さはないから。ただ、勝てる要素は多分に持っている。それはどこにあるかというと、先発投手陣が揃っているところ。特に左投手がいるから、たとえば、巨人に勝って広島と対戦するようであれば、石田、今永に、さらに砂田(毅樹)を抜擢して先発3枚を左で行くというバリエーションもできる。面白くなるよ。

──リリーフでは、セットアッパー・須田(幸太)の故障離脱が心配です。

中畑 でも、山﨑(康晃)が復調してきているからな。特に真っすぐが戻ってきているから、それとスライダーだけあればいいんだよ。2シームは三振を奪うイメージから見せ球に変えればいい。そうすれば、また、違うスタイルのピッチャーになる。やはり真っすぐあっての変化球だから。本人にそうアドバイスするよ。

──あとは、チームに流れを呼び込んで、どう勢いをつけるかですね。

中畑 3位確定後も2位を目指して緩めなかったから、いい形でフィニッシュした。あとはそのまま勢いに乗れるかどうかだろう。ぜひ、ベストの状態でCSに挑んでほしい。オレも応援しているぞ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ