構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

ゴルフはオフ一番の楽しみ!

──今回はプロ野球選手のシーズンオフの過ごし方についてがテーマです。中畑さんの現役時代は、毎年オフになるとテレビによく出演している姿を拝見しました。そういうとき以外には、どのような生活サイクルで過ごしていたのですか?

中畑 一番多かったのはゴルフだよ。1週間のうち、だいたい3回ぐらいはスケジュールに組んでいたのではないかな。

──プロ野球選手はゴルフ好きが多いですよね。シーズンオフでも体を動かせるからですかね。それとも、道具を使ってスイングする動きが似ているから?

中畑 まあ、緑のあるなかで1日遊べるし、野球と同じようにボールを扱うということはあるだろうな。ゴルフのボールは野球以上に遠くに飛ぶから、飛ばす楽しみがある。でも、球が左右に曲がって思うように行かないジレンマもあったりしてさ。その葛藤もまた面白い。バーディーやイーグルをとったときは、爽快感も味わえるしな。オレなんかパーがとれただけで嬉しいよ(笑)。

── 普段は仕事でボールを扱っていますけど、ゴルフの場合は「気楽な“球遊び”を楽しめる」という感じなんですね。

中畑 そう、そう! そういう時間を作ってくれる。だから、野球人にとっては一番の娯楽になるんじゃないかな。

──終わったあとは、帰りに食事に行ったりもしますか?

中畑 うん。オレはプレー後の食事もセットであることが多いね。メシを食って、そのあとカラオケを楽しんだりすることもよくあるよ。

オフのサイン会に対する考え方の変化

©共同通信

──一軍のレギュラー選手になると、オフには先ほど話に出たメディア出演に加え、ほかにも数多くのイベントに呼ばれると聞いています。そのうえゴルフにもよく行くとなると、オフの期間があっという間に過ぎてしまっていたのではないですか?

中畑 それどころか、1年のなかで一番忙しかったかもしれないな。いつもサイン会かテレビの収録、そしてゴルフという感じだったから。いまの選手はあまりサイン会に行かないじゃない? 何億円ももらっている選手にとって、サイン会でわずかなギャラをもらってもあまり嬉しくはないのだろう。もちろん、恩のある人と関係が深いものであったり、本人の思い入れが強いイベントには進んで出ていくけれど、そうでない場合はゆっくりして家族サービスをしたり、あるいは最近はトレーニングを続ける方を優先する者もいる。ファンと触れ合う機会は減るけれど、その分は本業の野球で還元するという考え方だな。

──中畑さんが現役だった頃とは、考え方が変わってきていますか?

中畑 オレが現役だった頃のサイン会のギャラというのはさ。もらっている年俸を考えたら高い価値があったんだよ だから、オレは喜んで行っていた。なにしろ一時期は、“男芸者”と呼ばれていたからな。そんな野球選手はオレくらいじゃないか? はっはっは!

──中畑さんはどこへ行っても場を盛り上げてくれますからね。ちなみに、野球教室にもよく行かれていたんですか?

中畑 もちろん、毎年あったよ。でも、現役のときは数はそんなに多くはなかった。野球教室は辞めてからの方が多くなったな。元々、OBの方が熱心に開催するものでもあるんだ。

──なるほど。それと、昔はプロ野球選手による歌合戦などもテレビ番組で放送されていて、中畑さんが水を得た魚のように歌っていたのを覚えています。

中畑 そうだな(笑)。他にも運動会とかな。そういう番組を3つ、4つ選手会主催で作ってもらったんだよ。それは選手会の共済金を作るという目的もあった。

──選手会の方で一括してとりまとめて各球団を代表する選手を供出することを約束し、その対価として番組から収入を得るということですか?

中畑 そういうこと! 12球団の代表選手が足並みを揃えて出演する番組を制作する仕組みを作ったのよ。たくさんの人たちに協力してもらったよ。

多忙なオフで家族との時間を犠牲にしてしまった

──そのようなお忙しいオフではありましたけれども、故郷の福島には里帰りしていたのでしょうか。

中畑 ああ、もちろん。いつも正月に帰っていたよ。地元には後援会があってさ。毎年、激励会も開いてくれたんだ。ファンを大事にするという意味でも、オレは後援会に顔を出すことは大切なことだと思っているよ。オレは北海道にも後援会があったんだぞ!

──北海道にもですか!?

中畑 そうだよ。だから、毎年、北海道遠征のときには必ず顔を出すようにしていた。

──人気商売という側面を持つプロ野球選手なので重要なことだとは理解しますが、オフのスケジュールを聞いていると、ご家族とゆっくり過ごす時間がまったくなかったのではないですか?

中畑 だから、地元に帰るときは家族全員を連れ行った。そのときくらいだったから。しかし、そう考えると、確かに家族と一緒に過ごす時間は少なかったな。家のこと、子どもたちのことは、おかあちゃん(仁美夫人)に任せきり。「おんぶにだっこ」だったよ。

──そうなってしまいますよね。

中畑 子どもたちの手が離れはじめてきて、「やっと一緒に遊べるようになるな」と話していたんだが……。そのときになったら、おかあちゃんは病に侵され逝ってしまった。だから余計に悔しい思いがあるよ。ようやく楽しい夫婦生活になるところだったのにな。

──生前は、奥さんのご実家の方には行かれていましたか?

中畑 女房の実家は山梨なんだけれども、現役の頃はさっき話したようなスケジュールだったから、ほとんど行くことがなくてな。オレの田舎にばかり付き合ってもらっていた。だから、現役を引退してからは、結構行くようにしていたよ。

来年につながるオフにしてほしい!

──最近の現役選手のオフの過ごし方についてはどう考えていますか? 以前に比べると、選手のアスリート化が進んだといいましょうか。トレーニングを続ける選手が多いですね。

中畑 ああ、みんな休まないな。オレからしてみれば、11月、12月はまさにパラダイスだったからさ。いまの選手にとっても、バラ色のオフであってほしいよ。

──このオフの場合は、3月からWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)もありますからね。代表選手ものんびりしていられません。

中畑 彼らは特に「コンディションを維持しなくてはいけない」という自覚があるだけに、真面目に続けている選手が多いよ。その点は「かわいそうだな」という気はする。家族と触れ合う時間も十分に作りながら、次への準備をしてほしいな。

──ただ、一方で先ほど中畑さんもおっしゃっていたように、選手の年俸が上がったことで、昔のようないわゆる小銭稼ぎのためイベント出演は減ってきているように思います。また、契約期間外である12月から翌年の1月については、昔に比べて拘束もされません。その分を家族と過ごす時間に当てられているような気はしますね。

中畑 そうだな。それは大事なことだよ。特に小さい子がいる家庭であれば、お父さんと一緒に過ごせる時間が多くなるわけだから。オレはいまでこそ、孫と一緒にお風呂に入ったりしているけれど、自分の子どもたちに対してそういう時間はほとんど作れなかった。だから、せめていま孫にしてあげることで、子どもたちへの恩返しもしているという気持ちはあるんだ。

──引退後、解説者になってからのオフの過ごし方というのは、現役時代と比べて変わりましたか?

中畑 変わったな。外に出る用事が圧倒的に減るから、時間に余裕はできたよ。

──ゴルフに行くことについては?

中畑 それは、あまり変わらないけど、ゆっくりできる時間は明らかに増えたから、本当の意味で体と頭を休めることができるようになったね。

──DeNAの監督時代はどうでしたか? 選手、あるいはコーチと連絡を取り合うようなことがあったのでしょうか?

中畑 いや、オフはほとんど交流することはなかった。

──選手の自主トレの様子などは、新聞やテレビのスポーツニュースで見るという感じですか?

中畑 それもあったけど、球団の施設を利用しての自主トレについては、結構、オレも現地に見に行っていたよ。

──もし、中畑さんが最近の選手と同じぐらいに熱心にオフにトレーニングをしていたとしたら、選手寿命が伸びていたかもしれないですか?

中畑 う~ん。いまは40歳を超えてプレーを続けられる選手が増えたから、伸びたかもしれない。でも、それは一部の特殊な選手だけという現実もある。全体の平均寿命は変わらないか、むしろ下がっているかもしれないけれども、いい選手の寿命が延びているというね。休まないことで気分転換がうまくできないと、かえって翌年に影響が出る気もするし……。結局、そこは心身のバランスがとれているかどうかだろうな。とにかく、来年いい成績を残すためのオフにしてほしいね。それが、野球人としての本分だからな。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ