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取材・文/田澤健一郎 写真/マーヴェリック

育成の秘訣は「レギュラーが移籍してくれること」!?

—ファイターズと言えば、若手選手の育成力に定評があります。木田さんは、その成功要因をどう捉えていますか?

木田 ひとつはスカウティング能力の高さですね。とにかく、能力の高い選手が入ってきてくれます。もうひとつは……レギュラー選手が、他球団へと移籍すること(笑)。そういう理由もあって、ファイターズは若い選手を使わざるを得ないんです。

―必要に迫られる、という一面もあるのかもしれませんね。ちなみに“能力の高い選手”の“能力”とはどういったものを指していますか。

木田 うーん、それを一言で表現するのは難しいですね。

―成功する選手の共通項などは。

木田 それはありません。僕らは、選手の可能性を探るのが仕事ですから「体力はないけど技術はすごい!」という選手を獲得することもあれば、その逆だってある。あるいはバランスのいい選手を獲るときもあれば、一芸に秀でた選手を獲る場合もありますし。

―それはチーム状況にアジャストする選手か、という視点ですか?

木田 というよりも、チームはいろいろな選手がいないと戦えない、という考え方です。「いまのチームにはここが足りない」というよりも「この選手は、将来、こういうポイントを助けてくれるのではないか」という視点を重視しています。言い方を変えれば、将来、チームを勝たせてくれる選手か否か、です。

ファームでも試合に出続けなければならない

―選手編成はバラエティ豊かな陣容の方がいい。

木田 大谷翔平がたくさんいればいいのかもしれないけど、そうはいきませんからね(笑)。いろいろな形でチームに貢献できる選手が揃っていた方がもちろんいい。我々は、チームがシーズンを戦ううえで、栗山監督にどれだけの選択肢をもってもらえるかが仕事ですから。

―若手の成長スピードという点では、いわゆる“プロで通用する体、体力”については、どのように捉え、育てているのでしょう。

木田 アマチュアと違って、プロは1年間、ずっと野球ができるかどうかが問われます。ファイターズは若手がどんどん出てくるといわれますが、それは野手のイメージが強いと感じませんか?

―たしかにパッと思い浮かぶのは西川遥輝選手、中島卓也選手、杉谷拳士選手、近藤健介選手などかもしれません。

木田 彼らはみな、まずファームでどんどん試合に出ているんですよ。他球団の若い選手は、育成選手もいるしファームでも試合の出方などは徐々に学んでいくように見えます。その点、ファイターズは最初から「何打席立たせる」という明確な数字を決めて試合に出します。選手たちはその環境、すなわち試合に出続けるなかで結果を出し、「使ってみたい」と思わせられないと一軍へ行けない。だから早い段階で、“1年間戦う能力”は身に付けていくことになるのです。

―たしかに試合に出続ける環境のなかで状態を整えたり、新たな投手対策や技術を身に付けて結果を出すのが一軍のレギュラー。その点の“慣れ”も経するという意味で、イースタン・リーグが、まさしく“一軍のデモンストレーション”の場になっている。

木田 試合数より打席数を目標値にするのもそれが理由です。

―試合数だと、守備や代打だけの出場でもカウントされますから納得です。

「既成概念を持つな」環境の変化に柔軟に対応

―木田さんは、選手としてもファイターズでプレーしました。現在、一軍の主力となっている選手とも一緒に過ごしたと思いますが、ファームの若い選手の意識も高いと感じましたか?

木田 選手教育は一生懸命やっていますが、やはり個人差はありましたかね。ただ、ファームの試合にどんどん出される分、ゲームに対する意識は高いという印象を持っていました。他球団では、ファームでも試合に出られない選手がけっこういます。彼らはまず、「練習でやったことを、どうゲームで出すか」ということを考えるでしょう。しかし、ゲームに出続けるファイターズの若手選手は、「前のゲームではこうだったから、次のゲームではこうしよう」と、ゲームありきでプレーすることになりますから。

―ただ、いくつかの球団は三軍を本格的に整備し、三軍戦も増やすことを打ち出しています。ファイターズは育成選手を獲得しない方針ですが、将来、三軍を設けて育成選手も獲得する可能性はあるのでしょうか。

木田 吉村GMがいつも僕らに言うのは、「既成概念を持つな」ということ。だから、ファイターズが育成選手をこの先も絶対に獲得しない、三軍もつくらないということはありません。大事なのは、三軍をつくってどれだけの意味があるか、という点。2016年のファイターズは支配下登録選手枠が5人余っている65人の選手で戦い日本一になった。この状況で、わざわざ育成選手を獲る必要はないでしょう? また、たとえば三軍から一軍選手を育成するのに、コストはどれくらいかかるのかも考えなければいけません。正直なところ、いまのファイターズはそこまでお金をかけられないのが現状です。

*編集部注釈:2018年シーズンに初めて育成ドラフトに参加

ファイターズが理想とする選手になれば、社会でも通じる人間になれることを目指す

―ファイターズは、トレードによる戦力補強も上手に利用します。2018年のシーズン中も、岡大海選手と、ロッテ藤岡貴裕投手とのトレードが話題になりました。

木田 トレードについては、吉村GMから「チームのためだけではなく、選手のため、球界のためになるのであれば検討する余地がある」と言われているんですよ。

―それは、前編でお話いただいたメジャーリーグのGMのエピソードのようですね。足を引っ張り合ったり、“飼い殺し”したりせずに選手の働き場所を考える。

木田 そうですね。球団間で足を引っ張り合うような意識はありません。チーム内でもそうです。僕も若い頃は、「あいつが打たれれば、オレが投げられるぞ」と思ったことがあるけど、ファイターズの選手には、少なくとも表面上はそれを言ってほしくない。チームメイトが打たれて喜んでいるような選手はダメですから。いままでの日本球界では、「他人を蹴落としてでも一軍に上がる!」のが良いとされてきた部分もありますが、今後はそういった考えを変えていくべきでしょう。たとえば一般の会社でも、自分の失敗を喜ぶような同僚がいたら嫌じゃないですか。基本となるのは、それと同じだと思います。

—人間性もかなり重視される感じですね。

木田 よく世間では、「プロ野球選手の前に一社会人たれ」と言われますが、ファイターズは違います。「ファイターズが理想としている選手になれば社会でも通じる」という形を目指すべきではないかと。すぐに結果が出にくいし、見えにくい部分ですが、そこを大事にしなければならない。こういった教育を通じ、「ファイターズの優勝が一番だ」と思える選手が増えていけば、チームはきっと強くなるはずです。

(プロフィール)
木田優夫
1968年、東京都生まれ。1988年、日大明誠高からドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。3年目に12勝をマークし、以降、先発・リリーフと多彩な活躍を見せる。オリックス移籍を経てメジャーリーグでもプレー。日本復帰後はヤクルト、日本ハム、独立リーグ・石川ミリオンスターズにも所属した。日米通算581試合に登板して74勝83敗51セーブ。2014年に引退した後、現職。

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「自分で考えろ」日ハム"育成力"の秘訣を木田優夫GM補佐に聞く(前編)

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田澤健一郎

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。