構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹

大型補強をした巨人は由伸監督のプレッシャーになる

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──今オフ、巨人は山口俊、陽岱鋼、森福允彦がFAで入団しました。FA移籍で3選手がひとつの球団に移籍したのは日本プロ野球史上初の出来事です。他にもドラフト1位入団でずっと期待されていた大田泰示を放出して左腕の吉川光夫をトレードで獲得するなど、大型補強を断行。「今年こそ優勝を!」という意欲が感じられます。

中畑 う~ん……期待感が大きくなり過ぎていないだろうか。とても心配だよ。これだけお金をかけて補強して、もし、うまくいかなかったときに、ファンや球団がどう感じるか。「結果が出て当たり前」という環境にしてしまったことは、正直なところ(高橋)由伸監督にとっては大きなプレッシャーになる。

──獲れる選手は金を惜しむことなくすべて獲った、という印象はありますね。

中畑 ただ、補強といってもさ「本当にバランス良く弱点を埋められたか?」と問われると、そうでもない気がするんだよ。「ポジションが被る選手も獲っているんじゃない?」というね。だから、かえって組織の足並みが揃わなくなる部分も出てくる気がするよ。外国人選手を含めて、レギュラーから外さなくてはならない選手の数が多くなるから。

──そうですね。

中畑 あり余る選手をどういう使い方をするのか? 選手起用に問題が生じないようにやりくりしなくてはならないから、「由伸はすごく大変だなあ」って思うよ。オレは昨年、アイツに「もっと、喜怒哀楽を出せよ!」と会うたびに言い続けてきたけれど、昨年以上に悩ましい顔をベンチで見せてしまいそうだな……。

──選手がいない方が、かえってひとりの選手を思い切って起用し続けることができますよね。

中畑 そうなんだよ。オレがDeNAの監督だったときは、他に選手がいなかったから、極端な話、ダメ元で「コイツらと心中だ!」という覚悟を決めて起用することができた。それが、今年の巨人は戦力を持て余しているくらいの状態なだけに、それをうまく使って1年間勝ち続け、とにかく結果を出さなくてはいけない。こういう環境を作られるというのは……オレは嫌だな! まあ、そういう状況に置かれたことがないから、そう思うのかもしれないけどさ(笑)。自分でチームを作っていくというのは楽しいけれど、準備されたもので「さあ、どうぞ」というのは、果たしてどうだろう?

──「ここまで揃えましたから、あとは勝ってください」ということですからね。

中畑 オレは、やっぱり嫌だよ。それじゃあ、「誰が監督をやっても勝てる」という感じじゃない? 逆にもし負けたら「これだけ戦力があっても、まーだ勝てないのかよ!?」って言われちゃう。

キャンプでは(高橋)由伸監督に直接考えを聞きたい

──巨人のキャンプを訪れた際には、まず、なにをチェックしますか?

中畑 チームバランスだな。いま話したことが一番の課題になるから、補強した選手をどのような役割に配して使っていくつもりなのか。いままでの選手との兼ね合いなども含めて監督に聞いて、腹のなかを探るのが楽しみだよ。

──そのあたりは、やはり監督に聞くのがいいですか?

中畑 それが一番手っ取り早いよ。本音トークがあるから。オレにしか話さない内容も多分にあるしさ。残念ながら、それをオレが外に向かって発信することはできないけどね。

──結構、他言できない話もあるものなんですね?

中畑 (ニヤリと笑って)そりゃあ、ありますよ!

──チームや選手の知られざる秘密とか?

中畑 そう、そう。たとえば、外部の人たちはすごく期待している選手がいるとするじゃない? でも、監督は思ったほど期待していない……なんてケースがなかにはあるんだよ。そういう誤差が意外にあってさ。なかに入って聞いてみないと、それはわからない。「え!? そんな程度の評価なの?」というときもあれば、逆に「あの選手、そんなにいいの!?」なんてこともある。今回の巨人がどうこうではなく、これは全体的に言える話なんだけどな。

──それは、中畑さんがDeNAの監督をされていたときにも、解説者の方とそういう会話を……?

中畑 していたよ、もちろん。

──多くのファンがその会話の中身を聞きたいと思っていますよ。

中畑 そうだろう? 残念ながら、さすがにそれは話せないけどな。とにかく、今年の巨人については、(阿部)慎之助とか村田(修一)、長野(久義)あたりをどう使うかが難しくなってくるだろう。結果が出なければ勇気ある決断をして、代えるべきときにはしっかり代えていくという状況も出てくるはず。大げさかもしれないけれど、選手の終わらせ方ということまで頭に入れながら、選手を起用していかなきゃいけないんだよ。

──とはいえ、村田は昨年、143試合に出場して打率.302、25本塁打と結果を出しました。阿部にしても、シーズン途中に復帰してから活躍し、チームを支えたというイメージが強いです。

中畑 いやいや、それでも1年勝負だよ。

──今年は今年、スタートラインは横一線ですか?

中畑 そういうこと。由伸監督は、彼らがレギュラーポジションを確固たるものとしたとは思っていないはずだよ。オレはそう思うね。巨人はきっと、1年を通してレギュラーを固定しない戦い方になるんじゃないか。つぎはぎ的な選手起用になるだろうな。

──それはつまり、チームが勝つことを最優先にしてメンバーは固定せず、調子が落ちてきた選手がいたらすぐに入れ替えて毎試合ベストな選手を起用するということですね? ベンチメンバーの25名を選ぶのすら大変そうです。それがうまくいけばいいですが、見極めはすごく難しそう……。単純にたくさん補強したから勝てるという簡単なものではないのかもしれませんね。

中畑 うん、オレはそう思っているよ。どれだけの補強をしたとしても「必ず勝てる」ということはない。野球はそんなに甘くないよ。由伸にはプレッシャーに潰されることなく「自分の采配に徹してくれ」と願うばかりだよ。

森監督が表舞台に立つ中日はまずAクラスを

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──今年のキャンプでは、他にどの球団に強い興味がありますか?

中畑 それはもう、後輩のモリシゲ(森繁和監督)がいる中日だよ。久しぶりに新鮮な気持ちで見られる気がする。楽しみだな。

──昨年はシーズン途中に、谷繁(元信)監督の休養によって、急遽ヘッドコーチから監督代行となりましたが、このオフに晴れて正式な監督に就任しました。

中畑 モリシゲはここまでいつも二番手、三番手のポジションで苦労しながら頑張ってきたからな。それが、いよいよ表舞台に立つわけだから。といっても、これまでも実質は“影の監督”みたいな存在だったから、表舞台に立ってチームの指揮を執っていた感じはするけどな(笑)。元々、雰囲気は持っていただけに、正式に監督になってどうやって低迷している中日を変えていくのか? 最下位からどう引き上げていくのか? 興味はつきないね。あんな怖い顔しているけど、選手からの人望も厚いし、モチベーションを高めていくのは上手いから、面白い監督になると期待しているよ。

──セ・リーグの現在の状況から考えて、最下位の翌年に一気に優勝するというのは可能でしょうか?

中畑 それはオレにもわからない。ただ、昨年の中日の戦いぶりを見た限り、いきなり優勝を狙うのは正直厳しいとは思う。以前は強力だった投手陣が、先発、中継ぎ、抑えのどの部門においても、年間を通して絶対的にやれるという布陣に決まってきていないからな。ただ、アイツ自身が毎年オフにドミニカにいって、いい外国人選手を獲ってくるからね。

──トニー・ブランコに代表される中南米系の若くて原石のような選手を連れてきては、日本で開花させていますよね。

中畑 昨年はメジャーリーガーだったビシエドも首尾よく獲ってきたしな。外国人とドラフト1位の柳(裕也)あたりの新人も含めて、うまく勢いに乗れるか次第だろう。

──そうすると、3位以内に入ってクライマックスシリーズに出場するというのが現実的な可能性であり、チームの目標になりますかね?

中畑 そうなれば上出来だよ。台風の目になる要素はある。

──でも、そうなったらDeNAにとっては強力なライバルになりますね?

中畑 ああ、そうだな! いいんじゃない? オレはどちらにも頑張ってほしいから、両方が競り合ってくれれば言うことはないよ。そうなれば、セ・リーグも盛り上がるだろうし、むしろ嬉しいことだよ!

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ