一軍初出場を記録した野手は12球団ダントツの数!
「見ていて面白い、わくわくするようなチームを作り、監督やコーチ、一軍も二軍もフロントも結束して、結束力のある戦う集団を作りたい」と昨年の就任会見で言った金本監督。その言葉通り、開幕から興味深い采配を多く見せた。
開幕戦、1番レフト・高山俊、2番・横田慎太郎というフレッシュな1、2番で挑む。横田が期待したような結果を残せなかったこともあり、10試合ほどでこの1、2番は終わったが、金本監督は高山や横田以外にも若手を積極的に起用した。
今季、一軍初出場を記録した阪神の野手は7人でオリックスと並び12球団で最多だが、一軍初出場を記録した野手の合計試合数377、打席数1250はともに12球団でダントツだった。
ルーキーの高山は136安打を放ち、シーズン通算安打の球団新人記録を更新。打率.275、8本塁打、65打点でセ・リーグの新人王に選ばれた。阪神の選手では2007年の上園啓史以来9年ぶり、野手では2001年の赤星憲星以来15年ぶりの受賞だった。また、猛打賞13回は、NPBのルーキーとして1958年の長嶋茂雄(巨人)に次いで歴代2位。走者がいないときは309打数73安打、打率.236だったが、走者がいるときは185打数63安打で打率.341と新人離れした勝負強さも光った。
北條史也は、昨季まで一軍では1試合1打席の出場しかなかったが、今季122試合に出場し、438打席105安打、5本塁打、打率.273と一気に出場機会を増やした。守備での衰えが目立ってきたショート・鳥谷敬の後継者育成が近年の課題だったが、北條が出てきたことでその見通しは明るくなった。
そして、“超変革”の象徴ともいえる存在が原口文仁だ。これまではケガに苦しんでいたが、4月27日付で3年ぶりに支配下登録へ復帰すると、同日の巨人戦で一軍デビュー。5月に打率.380、5本塁打、17打点の好成績を残し、育成契約を経験した野手では初となる月間MVPを受賞した。シーズン通算では打率.299、11本塁打、46打点という数字を残した。捕手としては課題が山積みでコンバートも検討されているようだが、チーム待望の右の大砲候補として存在感を大いにアピールしたと言える。


ひとつの先の塁を狙う姿勢で犠飛はリーグ最多

攻撃面に関し若手の起用以外で特徴的だったのが、走塁だ。開幕戦で投手のランディ・メッセンジャーが盗塁を決めてファンの度肝を抜いたが、ひとつ先の塁を狙う姿勢はほかにも多く見られた。
それを証明しているのが犠飛の多さだ。阪神の犠飛は38でリーグ最多。昨季の28から10個も増えた。犠飛を打つためには、基本的に走者が三塁にいる必要がある。今季、阪神のチーム打率はリーグワーストの.245と打てなかったが、三塁に走者を置いた場面での打数は464でリーグ3位である。
犠飛は打数に含まれないが、それでも三塁に走者を置いた場面での阪神の打数は少なくなかった。また、一、三塁の形を作るのが攻撃の理想とも言うが、当該条件での阪神の打数は148でリーグ2位。チームの盗塁数はリーグ最少の59だったが、機動力のなさをひとつの先の塁を狙う姿勢でカバーしたことが見えてくる数字だ。

最後まで決まらなかった勝ちパターンの継投
野手と比べて一軍初出場を記録した投手は4人と少なかった。4人の合計登板数は22、投球回は82。登板数、投球回ともに12球団で7番目の数字である。
そのなかで最も経験を積んだのがルーキーの青柳晃洋。一軍登録と抹消を何度も繰り返しながら、13試合に登板し4勝5敗、防御率3.29。被打率.175は阪神の主力投手のなかで最も低かったが、与四球率が5.27。荒れ球で相手に的を絞らせなかった。
チーム前提で見れば防御率はリーグ2位の3.38。リリーフ陣は、リーグ3位の防御率3.29と安定していたように見えるが、勝ちパターンの継投を最後まで固定できなかった。チームのホールド数はヤクルトに次いで少ない81。チーム最多ホールドは、FAで中日から移籍してきた高橋聡文の20ホールド。クローザーも、開幕からしばらくはマルコス・マテオが務めたが、6月にラファエル・ドリスと代わり、8月からはまたマテオに代わるなど固定できなかった。アメリカから戻ってきた藤川球児は、開幕から5試合は先発として登板し、リリーフになっても全盛期のピッチングからはほど遠い内容だった。
さまざまな議論を呼んだ藤浪の161球
先発陣の防御率はリーグ3位の3.43。先発し6イニング以上を投げて自責点3以下に抑えたクオリティースタート(QS)の確率は広島に次いで高い60.8%。この数字だけを見れば、先発陣は役割を果たしたと言える。
だが、イニング別の失点を見ると初回に9イニング中最多の87失点。セ・リーグのなかでは90失点の中日とヤクルトに次いで多く、3回にも81失点を喫していて序盤に点を取られることが多かった。6イニングを3自責点以内に抑えればQSは記録されるものの、序盤に失点することが多ければ先発としては物足りない。

初回や序盤に失点することが多かった阪神の先発陣だが、その典型が藤浪晋太郎だ。藤浪のイニング別失点は初回の25失点が最多、次いで多いのが2回の10失点。藤浪は、先発した26試合中11試合で初回に失点を喫し、そのうち9試合が相手の先制点だ。初回に限らず相手に先制点を与えた試合は26試合中15試合と半数を超えている。藤浪のQS%はリーグ6位の69.2%で、防御率も3.25と悪くないが、7勝11敗と負け越したのはこのあたりに原因がありそうだ。
ところで、藤浪に関して金本監督の采配が大きな議論を呼んだ試合がある。7月8日の広島戦で先発した藤浪は初回に3失点。2回と3回にも1失点ずつを喫したが続投。8回を投げ被安打7、与四球5、奪三振13、失点8。球数は161球で、投手の分業化が浸透した近年では異例の球数で、懲罰の意味合いもあるのではないかと金本監督に批判的な声もあった。
161球を投げた7月8日の試合前までの藤浪の成績は4勝4敗、防御率3.18。161球を投げたあとの成績は3勝6敗、防御率2.62。負け越してはいるが、防御率という点ではよくなっている。だが、藤浪が明らかによくなったとも言えず、果たしてあの続投が藤浪にとってどこまで意味があったのかは現時点では分からない。
“超変革”の下、若手に多くの出場機会を与えた金本監督。高山や原口のように目覚ましい結果を残した選手もいるが、一方でただやみくもに若手を使っているだけに見えたときもあった。走塁面での改革は進んでいるように見えるが、投手陣は先発もリリーフも軸となる選手が出てきていない。今季、経験を積んだ若手が来季以降にどれだけ生かせるか。“超変革”が成功だったか否か本当の意味でがわかるのは、これから2~3年後になるのかもしれない。
(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。