構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

──まずは、親のような目線で見守っているDeNAについてお願いします。5月下旬の段階で勝率5割を少し割るような成績で4位。これまでの戦いぶりを見てどうですか?
中畑 「良くもなく悪くもなく」という感じだな。もう少し順位が上にいくと思っていたけれど、それが叶わなかったのは、開幕投手に抜擢された石田(健大)が戦線離脱したこと。そして、今永(昇太)がいいときと悪いときの波が激しいという状況が原因だろう。この左の主力二枚が全開で力を発揮できていないということを考えれば、むしろ、よくやっているという言い方もできる。石田はヒジの故障だからまずは治すしかないけれど、問題は今永だな。本来ならばもっと安定感があって、試合をつくってくれるピッチャーなんだけれど、今年はもうひとつキチッとした投球ができていない。柱になるべきピッチャーなので、夏場からシーズン後半にむけてもこの調子だと少し不安になるよ。
──しかしながら、今年のDeNAは外国人投手が当たりましたね。これは、中畑さんがシーズン前から予想していたことです。
中畑 そう! 言ったとおりだったろう!? クラインとウィーランドの先発にリリーフのパットンな。パットンは失敗も何度かあって、山﨑(康晃)とクローザーとセットアッパーを入れ替わったりしているけどね。でも、1年間を通じて考えたときに、外国人選手が安定して役割を果たしてくれるかどうかは、ものすごく大事になってくる。貴重な戦力だよ。
──もし、いなかったらと考えるとゾッとしますね。
中畑 いなかったら最下位だったかもしれないな。この外国人選手たちに、井納(翔一)と新人の濵口(遥大)たちでローテションを回して持たせている間に石田が復帰して、今永もある程度自分の投球ができるようになれば、貯金ができる状態に変化するよ。
──すると、いまは我慢のときですね?
中畑 そういうこと。そして、現状でいまの位置にいること自体、今年の補強はうまくいったと評価していいと思うよ。だから、「GM、良かったね! 高田(繁)さん、なかなかやるじゃん!」と(笑)。でも、オレが監督のときにはなんでこんないい外国人選手を獲ってきてくれなかったの? と言いたい。
──また、そんな言い方を(笑)。
中畑 いや、本音だよ。まあ、ついこの間、会ったけどな。でも、一緒にチームのことを考えながら、監督として一から作っていったことはいま思い出しても楽しかったよ。
大型連敗を脱出するには、最後は執念しかない
──セ・リーグで下位にいるヤクルトと中日の戦いぶりについては、どう評価しますか?
中畑 この2チームは、申し訳ないが、戦力を含めてこの1年間はこの位置で戦っていくだろうとオレは見ていた。だから、5位中日、6位ヤクルトと予想し、現在は実際にそのとおりになっている、ということだな。現状を考えたら、どちらも大きな連敗をしないこと。特に同一カード3連敗を避けることが、生き残ってAクラスをうかがうための大事な要素ですよ。それを簡単にしてしまうから、負けが込むわけだから。「それだけは絶対に避けるぞ!」という、ひとつのポリシーを持って頑張っていく必要があると思う。
──ただ、ゲーム差的にみると、この2チームも上位グループからそれほど大きくは引き離されてはいないですよね。
中畑 そうなのよ。だから、チャンスはある。あるから、3タテだけはしてはいけないということね。まあ、かつて監督として12連敗した(2016年6月、引き分け挟み)ことがあるオレが言うのもなんだけど(笑)。
──だからこそ、経験上、熟知されていると思いますが、流れを止めるというのは……。
中畑 難しいよ! 一度、負の連鎖がはじまるとさ。途中まで5点差で勝っているゲームも勝ちきれなかったりすることもあったから……。
──エース投手が先発した試合で勝ちきれるかどうかが大きいですよね? エースが勝ってくれれば、2戦目、3戦目の先発投手へのプレッシャーが軽くなって勝てる可能性が上がりますし、ローテションの裏側で連敗が発生してもそこで止められます。しかし、エースが踏ん張れないと、大きな連敗につながってしまいます。
中畑 そう、そう! エースで落とすと、連敗街道のイメージが選手の頭のなかに浮かんできちゃうんだよな。
──DeNA時代に12連敗したときも、打てる手は打ちつくしたと思いますが。
中畑 でも、なかなか止めきれないよ。新しい選手を送り込んでも、その選手までも負の流れを無意識に感じ取ってしまうようで、いつもなら当たり前のようにできているピッチングやバッティング、フィールディングができない。世の中、なんでもそうだろう? 負の流れというものは。最終的になにが抜けるきっかけになるかというと、もう“執念”しかなかったよ。「絶対勝つんだ! 勝ち切るんだ!」という強い気持ちをもって戦うときがくると脱出できるんだけどね。それがいつ、どうやってくるのかというのが……読めない! ダメなときは本当にマイナス思考になるよ。
──中畑さんは、ご自身の監督采配を振り返って、そういう負の状態のときには動いて打開する方でしたか? 逆に「動かざること山の如し」でしたか?
中畑 12連敗中のときは、もし、チームのなかに気を抜いている選手がいたりしたら、新しい戦力を引き上げて思い切ってボーンと替えてみようかと思っていたんだよ。でも、選手は本当によくやってくれていて、手抜きとか怠慢プレーは一切なかったから、結果的には動かなかった。このときの連敗の責任は、監督であるオレ自身にしかなかったよ。負けている理由は、采配や選手起用にしかない。だから、オレが腹をくくるしかなかった。選手は信頼していたし、こちらの望むとおりにやってくれていたんだから。でも、勝てない。ただ、言い訳のためだけのテコ入れをしてバタバタするほうが、チームはもっと悪くなっていたかもしれない。かといって、なにもしないというのも良くないんだけどな。
──すごく難しい判断です。毎日悩まれたんですね。
中畑 そうだったよ。でも、そこのさじ加減というのは、監督のタイプによってちがうんじゃないか? それでいいと思うよ。オレはそういうふうに割り切っていた。DeNAの監督に就任してから一貫して「怠慢プレーは絶対に許さないぞ!」と言ってきたけど、このときはそんなことは一切なかった。攻守ともに全力プレーをしていたし、選手間でも気持ちを奮い立たせていたし、なにも言うことがなかった。だから、12連敗中はオレ、怒らなかったもん。怒る要素がなかったから。
──逆に、中畑さんご自身の試合中の采配で、「いま考えたら失敗だった」と後悔していることはありますか?
中畑 この連敗で「なんの手も打たなかった」のが失敗だったよ(笑)。本来は動くのが大好きなだけにな。オーダーの変更だけではなく、戦術にしても、盗塁、エンドラン、スクイズ。本来はなんでも好きなくせに、ほとんどしかけなかった。それは、さっきも話したとおり、動くことで言い訳をつくるような気がしてならなかったからなんだ。
──「動かなかった」というよりは、「動けなかった」のですね。
中畑 うん、「動く度胸がなかった」ということだろう。当時は、チームとしての勝つ形が決まりかけていたところがあったから、余計に動けなかったな。「いまは負けているけれどガマンだ。いいほうに転がれば必ず勝てるし、こういう経験も将来的に絶対に無駄にはならない」というね。これも言い訳になってしまうんだけれども、どこかでそう思っているところはあったよ。いま思えば、反省点だらけだな。
中日とヤクルトは選手を育てることも考えるべき

──中日とヤクルトは、このあとの戦い方として具体的にどうしてくのがいいでしょうか。この2チームはそれぞれタイプがちがうと思います。中日は投手力と守備力で守りきって勝ちを拾うしかないですよね?
中畑 それが基本だな。ただ、やりようで点が取れるチームでもある。平田(良介)がいて、大島(洋平)がいるから。特に大島は、オレにとっては駒澤大学の後輩で、モリシゲ(森繁和監督)にとってももちろん後輩。前に話を聞いたときにも「監督の期待に応えたい」と言っていたよ。実際、今年は強い意志を全面に出して一生懸命やっているよ。
──開幕から好調だったのには、そういう人間関係もあったんですね。
中畑 そして、モリシゲは新人のショート・京田(陽太)を育ててほしいね。左ピッチャーが先発でもなるべくスタメンを外さないようにして。堂上(直倫)にも機会を与えるようにはしていて、それも大切なことだけども、本当のレギュラーを作るのであれば、この1年は京田をとことん使いきって、次の時代のスターに育て上げなくてはいけないと思うよ。それだけのものを持っているから。
──勝負を捨てるわけではないけれど、チームを土台から固めていく?
中畑 そういう年でいいとオレは思うよ。監督が替わって即優勝というほどの戦力は、まだ整っていない。オレはモリシゲにも、「戦力を作る年にすればいい。それができるなら、下位でもいいよ」と、シーズン前に言ったんだ。
──森監督は、それに対してどういう反応をしていましたか?
中畑 アイツは「優勝します」と言っていたよ(笑)。監督はそう言っていなくてはいけないからな。監督が「下位でいい」と公言するなんて、とんでもない話だから。
──一方、ヤクルトはこれからの戦い方としてどうすればいいですか? 打撃のチームですが、川端(慎吾)や畠山(和洋)といった中軸を打つ選手が鮮烈を離れているという現実もあります。
中畑 そうだな。それでも、チームのカラーからいえば、どうしても点の取り合いが多くなると思う。ただ、山田哲人とバレンティンがいるんでね。それに、若いピッチャーで芽が出そうなのもいるようだから、打ち勝っていくなかで投手陣を整備して勝ちパターンをつくること。それが、クライマックスシリーズ出場に手が届く可能性を高めることになるだろう。将来的なチーム作りという意味においてもプラスになっていくと思うよ。
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。