衰えが見えはじめたエース・金子千尋

チーム打率.253、499得点、防御率4.18はいずれもリーグワーストと投打に精彩を欠いたオリックス。すべてにおいて反省材料が多いシーズンだが、まずは投手陣から振り返っていく。

 先発投手陣は、金子千尋、ディクソン、西勇輝、東明大貴、松葉貴大の5人で主にローテーションを回して、2桁勝利は10勝の西ひとりだけ。規定投球回に達したディクソン、西、金子のうち最も防御率がよかった金子でも3.83(リーグで10位)とエースとしては物足りない成績だった。

 2014年に最多勝、最優秀防御率の2冠に輝き沢村賞も受賞した金子だが、昨季はケガもあり規定投球回に達することができなかった。今季は、通算100勝に球団史上最少タイの敗戦数(56敗)で到達したものの、自身初の負け越しを記録するなど不安定な投球が続いた。

 三振数を四球数で割ったK/BB(※1)は昨季の4.39から2.12に低下し、ゴロアウトとフライアウトの比率を表すGO/AO(※2)も1.32から0.98とフライアウトのほうが多くなった。一般的にゴロよりもフライやライナーのほうが長打はうまれやすいとされるが、金子が打たれた安打の内訳を見てもそれは一目瞭然だ。

 今季、金子が打たれた143安打のうち、長打は二塁打が27、三塁打が6、本塁打13の合計46本。安打のうち長打が占める割合は32.2%だ。昨季の21.2%から10%以上も増えている。11月で33歳になることもあり、年齢的にも上がり目は望めないかもしれないが、抜群の制球力で打者を手玉にとった投球を取り戻したい。

ルーキー・山岡泰輔と黒木優太は起爆剤となれるか?

リリーフ陣の防御率は3.95でリーグ5位だったが、その数字ほど悪い内容ではなかったように感じる。とくに後半戦は、塚原頌平、吉田一将からクローザーの平野佳寿につなぐ形ができ、チームに安定感をもたらした点は来季への希望材料だろう。左腕の海田智行も50試合に登板し15ホールドと、若手の底上げはできた。

 ただし、安心はできない。近年のオリックスのリリーフ陣は、2年続けて結果を残す投手が少ないのだ。今季の場合は佐藤達也が防御率5点台とそのジンクスにはまってしまったが、登板過多による疲労も否めなかった。そのシーズン全体だけでなく、以降数年を見据えたブルペン運営を心掛ける必要があるだろう。

 リリーフ陣にメドがたったこともあり、来季は先発陣の復調がカギになりそうだが、ドラフトで山岡泰輔(東京ガス)の単独指名に成功したことは大きい。ただし、145キロ前後の速球と切れ味鋭いスライダーを中心とした投球で常に試合を作れるが、この1年での成長はあまり感じられなかった。現段階では速球に若干物足りなさを感じるだけに、スライダーを見極められるようだと厳しい投球が続くはずだ。

 山岡が額面通りの力を発揮できればいいが、もしかすると2位で指名した黒木優太(立正大)のほうが1年目はチームに貢献できるかもしれない。山岡同様、黒木も145キロ前後の速球を投げるが、変化球は縦と横のスライダー、カットボール、カーブ、チェンジアップと山岡より多彩だ。スタミナも問題ないが、リリーフの一角として起用してもおもしろそう。黒木がリリーフにはまれば、吉田や塚原を先発に回すこともできる。

中島宏之が調子を取り戻し、ルーキー・吉田正尚が評判通りの打棒発揮!

©︎共同通信

野手陣では、ひざのケガが癒えた糸井嘉男が完全に復調。自己記録を大幅に更新する53盗塁を記録し、金子侑司(西武)と並び盗塁王に輝いた。打率もリーグ4位の.306と中軸として打線をけん引した。

 復調と言えば、中島宏之もまた夏場以降に不振から抜け出すことに成功した選手だ。昨季から今季の途中まではケガに悩まされたこともあったが、それだけでなくどこか攻守ともにどんよりとした印象だった。実際に今季も、6月末までの成績は打率.235、2本塁打、11打点とかつての面影はまったくといっていいほどなかった。

 しかし、8月に一軍復帰してからの中島は一変。西武時代を思わせるような動きに加え、打球に鋭さも出てきた。復帰後は51試合に出場し182打数60安打6本塁打36打点、打率.330。今季の後半戦のような打撃を来季の開幕から見せられれば、オリックス打線もより活気づくに違いない。

 後半戦の明るい話題は、ほかにもあった。ケガで離脱していた新人の吉田正尚が8月中旬に復帰すると、42試合で10本塁打を記録する派手な活躍を見せる。170打席で10本塁打ということは、単純計算で500打席に立てば約30本塁打を記録することになる。けれんみのないスイングは来季のさらなる飛躍を予感させるが、シーズンを通してプレーできるスタミナをこのオフにどれだけつけられるかがすべてだ。心身ともに万全であれば、来季の本塁打王争いに顔を出してもおかしくない存在と見ていい。

どこまでも低調だった外国人野手

糸井や中島、吉田にT-岡田と日本人選手がある程度期待通りの成績を残す一方で、外国人野手は期待を大きく裏切った。

 楽天に次いで多い4人の外国人野手が一軍でプレーしたが、合計16本塁打、73打点は、いずれも複数の外国人野手が所属したパ・リーグのチームのなかで最少だった。2桁本塁打を記録した選手はひとりもおらず、最も高い打率を残したブレント・モレルでも.244では。とても助っ人とは呼べない。モレルは来季も残留の見込みだが、パワーヒッターを最低でもひとりは補強しておきたい。シニアアドバイザー(SA)に就任した長谷川滋利氏の手腕に期待だ。

エース金子をはじめとした先発陣の不振、リリーフ陣は勝ちパターンの継投を見出すまで時間がかかり、シーズンを通した運用もできなかった。野手に目を向けても、日本人野手はある程度結果を残したものの、外国人野手は総崩れの状態だった。投手陣はルーキーの山岡や黒木に期待しつつ、リリーフ陣の役割を早い時期にはっきりさせること。野手は、一発を望める外国人選手を補強することが来季への課題となる。

 投打ともに課題は多いものの、ひとつのきっかけで大化けする可能性が高い選手も多いオリックス。今オフには、打撃と守備の両面で貢献度が高かった糸井嘉男がFAで阪神に移籍した。戦力的には大きな痛手だが、逆に考えれば一からチームを作り直すことができる。福良監督2年目の来季こそ、明るい話題を少しでも多く提供してほしい。

(※1)K/BB(Strikeout to walk ratio)
数値が高いほど三振が取れて四球が少ないことを示す指標。コントロールがよくて、バットに当てさせないボールを投げられる、投手としての純粋な能力を表す。

(※2)ゴロアウト/フライアウト比率(GO/AO)
ゴロアウト(GO)の総数をフライアウト(AO)の総数で割り、ゴロアウトとフライアウトの比率を調べる指標。ゴロアウトとフライアウトが同じ 数の場合は1となり、これより数値が大きくなるほどゴロアウトの割合が高く、数値が小さくなって0に近付くほどフライアウトの割合が高い投手となる。

(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。


京都純典(みやこすみのり)