構成・文/キビタ キビオ 写真/榎本壯三

交流戦はホーム&ビジター1試合ずつにしてもいい

──今年で13年目の戦いを終えた交流戦ですが、日程と対戦形式は何度か変更された経緯があります。そして、2015年から現在の6連戦を3週連続で行う方式に落ち着きました。それ以前に2連戦をセットにしてホーム&アウェー方式で4試合をベースに行っていたときと比べると、短期間にギュッと凝縮された印象です。

中畑 オレは短いほうがいいと思う。交流戦はなるべく短く、そして内容は濃く……でやってもらいたい。実を言うと、オレは元々「交流戦廃止論者」だったんだ。

──それはなぜですか?

中畑 日本シリーズやオールスターの価値観を薄めてしまうから。これにつきるよ。いまとなっては廃止は言い過ぎかもしれないけどね。ただ、交流戦を長い期間開催するのは、やはり良くないと思っている。だって、そもそもは観客動員の少なかった時代のパ・リーグが、観客の増加とテレビの放映権料を獲得したいがために提案してきたものなんだ。だけど、そんな格差はもうないじゃない? むしろ、人気面でパ・リーグが逆転している部分もある。パ・リーグのほうが、かえって営業になるんじゃないか? というくらいだよ。地域に分散して地元に根付いているからね。テレビの中継だって、昔は地上波の巨人戦しか選択肢がほとんどなくて、その放送権料=甘い汁をさ、みんなが吸いたいというところからはじまっているわけから。そういう効果はもうとっくになくなっているよ。

──たしかにそうですね。

中畑 だから、ここらでいま一度、日本シリーズやオールスターの価値観を高めるためにも、交流戦を廃止してもいいのかな? という考えは、オレ個人の心のなかにはあるんだ。目的は達成しているからね。現在は交流戦に寄らないところで観客動員が増えていると思うし。

──ただ、一ファンとして強いて言うなら、「お祭り」のひとつとして残してもいいのではないかと思います。ゴールデンウィークが過ぎて、5月の中旬から6月の梅雨の季節にかけては、観客動員の勢いが少し小康状態に入ります。その時期に再びプロ野球を盛り上げるには適していますよね。
中畑 そうだな。それはそうだ。だから、流れとしては期間が短くなった現在のスケジュールに落ち着いたことは良かったと思っている。下手したら、両チームの本拠地カードを1試合ずつの合計2試合ずつにしてもいいくらいだよ。

──なるほど。それだと公式戦とはあきらかに違う“カップ戦”的なイメージが高まりますね。ますます「お祭り」感が出ます。

中畑 そうそう。まったく違う雰囲気になるだろう? オレはそれでもいいと思うよ。

パ・リーグのパワー野球はやはり強い!

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──となると、2014年までの2試合やって1日移動日という日程のときは、DeNAで監督をしていた中畑さんからすると、かなりストレスを感じていたのではないですか?

中畑 いまだから正直なことを言うけど最悪だったな、長くてさ(笑)。1カ月以上やっていたから。

──ただ、あの試合日程は先発投手の層が薄いチームには良かったですよね。試合間隔に余裕があるので、ローテーションの谷間を作らずにエース級ばかりで先発を回すことができました。

中畑 へへへ、まあな。それは、与えられた状況を生かすという意味での「やりかた」だからな。

──ただ、方式が変わっても、パ・リーグが勝ち越してしまうという状況は変わらなかったですよね。やはり実力的にパ・リーグがレベルが高いということでしょうか?

中畑 うん、パ・リーグが圧倒的に強いとオレは思う。これは意地を張るまでもない話だよ。

──とはいえ、中畑さんとしては、やはりセ・リーグに勝ってほしい?

中畑 オレはセ・リーグで育ったOBだからね。ずっとパ・リーグにパワー負けしているという現実は、悔しい限りだよ。よく「パ・リーグ=パワー」対「セ・リーグ=テクニック」の戦いと言われるけれども、パワーって本当に怖い。オレ、実際にDeNAで戦っていてそう感じた。いつなんどき、あのパワーによる波が一気に打ち寄せるか、というのがさ。プレイボールがかかって、最初のうちは大人しい野球をやっていたとしても、一度火がつくとものすごい勢いで畳み掛けてくる。そして、気がついたら大量失点していた……という経験を何度も味わったんだから。パ・リーグのパワー野球は本当に驚異だったよ。

──「眠れる獅子」を眠らせたまま逃げ切るということはできなかったですか?

中畑 そんな野球がさせてもらえるほど甘い状況ではなかったね。

──パワーといっても、何でもかんでもエイヤ! と投げて、ブンブン振り回して……というわけでもないですしね。

中畑 そりゃあ、そうだよ! バッティングの技術は全体的に年々上がっているわけじゃない? その代表的な選手としては内川(聖一)であり、柳田(悠岐)なわけだから。特に柳田はフルスイングしていながら、引きつけて逆方向に打ってスタンドに楽々放り込むというね。バッティングのスタイルは2000年代に入ってからも、かなり変わってきているなと感じているよ。もちろん、セ・リーグの選手も彼らに「追いつけ追い越せ」とやってはいると思うけどな。

──昨年までだと、交流戦によってその直前までの公式戦の勢力図が大きく変化することが多かったように思います。特にセ・リーグは、交流戦を経て混戦状態になりがちでしたよね。

中畑 いままでは、そうだったな。交流戦に入って「首位陥落」なんて見出しが新聞に出たりして。オレがDeNAの監督だったときがまさにそうだった、ワッハハハ!

──2015年のシーズンですね。

中畑 ただ、今年については、パ・リーグも交流戦に入る前のロッテや日本ハム、オリックスは状態がよくなかった。だから、星を五分に持っていくチャンスは十分あったはずなんだ。それが、交流戦ではオリックスが復活して、逆にセ・リーグは巨人が落ちた。今年、戦前の成績と大きく違ったのはこの2チームくらいだったな。あとはその前までの公式戦の流れのままだったところが多かった。

だが、特別な対策をしても意味はない

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──中畑さんがDeNAの監督だった当時は、交流戦前に選手を集めて、特別に対策を講じたりしましたか?

中畑 全然。まったくない。平常心というかさ。普段通りの野球をすればいい、ということでさ。結果は別にしても、実際、自分たちの野球はできたと思っているよ。そもそも、交流戦だからといって戦い方が変わるわけではないんだ。野球は野球だから。ただ、普段対戦していない新しい相手に対して、即対応していかなくてはいけないというところでの不安は、選手たちにはあったのかもしれないけれど、オレ自身や現場としてはそんな不安はなかった。

──ただ、そうは言っても、セ・リーグの監督からすれば、これだけパ・リーグに負け越している現実があります。パワー負けしているということであれば、その対策等をしてもいいのかなと。

中畑 いや、それはやっているよ。練習のなかでより速い球を打つようにしたりさ。そういう意識はちゃんと持っていて、できることはやっていたんだ。でもさ、技術的なことを特別に変えて、即、交流戦に対応させようなんて考えたら、逆にダメよ。意識過剰になっちゃう。結局、プロというのは自分の持っている力対力で勝負する世界だから。そして、その結果が「セとパでこれだけあります」と出てしまっているに過ぎないということ。それだけに余計にショックだけどな。

──そうすると、今年、菅野が楽天打線にあれだけやられたというのは……?

中畑 あれも大ショックだよ。「あの菅野が!?」だろう? その意味では、今年の交流戦はあの試合がすべてを象徴していたかもしれないな。だから、菅野は来年の交流戦では、どこを相手に投げるにしても結果をしっかり出さないと、本当の意味でショックを払拭できないかもしれないぞ。

──野球でできた借りは野球で、あくまで実力で返すということですね。

中畑 そういうこと! 菅野はセ・リーグを代表する投手でもあるわけだから、パ・リーグでそのとき旬の打線を彼が封じない限り、セ・リーグのトラウマは残る。そのくらいの気持ちを背負って向かっていってほしいな。その意味では、交流戦は終わったけれどもオールスターがある。来年と言わず、今年のオールスターで悪いイメージを取り払うような好投を見せてほしいね

(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。2016年から解説者に復帰した。

キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。


キビタ キビオ