構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹
今年は広島の躍進につきる!
──今回は改めて、今シーズンのプロ野球を振り返ろうと思います。
中畑 セ・リーグに関しては広島につきるだろう! はっきりと見えたのは、新井(貴浩)の2000本安打というメモリアルにチームがうまく乗っかってできた“勢い”だよな。そして、新井自身もその流れのど真ん中にい続けた。いいところで打ち続けたよ。
──まさか、セ・リーグのMVPを獲ることになるとは思いませんでした。
中畑 本人だってビックリしただろう。そして、その勢いをお膳立てした1番・田中(広輔)、2番・菊池(涼介)、3番・丸(佳浩)がいて、新しく鈴木誠也が出てくるという、流れのバランスがものすごく良かったな。さらには黒田の200勝で流れを途切れさせず、中盤以降はいわゆる「神ってる」逆転劇の展開が続いて、1シーズン乗り切ってしまった。こんなに勢いが途絶えなかったチームは、過去の例を振り返ってもそれほど多くはないと思うよ。
──「神ってる」の鈴木誠也ですが、実は新井が2000本安打を達成した4月26日のゲームでようやく第1号本塁打を打っているんですよね。そのときまでの打率も.256と、開幕からの1カ月間は振るいませんでした。期待されていた若手とはいえ、緒方(耕一)監督がよく我慢して使い続けたと思います。
中畑 そんなことが思い出せなくなるほど、その後の活躍が「神って」いたな。スランプもまったくなかったし。もちろん、鈴木だけではなく、エルドレッドや松山(竜平)も起用された役割のなかでよく打ったことで、鈴木へのマークが甘くなったというのもあったと思う。そして、投手陣もジョンソン、野村(祐輔)の左右の二本柱に、外国人投手のヘーゲンズ、ジャクソンがつないで中﨑翔太が勝ちゲームの最後をしめるというパターンをしっかり作っていた。ジャクソンはクライマックスシリーズでは結果が良くなかったけれど、シーズンを通しての貢献度は高かったよ。
現代の野球は7~9回の継投が実に難しい

──現代の野球は、先発投手が一番大事とはいえ、7回、8回、9回を抑えるリリーフ投手の比重も高いです。中畑さんもDeNAの監督時代、そのやりくりに試行錯誤しました。
中畑 今年はDeNAも7回須田(幸太)、8回三上(朋也)、その途中に左の田中(健二朗)を挟んで、9回に山﨑(康介)というパターンを確立できていた。オレのときには、このパターンを作りきれなくてな。まず、須田は今年ほど連投がきかなかった。だから、本当は7回を須田と田中のふたりでまかなうという考え方をすれば良かったんだけども、8回の三上も2年目以降は今年ほど安定していなかったから1イニングをすべて任せるには荷が重かったんだ。山﨑だってクローザーとして決して安定しているとは言えないしな。そういう場合、状態のいい投手から次々と投入していけばもっといい継投を作れたのだろうけれど、いま考えたら、オレは役割を固定することばかり考えてしまった。それで何回か失敗したんだ。
──最後の3イニングは、万全な戦力と戦略を投入しないと逃げ切れないものなんですね。
中畑 いまの野球はどのチームも一緒。7、8、9回は本当に難しい。中途半端な投手ではごまかしがきかず、あっという間に逆転されるよ。今年の広島は、攻撃する側でまさにそれをやって勝ってきたんだ。
──考えてみると、2015年のヤクルトにしても、ロマン、オンドルセク、バーネットという3人の外国人投手による継投がセ・リーグ優勝に大きくつながった印象です。
中畑 そうそう。あの継投が決まったことによって強力な打線がより生きたよな。チーム力が倍増したよ。その意味では、来年以降も先発投手がある程度揃ってさえいれば、打線のバランスと強力なリリーフ陣の存在がペナントレースを制するカギを握るだろうな。
ソフトバンクをうっちゃった日本ハムはさらに素晴らしかった

──しかしながら、それだけの勢いがあった広島も日本シリーズでは敗退しました。
中畑 これはもう、シーズン前にはどのチームも太刀打ちできなと思わせるほどの巨大戦力を持ったソフトバンクを11.5ゲーム差から逆転で下した日本ハムの強さだよ。もう、「チャン、チャン!」じゃない?(笑) でも、栗山(英樹監督)が名将になった1年と言っていいと思う。監督として、野球の緊張感と楽しさ、そして、怖さを提供して盛り上げてくれた。日本シリーズでも常に先手を制した積極采配は見事だったよ。逆に新米監督の緒方は力を出しきれなかった。広島サイドとしては、少し悔いが残ったところがあるよな。
──やはり負けてしまうと、ファンから采配に対して辛辣な意見が出ますよね。
中畑 先に2連勝しただけにな。確かに「新人監督の緒方の方から先に動いて、相手が嫌がる野球をやらなきゃいかんだろう!?」と思ったけれど、すべて栗山にやられてしまった。
──シーズンを通してずっと貫いてきたパターンを土壇場になって積極的に動かすというのはやはり難しく、勇気がいるものですか?
中畑 それはそうだけど、結局は日本ハムの方が計算できる戦力を持っていたということだよ。広島は動かしたくても任せられる選手がいなかった。それが結果を左右したポイントだったとオレは思っているよ。
DeNAのAクラス入は嬉しいのひと言だよ
──DeNAの今季の戦いぶりについては、改めてどうでしたか?
中畑 本当に嬉しいのひとことだよ。選手がみんな成長した成果を出して念願だったAクラス入りを果たし、クライマックスシリーズで巨人を倒して広島と日本シリーズをかけた決定戦まで行ってくれた。ここまできただけでも球団の歴史に足跡を残したよ。
──今シーズン限りで引退を表明した三浦大輔に対して贈る言葉は。
中畑 大輔な! 悔いはないだろう。プロのピッチャーとしてやるべきことをすべて出しきったと思う。彼の能力から考えたら25年という長い間マウンドに立ち続けることができたのは、地道な努力があったからこそ。頑張っている姿そのものが、全プロ野球選手の見本になっていた。だってさ、140キロそこそこのストレートでは、いまの野球界では普通は戦えないよ。それをコントロールとマウンド度胸を磨くことで結果を残してきたんだから。大谷翔平のような、最初からものすごいポテンシャルのある、いわば“番外編”のような選手もいるけどさ。大輔みたいな選手が長く生き残れたことは、ひとつの大きな勲章だよ。
──中畑さんも同じチームで「監督とエース」という関係で4年間一緒にやりました。初期の頃はリリーフ陣が安定しきれないなか、多少無理してでも完投してもらう試合が多かったですし、3年目、4年目は「ベテランだろうと横一線」と公言して特別扱いはせず、結果が伴わなければ容赦なくファームに落とす非情采配を断行した印象もあります。
中畑 うん。大輔はそれがわかる人間だから。オレの考え方やチーム事情を理解して、自ら率先して素直に取り入れて、自身も気持ちを切らすことなく頑張ってくれた。チームにとっては、すごく大きな存在だった。ベテランがひねくれたら空気がまったくちがうものになってしまうから。オレはすごく感謝している。
──確かに若い選手にとっては、厳しい世界であると痛感するとともに、逆にチャンスもあるという気持ちになりますよね。
中畑 そういうこと! 「あれだけ実績もある三浦さんでも、結果が伴わなければ同じなのか」という部分と、「それでもグチらず腐らず、次のチャンスに向けてしっかり準備をしているのだな」というところを生で見せてくれたから。まあ、オレとはアテネ五輪のときからの長い付き合いだから。本当に助かったよ。
来年も予想もできないようなペナントを期待しているよ!
──今年最大の誤算は、パ・リーグのソフトバンクのV逸だったのではないでしょうか。
中畑 誰もが思っていなかった結果だよな。工藤(公康監督)は相当悔しかったと思うよ。ただ、オフになって来年のスタッフをいろいろと考えて変えてきただろう?
──ファームのコーチを4名一軍に引き上げましたね。それと、今年までは不在だったヘッドコーチに、昨年まで中日でコーチをしていた達川光男さんを招聘しました。
中畑 やはり、ひとりで総括するのは無理だと痛感したんじゃないかな。おそらく、来年は勝負の年になるだろう。しかし、達川を呼ぶというのはイメージになかった。ソフトバンクに一番合わないんじゃない(笑)? でも、逆にそういう人間の方が、チームにいい変化を生んでヒットになるかもしれないぞ。
──達川さんは広島の監督を務めたあと、以前にも一度ソフトバンクのコーチをした経験がありますし、阪神や中日での実績もあります。それだけ指導力があるということですか?
中畑 チームの雰囲気を変えられるものを持っているよ。彼の広島弁を交えた指導は厳しいなかにもユーモアがあるし、選手をやる気にさせるのがうまい。そのうえ、キャッチャーとしてやってきただけに、野球もよく知っているところも期待されていると思うよ。
──ソフトバンクの泣きどころを強いて言うならば、固定されたキャッチャーが不在というのがありました。そのうえであえてベテランの細川(亨)に戦力外通告をするあたり、若手の底上げをするつもりで達川さんを呼んだという目論見はあるでしょうね。
中畑 そういうことだな。面白くなると思うよ。それでも、ソフトバンクの選手層の厚さを考えれば、来年も十分優勝候補の筆頭だよ。
──今年両リーグで優勝した日本ハムと広島については、来年同じように連覇を狙うことは可能でしょうか?
中畑 そんなに毎年思い通りに行くわけないだろ! 「今年できたから来年もできる」なんて思ったらとんでもない。「ナメんてんじゃねーぞ!」だよ(笑)。
──その点については、中畑さんの現役時代の巨人では、優勝した翌年のシーズンは“勝って兜の緒を締めよ”という雰囲気でしたか?
中畑 ああ。巨人ではうるさいくらいに言われたよ。「その気になるんじゃない」とね。
──ましてや、広島のリーグ優勝や日本ハムの日本一は久しぶりです。気持ちが緩みそうですよね。
中畑 (ニヤリとして)そりゃあ、緩むだろう? まあ、野球界の盛り上がりを考えたら、セ・リーグもパ・リーグも来年は別のチームに活気が出て、首位を脅かすようでないと発展しないから。だから、今年は盛り上がったんだしな。昔とちがって、特にセ・リーグは6球団すべての実力が拮抗している。来年は来年で、また新しい話題がたくさん出て野球の話題が世の中に響いてくれることを願っているよ!
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。