構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三
大谷にはWBCで全試合に出場してほしかったが……
──前回は巨人、前々回はDeNAについて伺いましたが、その他の球団で中畑さんが今シーズン注目している選手は誰ですか?
中畑 そりゃもちろん、大谷(翔平/日本ハム)と山田(哲人/ヤクルト)。あと、柳田(悠岐/ソフトバンク)だな。
──やはり、この3人は別格なんですね。
中畑 球界全体を引っ張ってくれることを期待するという意味でも、この若い連中がどこまで成長してくれているか楽しみだもん。
──まずは、大谷についてはどうですか?
中畑 昨年の活躍ぶりは、なにも言うことがなかった。あとは、今年結果を出したうえでのメジャーリーグ移籍。それをどう自己演出していくかだよな。オレは、大谷にメジャーリーグでも最高の選手になってほしい。いよいよ、日本における最高の選手が誕生したと捉えているから。野球人としてどこまで未知の世界を開拓してくれるのか。メジャーリーガーでさえ、「コイツ、すげえな!」って思わせるようなプレーを見せてくれるのではないか、という楽しみがあるよ。だから、今年は昨年以上に活躍して、しっかりした下地を作ったうえで、来年、メジャーリーグへ殴り込みをかけてほしいな。
──二刀流については、メジャーリーグでもやらせたいですか?
中畑 ここまできたら見てみたい。メジャーの球団は故障のリスクに対して神経質なところがあるから認めないかもしれないけれど、日本でこれだけ二刀流が話題になっているわけだしな。それに、実際に大谷が二刀流でプレーする姿を見たら、向こうでも評価が変わって、「両方やらせてみようか?」となるかもしれない。そうなれば面白いな。
──今年のキャンプではどのような点に注目して、大谷を見るつもりですか?
中畑 それはもう、WBCに向けてだよ。
──ただ、2月1日に投手としての参加は断念するという発表がありました。
中畑 これは本当に残念で仕方がない。調整具合によって起用方法は変わってくることはわかっていたから、おそらく、バッターとしてDHで出ながら、ピッチャーとしてどういう使い方をされるか。それが焦点になるだろうと思ってはいたんだが……。小久保(裕紀)監督にはすでに考えているビジョンがあって、日本ハムの栗山(英樹監督)とも話をしていただろうしなあ。もちろん、本人の状態を見て決定したことだから、やむを得ないんだけれども、日本代表に与える影響は大きいぞ。オレの個人的な理想としては、大谷がピッチャーとして登板しながら、そうでないときは野手としてすべての試合に出場して、世界にその名を示しつつ日本が世界一になる姿を思い描いていただけに悔しいよ。
山田と柳田は良い状態でシーズンに入れるかがカギ
──山田、柳田については、どのような点に注目していますか?
中畑 彼らの代名詞になった“トリプルスリー”という子どもたちが憧れるスタイル、これが維持されるかどうかにつきるだろう。守って、打って、走ってというすべての面において目が離せないというのは……つまり、テレビ中継のチャンネルを変えられない選手なわけだから。ただ、山田は少し心配だな。
──なぜですか?
中畑 昨年、背中に死球を受けて、一度、戦線離脱しただろう? 復帰してからも恐怖感が残っているみたいで、バッティングのタイミングが微妙に狂っていたんだ。
──離脱前の夏場にあまりにも打っていたので、気がつきませんでした。
中畑 その恐怖感を今年どこまで排除しているかが気になる。昨シーズンの終盤は、わずかではあるけれど、積極性が影を潜めて受け身になりつつある状況にあったのでね。そのあたりを見極めたいと思っているよ。
──柳田についてはどうでしょう?
中畑 まずは体の状態だろうね。ちゃんと完全な状態で復活できるかどうか。それを確認したいな。
柳田よ 四球攻めは“大打者の勲章”だ!
──昨年はシーズン前に手術した右ヒジをだましだましでプレーして、シーズン後には痛みが再発。11月のWBC日本代表の強化試合は辞退して、再手術をするかもしれないという報道まで出ました。結局、手術はしませんでしたが、日本代表の最終的なメンバー選考からも漏れてしまいましたね。
中畑 ヒジの故障はバッティングにも影響することだし、WBCの辞退は仕方がないけれども、それ以上に長いシーズンに入っていける準備ができるどうか。体の状態さえクリアできていれば、また、トリプルスリーという数字が現実的に見えてくるだけにな。
──課題はホームランを稼げるかどうかですかね。トリプルスリーを達成した2015年こそ34本打ちましたが、それ以外のシーズンでは10本台が多いです。うまくとらえられればとんでもない飛距離が出ますが、打球が上がらないことが多く、むしろヒットメーカーという一面もあります。
中畑 ただ、昨年は逆方向に長打が出るようになったから、バッティングの幅はすごく拡がったよ。それに、本拠地のヤフオクドームはラッキーゾーンができてからホームランが出やすくなったからチャンスは十分ある。
──それと、昨年はまともに勝負されずに四球ばかりでストレスが溜まっていた時期もありました。ああいった四球攻めをされる打者心理というのはどういうものなんですか?
中畑 なにを言っているの! 四球攻めというのは、大打者たるがゆえの勲章じゃない!? 王(貞治)さんだって、ずっとそうだった。そこでどれだけメンタルを維持できるかだよ。オレのような強い心を持ち合わせていなかった人間は、「四球なんてつまらない」と思ってしまうから、少々のボール球でも手を出して成績を落としていた(苦笑)。いま思えば、これは“悪い意味での積極性”だったよ。
──やはりそこは……?
中畑 我慢ですよ。バッティングの形を崩さないようにするには、ひたすら我慢。それに、四球だって出塁できるんだから、これもチームプレーのひとつだよ。ただな。そんなことは理屈では理解しているんだけれども、バッターの性というやつでさ。打って結果を出してはじめて充実感を得られる部分があるから、バットを振らない打席が続くとすごく不平不満が溜まるのよ。
──相手もそれが狙いで、勝負を避ける?
中畑 そうそう。イライラさせてボール球に手を出させてバッティングを崩そうとするんだよ。それも駆け引きだな。
──一方で、山田については、昨年も四球攻めでリズムを狂わされるようなことはありませんでしたね。
中畑 それは、元々積極的だから。とにかく、ファーストストライクから球種やコースに関係なく打ちにいくからね。ただ、昨シーズンの死球復帰は、その点についてもやや受け身になりつつあった気がするんだよな。
──死球の恐怖というのは、結構、根深く打者の意識に残るものなんですね。
中畑 かつては、田淵(幸一)さんのような大打者もそうだったからな。
──広島のエース・外木場(義郎)の速球を左の耳付近にまともに受けてしまった死球ですよね。そのまま救急車で運ばれた大事件でした。
中畑 田淵さんは、復帰後もしばらくの間、調子が上がってこなかった。バッターというのは、受け身になってしまうと全然打てなくなってしまうものなんだよ。あくまで、積極的に打ちにいった形のなかでボール球や狙い球でないものは見送るようでなくてはいけない。それができなくなると、バットを振ろうにも手が出なくなってしまう。それが一番怖い。山田も、昨年の終盤はそういった領域に差し掛かっていた気がするんだよな。
──そういうことであれば、今年はこの先の山田の成績を占う分かれ道になりそうですね。ちなみに、中畑さんは選手時代にそういった体験をされましたか?
中畑 いや、オレはなかった。オレ、避けるのは上手かったんだ。死んだ親父に、「危ないボールが来たら即逃げろ!」と教わっていいたからな(笑)。内野を守っているときだって、危ないゴロが飛んできたら避けちゃっていたよ。ワッハッハ!
今年も“絶好調”節全開でキャンプに乗り込むぞ!
中畑 いまは野球界そのものが随分と変わってきたと思うよ。だって、レベルがうんと高くなったもん! オレたちの時代とは全然違う。あの頃は、ピッチャーの投げる球種なんて、真っすぐとカーブにスライダー、それにシュートがあるかないかくらいで、引退する何年か前あたりからやっとフォークが決め球として主流になってきた時代だったから、それほど難しい変化球はなかったんだよ。それが、いまはカットボールとか2シームとか、種類があり過ぎてわけがわからない。そんな現状に対して、大谷、山田、柳田の3人はもちろんのこと、結構、順応できる選手が出てきている。それが嬉しいよ。
──広島の菊池(涼介)のように、スピードタイプの選手にしても、ある種のスケールの大きさを感じますよね。
中畑 選手の体型自体が変わってきているからな。大谷にしても柳田にしても大柄で一見すると細いタイプなのに、実際はがっしりもしていて格好いいよな。坂本(勇人)もそうじゃない? デブっぽい選手なんて、全然いないもん(笑)。
──確かに、昔は東尾修(元西武)や落合博満(元ロッテ他)のような、大変失礼ですけと“ちょっとおっさんくさいプロ野球選手”がいましたが、そういう選手はまったくいなくなりましたね。いまは40代のベテラン選手といえども体つきがシュッとしています。
中畑 イチローがそうだしな。もっとも、おっさんみたいな体型じゃあ、もう通用しないだろう。そういう時代だよ。
──今年のキャンプでも、そんな時代の変化や新しい発見が数多く見つかりそうですね。
中畑 今年は特にWBCが控えているから、早いうちから緊張感と活気が入り混じった雰囲気がどの球団にもきっとあると思う。そうしたワクワク感も含めて、オレ自身も早くそのなかに入っていきたい。プレーヤーになった気持ちで、「試合開始だ!」という勢いを持って現地に乗り込めそうだよ。
──初日から“絶好調”節全開で視察する感じになりそうです。
中畑 迎える側の各チームの連中は、来てほしくないかもしれないけれどな。突っ込まれたくないことをズバズバと聞くだろうから(笑)。覚悟しておけよ!
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。