構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

若いうちはオフなどないんだ!

──昨年、セ・リーグで本塁打と打点の二冠を獲得した筒香(嘉智)選手は、一昨年のオフにドミニカのウインターリーグに参加して大きく成長するきっかけを作りました。球団によっては若手選手を主体に中南米やオーストラリアに派遣して武者修行を積ませるところもあります。

中畑 いいんじゃないの? 若いうちはどんどん行くべきだよ! ファームの選手に休みはいらないんだからさ。オフをしっかり休むのは、あくまで一軍の選手。そこまでたどり着いていない選手は、休んでいる場合じゃないだろう。

──ただ、筒香選手は、一軍にある程度定着していながらさらなる高みを目指して一昨年ドミニカに渡りました。

中畑 アイツのそういう姿勢は評価できるよな。あえて自分磨きの旅に出たわけだから。そして、本当に結果を出した。格好いいよな。頭が下がるよ。

──ドミニカで得た経験は、3月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で戦うにあたっても……?

中畑 もちろん、プラスになるよ。中南米系投手の動くボールを実際に見た経験、連日データのない初顔の投手を相手にアジャストさせようとする経験、いたれりつくせりの日本とは違うアウェー感バリバリの雰囲気でプレーした経験、すべてが国際大会で生かされるだろうな。できることなら、オレは日本代表に選ばれた選手全員に行ってほしいと思うくらいだよ。

松坂大輔にはもうひと花咲かせてほしい

©共同通信

──このオフは、松坂大輔(ソフトバンク)がドミニカのウインターリーグに参加しました。日本復帰2年目だった2016年も故障と調整でほとんど二軍暮らしのうえ、最後に一軍で登板した楽天戦も大乱調でしたから、期するものがあると思われます。

中畑 そのくらい努力しなかったら失礼だろう!? それに、大輔だって今年もダメで丸々3年なにもせずに「給料ドロボウ」と言われるようであれば、納得がいかないはずだよ。ボロボロになってダメになったということであれば、まだいいんだけど。それにしても、いまのままでは中途半端だよ。

──昨シーズン最後の楽天戦の登板を見てどう思いましたか?

中畑 正直なことを言うと、オレのなかでは「もう難しいだろう……」という思いはあるけどな。リリーフに配置転換したとしても連投はきかないし。

──素人目からも、上半身がガチガチで身体が上手く回らず、首を振りながらやっとのことで投げているように見えます。

中畑 アーム式の機械が放っているみたいだからな。

──メジャーリーグに挑戦する前の西武で投げていた頃とは別人ですよね。ちなみに、中畑さんは2004年のアテネ五輪で日本代表のエースだった松坂と一緒に戦いました。その後も顔を合わせる機会が多々あったと思いますが、彼はどんな性格ですか?

中畑 非常に前向きだよ。アテネのときはまだ若かったということもあるけど、世界に飛び出していきたいという強い気持ちがあって、オリンピックは世界に向けて自分をアピールする場所という感じだったな。それゆえ、登板するときはすごく気合が入っていたよ。

──アテネではキューバ戦に先発しましたね。

中畑 あのときは、途中でピッチャー返しの打球が右腕にあたってしまってさ。ものすごいアザになっていたんだよ。でも、大輔が「投げさせてください」と直訴してきたんだ。だからオレも「わかった! 行けるところまで行ってみろ!」と続投させて、アイツに賭けたよ。そうしたら、後続を抑えきって勝ち投手になったんだ。

──そんな松坂ですから、ファンとしてはせめてもうひと花咲かせてくれたらと……。

中畑 もちろん、そういう気持ちはオレもあるよ。

──そのためのウインターリーグ参加でもあるので、なにかきっかけになるものを得ているといいですね。

中畑 そうだな。もう一回見たいな。大輔の勇姿をさ!

台湾との交流試合は良かったよ!

──一方で昨年11月下旬から12月中旬にかけて、台湾でも「2016アジアウインターベースボールリーグ」が開催されました。日本のプロはファームの選手がイースタン・リーグ、ウエスタン・リーグでそれぞれ選抜チームを組んで参戦。台湾や韓国プロの若手や欧州選抜と腕を磨きました。

中畑 何度も言うけれど、実績のない選手はどんどんやるべき。シーズンオフに入った時点で、すでに次に向けての戦いははじまっているからな。

──ところで、少し前の話になりますが、それに先立つ形で11月20日に巨人OBと台湾OBによるチャリティーゲームが行われましたね。中畑さんも時代を越えたOBの一員として参加しました。そちらの“ウインターリーグ”は、どうでしたか?
中畑 あの試合は良かったよ! 球場の雰囲気も素晴らしかった。

──裏話などはありますか?

中畑 前日の夜に懇親会があったんだ。いわゆる前夜祭というものかな。台湾の郭泰源(元西武)や郭源治(元中日)、呂明賜(元巨人)も来ていてさ。オレが一番手でカラオケをはじめて、テーブルを回りながら歌ったの。そうしたら、みんな乗ってきてさ。台湾勢にも「お前たちも歌え!」って言ったら、踊りながら歌っていたよ。すごく盛り上がった。

──それは見たかったです。

中畑 また、日本と台湾との交流という意味でいい空気が作れたのも良かった。それもこれも王(貞治)さんの存在が大きいよな。双方の架け橋になってくれたし、台湾でも大スターだから向こうのファンも大歓声をあげてくれたよ。

──チャリティーゲームでの王さんと郭泰源さんの対戦では、観客が総立ちでした。

中畑 いや、オレたちだって総立ちだよ。特に王さんがファウルを打ってひっくり返ったときは、みんな慌てたぜ。柴田さんが一番近いネクストサークルにいたのにまったく動こうとしないから、みんなでベンチから「なにやってんだ!」って野次っちゃったよ(笑)。

──最後は王さんが空振りの三振に倒れましたが、久しぶりに一本足打法を披露してくれて、観客も両チームの選手も盛大な拍手でレジェンドを称えていたのが印象的でした。

中畑 ああいったイベントは、もっとやりたいな。今回は台湾だったけれど、ぜひ日本でも同じような試合を開催してオフの時期も盛り上げたいね。

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ